ただ一度の人生を

@nuberinian

第1話 もしも僕が作家になってなかったら



 あのとき他の道をえらんでいたら、後悔のない人生を送れただろうか。


 そんな不可逆の疑問に一文の値打ちもないことは僕だって十分わかっている。

 けれどそいつはときどき、慌ただしく過ぎるバイト暮らしと手ごたえのない作家生活の両糸の合間でほころびのように生じては、際限なく乱れてはほつれ、僕の心を静かに蝕む。

 もっとマシな道だってあったはずだ。

 二十歳の夏。あのとき、もう少し賢く立ち回れていたら、こんなことにはなってなかっただろう。こんなもしもの話、僕だって情けなくてしたくはない。だけれど、日常の些細な場面で躓いたり、失敗したり、打ちのめされたりするたびに、頭が勝手に、ほとんど自動的に、違う道を歩いている自分の姿を思い描き、僕に後悔を強いる。

 誰にだってそういう経験はあるだろう。

 あんな奴と付き合っていなければ。こんな会社を選んでいなければ。あのときもっと勉強をしていれば。もっと良い大学に入っていれば。プロポーズをしていれば。諦めずに夢を追っていれば……。立ち止まり、過去を振り返り、人生の岐路がどこにあったのかを思い返し、誤った道を着てしまったのではないかと後悔する。

 今の僕が、まさにそうだ。

『先生にはあのとき別の選択をしていたらって、考えるようなことはありませんか』

「はぁ」

 担当編集者の不意の質問に僕は思わず、この仕事を選んだことこそがそうだ、とヤケクソ混じりに言ってしまいそうになった。

 十二月二十五日の夜のことだ。

 三か月ぶりの編集者との電話による打ち合わせで、僕は三か月かけて書き上げた新作原稿のボツを食らった。一部修正でも、書き直しでもない。企画そのもののボツ。準備期間も含めて半年。寝る間も惜しんで注ぎ込んできたすべてが「ない」の一言で片づけられた。

 僕は落胆と失望でしばし言葉を失った。

 いままで経験がないわけじゃない。今回で二回目だ。いつも覚悟はしている。でも、よりにもよって、聖なる夜に受けていい宣告じゃない。

受話器の向こうの担当の声はボツを言い渡したときとは打って変わって、どこかウキウキしている。言いにくいことを言い終えて、肩の荷が下りている感じだ。作家のお通夜ムードも気付かぬフリで行先不明な雑談をはじめようとしている。

『別の大学に入っていればとか、あの子と付き合っていればとか。そんな風に思うこと、先生にもありますよね』

「まぁ、人並みには」

 これは『例えば、どんなのですか』と聞かれる流れだろうか。いや、とっくに聞かれているのかもしれない。それが瞬時にわかったから、僕は「人並み」という言葉を使った。「人並み」という返答には「他の人と同じ程度には」という意味と、「平凡だから聞いてもしょうがないぞ」という牽制の意味が込められている。

 人生における後悔とか未練とか「もしあのとき、こうしていたら」とか、「ああしていなければ」とか。そんなのは生産性がないうえに、自分の女々しさをひけらかすだけだ。ましてそれを付き合って半年にも満たない編集者には打ち明けるだなんて。到底ありえない話だ。

 しかし、本人はどうしてもこの話を深堀したいらしい。

 牽制を無視して踏み込んできた。

『例えば、どんなのですか?』

 僕は当たり障りのない返事に努めた。

 間違っても真面目に人生の後悔と未練を口にしてしまわないように『昼はカレーにしていればよかった』とか『ハーモニカじゃなくて革靴を買っておけばよかった』とか。そういうくだらない未練の話をしながら、僕は六畳の居間を占領する炬燵に身を埋めた。

 卓の上には打ち合わせのために出力した一二七枚の原稿が虚しく横たわっている。今しがた担当編集者によって「商品価値なし」と判断された殻を破れぬ卵だ。電話を切ったら即座に燃えるごみの袋に打ちこもう。

 HDDレコーダーの液晶パネルが午後10時からはじまるテレビ番組を録画しようと赤く明滅しはじめる。もうそんな時間か。音が五月蠅いと思って消したエアコンに再びリモコンを向ける。外で室外機がうねりを上げる。

 編集の話が、ただの雑談でないことはわかっていた。

 何十人もの作家を抱えている十代向けの小説の編集者が、わざわざ原稿のボツとしょうもない無駄話をするために電話をしてくるわけがない。ボツ宣告はあくまでついでだ。原稿を火にくべたり、企画書を裁断してメモ紙にするとき、大抵の編集者は律儀にメールを返したりしない。原稿の却下を告げることは作家の逆上を招くだけでリスクしかないからだ。連絡をとりさえしなければそうした作家とのトラブルは半減する。作家は気が弱いからいちいち返答の催促もしないし、無視していれば作家は「ボツになったんだ」とすぐに察してくれる。運がよければ自分が作家として使い物にならないことまで自覚して、潔く自分から筆を折ってくれる。催促を欠かさない作家ならば「忙しくて返信できませんでした」と見え透いた嘘でもついて誤魔化せばいい。みんな本が出したくて仕方ないから、担当にどんな扱いを受けても文句は言わない。編集からメールがあるときは企画に好感触を示したときか、あるいは編集者の方でその作家に書かせたいアイデアを思い付いたときだけだ。

 で、今回は明らかに後者だった。

 デビューから八年。

 結局どんな企画書を提出しても、担当編集者の思いつきで出たアイデアで企画書を書きなおした方がずっと本が出しやすい。編集者を発注業者。作家を製造業者として割り切れば、そういう仕事の仕方もありだ。

『こんな話知ってますか』

 よっぽど無下に「知りません」と答えたかったがぐっと堪えた。

『中高生の間で噂になっているんですけどね。SNSで自分の名前を検索すると、ときどき自分と同じ生年月日と出身地の人間がヒットするらしいんですよ。それも一日にほんの三十秒だけ。で、その間に友達申請をして許可されると、それ以降ずっとそのSNS上だけで相手と繋がっていられるらしいんですけど』

「はぁ」

『で、その同姓同名同郷同生年月日の人物というのが、実は今の自分とは全然違う人生を生きてる別の世界の自分らしいんですよ。要するにパラレルワールドっていうんですか。面白くないですか。例えばA子ちゃんと結婚した自分と結婚しなかった自分とでお互いに「一緒になってどうだった」とか「じゃ、結婚しないで今はどんな女と付き合ってんだ」とかって、意見交換できるんですよ』

「なるほど」

 いかにも初聞きのようなリアクションをとってみるが、その手の都市伝説には正直言って担当編集者よりは詳しい。アルバイト先に国立や私立の大学生たちが山ほどいるからだ。

 試したこともある。

 同姓同名までは割といるが、生年月日や故郷まで一緒というのはさすがになかった。一日に三十秒だけヒットするという話だけれど、一時間あたり一二〇分の一。一日あたり二八八〇分の一の確立だ。一日に二八八〇回も自分の名前を検索していられるほど暇なやつがこの世界にいるとも思えない。いや、検証することは重要じゃない。担当が言いたいことはおそらく、その都市伝説を生かして何か書けないかということだ。

『例えば「好きな女の子と付き合えてるけど、勉強がすごいできなくて進路が絶望的な自分」と「勉強はできるけど、好きな女の子を友達に取られちゃった自分」がSNS上で知り合うんですよ。あ、一応高校生の話ですよ』

「はぁ」

『で、勉強ができる方の主人公は驚くんですよ。「俺、あの子に振られたのに。なんでそっちの俺は付きあえてんの」って。でも、女の子と付き合ってる方の自分も「この俺が、国立狙えるのかよ。やっぱり文系よりも理系にしとくんだった」ってびっくりするわけですよ。それから二人は一方は勉強を教えて、一方は女の子を口説く方法を教えて、って感じで協力しあって互いの人生を良くしようとするんですけど、あるとき一方の世界の女の子だけ事故に遭っちゃうんですよ』

「なんでですか」

『そこまでは考えてないですけど、どうです。面白そうじゃないですか?』

「はぁ」

 面白い、かもしれない。

 編集者の弁は次第に熱を帯びた。

『先生の過去作を読んでも思ったことなんですが、先生はバトルものよりもヒロインとの恋愛とか、青春ドラマに徹した方が、持ち味を生かせると思うんですよ。ほら、デビュー作の「新天地ライタホリック」でいえば、絵描きの少年と主人公の関係性とか、すごく切なくてぐっとくるものがありましたから、今回はああいった面を全面に押し出す感じで』

「はい」

 気がつくと僕はボツになった原稿の裏紙をメモにして、必死に書きつけていた。走り書きに〇で囲いをつけたり、矢印をつけたり、赤のボールペンで強調したり。同時に頭の中でアイデアを膨らませていく。

『僕の案はあくまで例えばの話ですから、先生の方で中身は変えてもらって結構です。ただし話はできるだけシンプルにしてください。さっきのとこでいえば「パラレルワールドの自分と協力して、好きな女の子を救うお話」みたいな。一行で内容が説明できるように』

「わかりました」

『では、締め切りを作った方がいいですね。今日が二十四日ですから、年明けの六日までにあらすじと人物を一ページにまとめて送ってください』

「六日までに。一ページ。はい」

『じゃ、返事お待ちしています。それでは良いお年を』

「あ、はい。良いお年を」

 電話を切って、座椅子に身を預ける。

 しばらく天井を見つめた。築二十年以上のボロアパートは、照明の意匠にどことなく九十年代はじめの赴きがあった。隙間風とまではいかないけど窓際はやけに寒いし、備え付けのエアコンも明らかに前世紀のもので領収書にバカ高い電気代を刻むだけで炬燵並みの暖も与えてくれない。それでも昼間は日当たりがよくて、柔らかい日差しが八畳の居間を抜けて、台所の炊事場のマットまで届く。大学卒業後の三年間を真っ暗な東京のアパートで過ごした身としては日当たりの良さは何ものにも代えがたい。とはいえ、最近は夜勤のアルバイトの影響で十六時まではもっぱら布団に引っ込んでしまっているが。

 夕方に起きて、バイトに出かけ、深夜二時にアパートに帰ってきて、朝の九時まで原稿に向かう。そんな日々とはプロデビューとともに別れを告げたはずだったのに、僕の身体はまた昼間の太陽から追い出されるようにして夜に逃げ帰った。あまりに日光を浴びなさすぎて、ときどき頭に靄がかかったような感じになる。人間は梟にはなれない。月灯りは健康な肉体と精神を与えてはくれない。この頃、また昔みたいに陰鬱で出口のない後ろ向きな考えが夜を深く下るに連れて僕を底なしの沼に引き込みつつある。

 前の作品を出版してからもう一年以上が経った。

 友人たちや職場の同僚は依然として僕を「作家」として見てくれているが、僕からしたら一年以上も新作を発表していない作家は作家とは呼べない。読書メーターの登録数もデビュー作にわずかな変動が未だに観測されるだけで新作の方はうんともすんとも言わない。ファンレターも来ない。近場の本屋からは毎月発刊される新人作家たちの勢いに推されて、ついに僕の作品は行き場を失って返本されてしまった。

 一方、新古書店では日に日に僕の本が目に見えてダブつくようになってきた。

 もう誰も僕の作品には目もくれない。わかっているのに毎日ツイッターで自分のペンネームを検索するのを止められない。

 生活を支えているのは月十万前後ほどレンタルビデオ屋の給料。今年は印税収入もないから年末調整だけで確定申告に行かなくてもいい。半端に収入があったおかげで毎月課されていた高めの住民税も元の額に戻る。今より生活が楽になる。

 でも、嬉しくない。

 まだ三十三歳なのに気分は栄光から転落した過去のスター俳優って感じだ。新人賞の楯や本棚を飾る著作が日に日に痛々しさを増していく。終わっちゃったのかな。バカ、まだ何も始まっちゃいないよ。でも、もう二度とはじまらないかもしれない。

 小腹が空いた午後十一時。朝の九時に寝る夜型人間にとっては普通の人の十四時と同じくらいの時間だ。

 編集から課されたアイデアをまとめることも兼ねて、外出することにする。グレーのPコートにキャメルのマフラーを巻いて、ブーツを履く。年末年始に風邪を引くわけにもいかないのでマスクをして、携帯音楽プレーヤーと財布を持って、外に出る。

 竜宮城の名を冠する県下最大級のショッピングモールにはイルミネーションが灯り、脇のベンチでは身体を温めあうカップルの姿が見受けられる。二十四時間営業のファミレスの窓にはから騒ぎの駄話に興じる大学生たち。しかし、深夜の歩道には僕以外の通行人の影は見受けられない。こういうときの都会は便利だ。夜に外を歩いていても誰も気味悪がったり、不審に思ったりしない。田舎だとこうはいかない。

原稿をボツにされた悔しさと、新しいアイデアの熟考のために僕は約三十分かけて広島駅まで歩くことにした。

 小学生のころ、学校の帰りによくその場の思いつきで物語を作って、ぶつぶつとキャラクターの掛け合いを演じていたことがある。その癖は中学で一旦なりを潜めるが、高校に上ると人目を忍んではぶり返し、大学に入るとパソコンという入力装置を得て、執筆という形で固着した。それでもときどきこうして好きな音楽を聞きながら、自分のペースでずんずんひたすら歩く時間が必要になるのは、やっぱりそれが僕の性質だからだろう。

 担当のアイデアを自分なりに膨らませていく。

 パラレルワールドと繋がるソーシャルネットワーク。

 勉強のできる自分と、青春を謳歌している自分。でも、担当が言ったように勉強ができる方が恋愛弱者で、青春を謳歌している方が落第者なんてステレオタイプすぎる。望んだ者が手に入るのは「青春」とは言えない。いっそ互いが互いに望まない状況を強いられている方が面白いんじゃないか。

 例えば、こうだ。

 私立の男子校で勉強漬けの毎日を送る自分と、共学の公立校で青春を謳歌する自分。二人はそれぞれの道を邁進しているかに見えたが、どうもおかしい。男子校に進んだ主人公が何故か毎朝駅で顔を合わせている女子校の美少女に告白され、青春を謳歌するはずだった公立校の主人公が片思いの少女に近づくために進学塾に通うはめになる。しかも相手は同じ少女。一方の彼女はいつも冷たく突き放しているだけの主人公のことを好いているのに、一方の彼女は果敢にアプローチを仕掛ける主人公に微塵も興味を示してくれない。

 男子校に通う主人公は悩む。

 僕は勉強がしたいのに、どうすれば彼女は諦めてくれるのか。

 共学の学校に通う主人公は悩む。

 勉強なんてしたくないのに、どうすれば彼女は振り向いてくれるのか。

 二人は違う道を選んだというだけで、顔も名前も帰る家も同じなのに、いったい何が違ってしまったのか。

 そこまで考えたところで道はYの字の大きな交差点に来た。

 左は歩道橋を渡って、カープの本拠地であるマツダスタジアムを横目に広島駅の南口に出るルート。右は再開発の進む新幹線口に出るルート。Yの字の交差点で僕は歩を止めて、スマートフォンに手を伸ばした。

 ふと試しにフェイスブックで自分の名前を打ちこんでみる。

 早乙女甲太。

 ありふれた名前じゃない。案の定、僕の同姓同名は一件もヒットしなかった。

 信号が青になる。

 スマートフォンをポケットに戻し、歩道橋のある道を進む。最初から新幹線口に出るつもりはなかった。向こうの方が駅につくには早いが、目的は駅につくことじゃない。アイデア出しの口実に夜道を歩くことだ。

 人生の岐路。

 あえて選ぶのなら、それは多分最初の小説を執筆したときだろう。

 二十一歳のときに書いた処女作が新人賞の小さな賞をとってしまったことからすべての道が決まった。もしあのときあれを執筆していなければ、僕の人生は今よりだいぶ違うものになっていたはずだ。なまじ他の小説家志望者よりも可能性があるのだと知ってしまったがために若い時間をその一点に賭けてしまった。

 それで小説家になれたのだから大したものだという人もいる。

 でも、僕は自分の本を出版するという特権と引き換えに多くのチャンスを失った。同い年の友人たちは苦しい新入社員の時代を乗り越え、恋人と出会い、結婚をし、子どもを授かり、家を持ち始めている。部下を抱え、責任ある立場で大きな仕事をこなし、家庭を守りながら全うな人間としての人生を謳歌している。

 それに比べて今の僕には数冊の本を出したという『過去』があるだけ。これといったヒット作にも恵まれず、映像化なんてものは夢のまた夢。手にした印税の多くはバイト生活で膨れ上がった借金の返済のために消えた。

 貯金はわずかに三十万程度。アルバイトで得られる月給十一万ではそれ以上の貯金もままならず、毎月ギリギリの生活を続けている。デジタル書籍の収入もあるにはあるが、一月の電気代で消えてしまうほどの微々たるものだ。こんな貧乏生活では当然、恋人を作る余裕なんてないし、これまでも作ったことはない。維持費がかかるから車も持ってないし、靴は年に一足買い替えるので精一杯。こんなことで女性と付き合えるわけがない。

 作家という肩書を武器に騙しだまし人前に出ているけど、同い年の友人たちとの差は歴然で彼らと会うたびに惨めな思いを募らせてしまう。

 こんなことでこの先、自分はどうなってしまうのか。年々、道端にいる路上生活者の姿が他人のように思えなくなってくる。僕もああなるかもしれない。作家だった過去だけを誇りに公園でカップ酒を煽るような未来を想像する。それだけは避けたかった。けれど現状を嘆いたり放置しているだけでは、僕の道は僕の思う絶望に向けてまっしぐらに突き進んでいくしかないように思えた。そうならないためには、とにかく書くしかない。

 自分の思い通りにならないことには目を瞑って、ただただ編集の言うことを聞いて、受注者して注文に忠実な商品を作る。編集にさえ見捨てられなければ、年に一冊は本を出せる。めげずにこつこつと書いてさえいれば。ドアを叩きつづけていれば。いつか夢に見た場所に辿りつける。そう信じてやりつづけるしか僕に取れる道はない。

 今更やめてしまえば、僕に残るのは職歴のないまっさらな履歴書だけだ。

 無駄にしたくないから続ける。

 ただ最近はそれすらも惰性の人生じゃないかと思えてきている。

 駅前のコンビニに着く。自動ドアをくぐる。十五年前に流行ったクリスマスソングが耳に飛び込んできた。雑誌コーナーの前面に年賀状のためのイラスト本が並んでいる。今年も出す相手は一人だけ。小学校時代からの付き合いの幼馴染のために十二色の色鉛筆で干支にちなんだキャラクターを描いて送るのが、彼女が結婚して以降の冬の恒例行事になりつつある。彼女の子どもも、もう小学生になる。僕も彼女と同じくらいの歳で相手を見つけて結婚していたらそれくらいの歳の子どもがいたのだろうか。これもまたも意味のない可能性の話だ。

 菓子パンと出来あいの惣菜を手に取って、レジに向かい、予備を含めて年賀状を二枚注文する。買い物を終えると外は雪がちらつきはじめていた。ファスナーを上まで閉めて、滅多に使わないフードを被る。明日の天気を調べるために何の気なしにスマートフォンに手を伸ばす。寒空の下に灯る青い画面に白い粉雪が点々と付着する。

 

 さっきまで空白だった検索画面に一件、該当が上がっていた。

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