(短編)優しい視線

こうえつ

優しい視線

僕は生まれた時に息をしていなかった。

産婆さんが何度もお尻を叩いた、その時、僕は呼吸を初め弱々しく泣き出した。


そんな僕は小さい頃は身体が弱く、家に居る事が多かった。


 僕の家は商売をしていた。いつも忙しくて、ほとんど母方の婆ちゃんに育てられた。婆ちゃんは、僕をとても可愛がってくれた。

 僕もよく、婆ちゃんになついていた。


婆ちゃんの家は農家だった。


いつも忙しく田んぼ、畑、牛の世話など汗を流す。

婆ちゃんは本当によく働いていた。


その日は天気もよく、周辺の農家の人達と田植えに出かける。


みんなで離れた田んぼへ、トラクターで移動していた。

ダダダダダダ、トラクターの音。

僕は、荷台で婆ちゃんに抱っこされながら、周りをキョロキョロ。

サンサンと日を浴びた僕は、ニコニコ上機嫌。

婆ちゃんもニコニコしながら、僕に言った。


「今日はいい天気だね。みんなは忙しいから、おとなしくしているんだよ」


その時代は、まだ整地されていない田んぼも多かった。

田植機を使わないで、近所みんなで協力して稲穂の苗を植えていた。


僕の産まれた所は雪国。それも豪雪地帯。冬は厳しい寒さと雪だけの風景。

だからこそ、春の雪解けは待ち遠しく、新緑の緑の色もたいへん濃いものだった。

春の日差しの中、涼やかな風が吹き抜けていく。

風はそのままでは見えない。

でも揺れる草花や木々が、はっきりとその姿を見せてくれる。


幼い僕は大きなカゴに入れられていた。

藁で編まれたカゴの縁につかまりながら、僕は田植えの風景を見ていた。

お昼と三時にはみんなが帰ってきてた。

おにぎりや漬物を持ち合い、楽しい休み時間。

みんなに頭を撫でられ僕はご機嫌だった。


休み時間が終わり、みんなが田植えに戻ると寂しくなる。

そんな時は、僕は婆ちゃんの方をジーっと見る。

すると、婆ちゃんは必ず気づいて僕を見てくれた。

僕が泣きそうな顔していると「ちゃんと見てる」って手振りで伝えてくる。

僕は少し安心するけど、すぐにまた寂しくなる。

その時は、婆ちゃんが戻ってくる。

少しの時間だけど、僕の面倒を見てくれる。

婆ちゃんは歌が好きで、僕に童謡を歌って聞かせる。

僕は、婆ちゃん歌を聴きながら、抱っこされ眠くなる。

大きなカゴの中で、お日様を浴びながら眠り始める。


少し暑く感じる春の日差しの中、風が緑色の田んぼを走り緑色の風が見えた。

僕は心地よい夢の中にいた。


お日さまを浴び、ひだまりの中で静かで幸せな時間があった。

いつも「優しい視線」を感じていた……僕の幸せな時間が確かにそこにあった。



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(短編)優しい視線 こうえつ @pancoo

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