メリークリスマス
硯
メリークリスマス
ヽ
「メリークリスマス」
この言葉にどういった意味が込められているのかを知らない人間は多い。その事実は■■の抱く悲嘆を大きく膨らませた。
■■は決心した。メリークリスマス。その言葉を正しい形で世間に叩きつけてやろうと。
村へと下る道中にて、向かい側から歩いてきた赤と白の衣装に身を包んだ恰幅のある商人達が■■へと声を投げてくる。彼らの引く荷馬車には白く太った袋ばかりが積まれており、その光景は■■の眼窩を著しく沸騰させた。
「メリークリスマス」
クソクソクソ。このクソバカ野郎共め。■■は懐から刃渡り30cmに及ぶ包丁を引っ張り出し、先頭を歩いていた商人の喉笛を切っ先で食い破る。
商人のぶかぶかとした分厚い顎肉が裂け、桃色の脂肪と黒ずんだ血液が濁濁と流れ出す。喉を切り裂かれた商人は「メリリー」と間抜けな息を口唇から吹き出しながら背後へ転倒し、地面の同じ位置をばたばたと暴れ回った。
「メ、メリメリ!?(これは一体全体何事かね!?)」
「メリ! メリリリー!(暴漢じあ! ひどい暴漢じあ!)」
「メリッ! メリメリッ!! クリクリ!?(きゃあっ! 大変よ大変!! さっさと逃げにゃならんのでは!?)」
列を成していた商人達は火であぶられた蟻のように混乱し、思い思いに叫び始める。この状況は■■が最も嫌悪する事態であった。彼は懐から引っ張り出した手榴弾を商人達の群がる地点まで放り投げた。
かららんと転がる手榴弾はものの数秒で爆ぜ、飛散した内蔵鉄針が商人達の全身に深々と突き刺さる。一人は膝から下が弾け飛び、一人は顔が全面焦げ付き、一人は両手の指が全て千切れた。
「メメメメメリイイイイイー!!(痛い!!)」
「クリスマー! メリクリスマ!!(死んじゃうの! あたし死んじゃうの!!)」
「メリッ、メメメ(おお、神よ)」
等しく肥えた商人達はさながら肌が赤いサボテンのような姿になり、悲鳴をあげながら横転した。
クソ。この言葉がまさか断末魔として使用されてしまうとは。これではサンタさんに顔向けができない。考えに考え抜いた■■は道端に転がっていたガソリンタンクを担ぎ上げ、地面を転げ回る商人達の上から中身をばらまいた。
「メメメメ!?(なんだこれは!?)」
「リマス! リマクリクリ!(やめて! これ以上なにをする気なの!)」
「メリークリークリマース!!(これはガソリンじゃあないかね!!)」
■■はガソリンにまみれながら喚く商人達に向かって、着火されたマッチ棒を放り投げた。
クソ野郎どもめ。冥土の土産に教えてやろう。これが正しいメリークリスマスという言葉の使い方だ。
「メリークリスマス!!!(メリークリスマス!!!)」
直後、■■と商人達は爆炎に覆われた。
彼らは最後の最後でようやく理解し合えた。そして互いを讃え合うかのように肩を叩きながらジングルベルを合唱し、天へと昇るのであった。
メリークリスマス 硯 @InkJacket13
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