Darkness of genetic manipulation〜被験者16423番〜

倉林 アルマ

report.1

壁、壁、壁・・・・・・それが物心ついた時に俺が抱いた感想だった


時々ある自由時間、独房から出て外の世界を見渡すも見えるのは立ちはだかる600mの壁


まるで空まで吸い込まれるのでは無いかと錯覚する程だった


当然、何も見えるはずがなく、見えるものといえばコロコロ変わる空と東京スカイツリーと呼ばれる建造物のみだった


時は西暦2210年・・・・・


人類は世界で最も解決が困難とされてきた地球温暖化という問題を全世界の叡智をもって解決


人類滅亡を何とか乗り越えた


さらにこの惑星最大の問題を解決した人類は

既に作物や動物などに利用していた


遺伝子開発を自ら人類にも使用を始めた


当初、始めの頃は自らの身体の情報体である

遺伝子を操作するなど倫理的、人道的に大問題だとされ

世界中で多くのデモ運動、反対意見も各地の国会や国連会議でも出された


が、しかし戦争やテロ、犯罪が徐々に現状していくにつれ反対運動やデモなども次第に沈静化していった・・・・・


しかし、どんなに自らの個体を優秀にしていっても一定数のいわゆる世間でいうところの

「ガン」と呼ばれる存在は実在するとのなのだ


働き蟻の法則をご存知の方も多いであろう


八割の大多数のアリは動きに多少の差こそあれその集団の為に貢献するのだ


しかしどうだろう他の二割くらいはその集団に貢献せずただただ意味も無く歩き回ってるだけだ


仮に、その二割を取るとどうなるだろう?


不思議なことにこの前まで真面目に働いていた八割の中からまた二割がサボり始めるのだ


そしてその二割を可能な限り抑えるのが生まれてすぐに行われる遺伝子調査というものだ


推定される知的指数や身体能力、そしてコミニュケーション能力など細かい数字を事細かに推定する


そして僕達一族がこの「強制収容所」に生まれながらにして収容されているのもその遺伝子調査の賜物というわけだ


僕ら一族はこの「遺伝子細部調査管理計画」

通称DGPが法律で可決され施行される200年前にこの政策に反対し続けていた政府の中心派閥だったのだ


そしてこの法律が国の中で認められ実行されるや否や、僕ら一族にもすぐに調査が入った・・・・・


当時の祖父は最後まで断固、この政策に反対し拒否をし続けたが調査は強制的に行われ結果は・・・・・・


「社会復帰更生不可の犯罪指数AAA」の烙印を押され、同じ結果だった一族も皆、

強制収容所行きとなった


当然、同じ派閥のなかまたちも手を挙げ反対意見を出したそうだが


この時、この法律が世に放たれて二年以上が経過していた


この二年で犯罪やテロは劇的に減り

初めは不安と恐怖に染まっていた大衆市民も

この環境にすっかり慣れてしまったのだろう


その為、法案に反対していた人々も次第に今の現状を支持していき、最後には政策に反対していた私たちの派閥が犯罪者として祭り上げられる事となった


そして現在まで200年間・・・・・僕らの一族は強制収容所の最上階に位置する30階に収容されていた


この建物の作りはAAAが最上階Dが最下層部となっている


おそらく、罪の重いものや犯罪指数の高いものを逃さないようにするための仕組みであろう


犯罪指数C〜Dの人間は何年かこの施設で労働に従事しプログラムを受けて社会復帰できる


為、わざわざ脱獄する愚かな人間はいないというわけだ


もうこの暮らしも15年・・・・


正直、退屈といえば退屈ではあるが外の世界を見たことがない以上これ以上は何ともいえない



ブーッ!!!!!!!



部屋の面会五分前のベルが鳴る


おっと、そういえば今日は確か二週に一回の母との面会の日だったな


と思い慌てて立ち上がり、扉の方へ向かう



「囚人番号16423番、面会の時間だ」



とタイミング良く低く図太い看守の声が

部屋の中に響く


この強制収容所はB以上の判定を下された犯罪者の場合、全て独房となっており、面会

する時間も限られてくる


何故、そこまで厳重であるかといえば、B以上の犯罪者ともなってくれば殺人や誘拐などの重犯罪者が多数を占めている


その為、同じ部屋に複数の囚人を収容している場合、脱獄を試みる可能性が出てくるのだ


無機質なコンクリートでできた飾りっ気のない廊下をただただ真っ直ぐ進むと、行き止まりの壁の横に扉が一つついている


正面にこれ以上行き先が無くなり、扉の前に立つと扉はまるで少しの摩擦もないように

スーッと開き、中を覗くともう一人、

看守が部屋の隅に座っており看守が




「囚人番号16423番、これから囚人番号15829番と1時間面会の時間を許可する」




とだけ告げた

そして正面の椅子に座ると




「久しぶりね、栄太郎」




母の柔らかい声が面会室に響いた


通常、この強制収容所では名前を名乗ることは規則上許されていないのだが・・・・


今は親子水入らずの時間と判断されたのだろう


後ろに控える看守の方に目をやるが、特に何も起こらないようなので

黙認ということなのだろう


ホッと一息吐き、俺も返事を返す




「久しぶり、母さん

とは言っても二週間ぶりなんだから、

そこまで久しぶりってわけではないでしょ

後、無理して名前で呼ばなくていいよ

正直、見ていて毎回ヒヤヒヤするんだ

別に囚人番号で読んでもらって構わないんだよ?」




と、思っていたことを率直に伝える

しかし、母はつっけんどんに言葉を返す




「馬鹿なことを言わないの!!

誰が自分の息子を囚人番号で呼ぶものですか!

もし、仮にそれで規則違反になって処罰を受けても私は栄太郎のことを名前で呼び続けるわ」




毎回のことだが、こうやって真っ直ぐにいろんな意見をぶつけてきてくれるのは


この何も刺激のない灰色の生活に色を与えてくれるようでとても

心の拠り所となっていた


その後、約45分他愛の無いような話をした


食事はしっかりとってるかや先週の面会では

お父さんと何を喋ったかなど

母は普段俺がどんな生活をしてるか興味が尽きないようだった


そして面会時間も残り10分を切ったところで

母の顔つきが急に豹変し、


そして、息を殺すような声で




「私の後ろの看守・・・・・

もう寝てる?」




急に何を言い出すのか


全く先の読めない話でありひどく困惑したが

目線で看守の様子を確認し・・・・



「あっちの看守は居眠りしてるよ

急にどうしたの?」



とにかく急いで答えを返した


母がこれからとても重要な話をする・・・

今までに無い顔つきや様子から、

何か得体の知れない不気味な予感がした


こめかみから汗が滴り落ち、手も手汗で

ビッショリとなっていた




「いい?栄太郎

これからする話は本当に重要なことよ

もう笑い事まで済まされないとこまできてる

もし失敗すれば、最悪の場合一族皆、

いえ・・・・このフロアにいる派閥全員が皆殺しにされるかも知れないわ

そしてこの話の要になるのは、栄太郎、貴方よ

でもね、無理して受ける必要はないわ

ただ貴方以外の人間が要の部分を実行する場合は成功する確率は5%にも満たないわ

ゴメンね・・・・・・

貴方にプレッシャーをかけるつもりはないのだけれど・・・・・

どうする?本当に危険なことよ?」




母から出た一言一言は自らが想像してたものを遥かに凌駕するものだった


しかし母が一族、ひいては派閥のみんなを

天秤にかけるほどの大事・・・・


正直言うとかなり怖かった・・・・・


だがもしその計画が成功した場合、帰ってくるリターンも莫大なものに違いないだろう


どちみち死ぬまでこの刑務所のような場所で不毛に毎日を過ごすならば、やってみる価値はあるかも知れない・・・


どうせ死ぬのも早いか遅いかだ




「分かったよ、母さん・・・・

俺がやるよ。

けどもし成功した場合

何がどうなるんだい???」




「それはーーーーーーーーーーーーーー」




止まっていた時間が少しずつ動き出す








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