番外編 タイムカプセル騒動

番外編 タイムカプセル騒動 1

 それは何の前触れもなく訪れた。

 ゴールデンウィークが明けて最初の日曜日。私が家で掃除機をかけていると、ケータイの着信音がしたのが始まりだった。


(電話?誰からだろう)


 着信なんてめったに無いのに。あるとすれば八雲からだけど…

 横に目をやると、台所を雑巾がけしている八雲がいる。勿論その手には電話は無い。この前の強盗騒ぎの後は警察や学校から連絡があったから、もしかしたら今回もそれだろか。


 二つ折りのケータイを開いてディスプレイを見ると、表示されていたのは知らない番号だ。こういう場合は詐欺の電話の可能性もあるから、つい出るのを躊躇してしまう。けどそうしている間にも、呼び出し音は休むこと無く鳴っている。


「電話、出なくて良いの?」


 掃除の手を止めて八雲が聞いてくる。

 まあ良いか。おかしな内容だったらすぐに切ればいいんだし。そう思いながら通話ボタンを押すと。


『すみません、水城さんのお電話でしょうか?』


 そんな男の声が電話の向こうから聞こえてきた。だけど、声に聞き覚えは無い。少し警戒しながらも、とりあえず返事をしてみる。


「水城ですけど、どちら様でしょう?」

『水城皐月か?俺だよ俺』


 途端に口調が軽くなる。声は若く、相手は私と同じ年くらいの男子のように思える。それにしても、俺と言われても誰だかまるで分らない。もしやオレオレ詐欺か?


「失礼ですけど、どちら様ですか?」

『覚えてないか?甘木だよ甘木』


 甘木?やはり聞いたことも無い名だ。とするとやはりイタズラか。わざわざこっちの名前まで調べて電話してくるだなんて、手の込んだことをするな。


「すみません、甘木なんて人に心当たりは無いので、おかけ間違いかと。切りますね」


 そう言って通話終了のボタンに手をかける。


『わー、まてまて切るな!よく思いだせ。小学校の時の同級生の甘木だ!』


 小学校?

 少し記憶をたどってみると、確かにそんな名前の男子がいたような……


『六年間ずっとクラスが同じだった。3、4年の頃は一緒に保健係をやっていた。修学旅行の時も同じ班だった俺だよ!』

「甘木…甘木…………ああ、あの甘木か」


 そう言われれば確かに同級生にいたなあ。


『ようやく思い出してくれたか。卒業から三年しかたってないのに、ここまできれいに忘れられていたなんてショックだよ』


 いや、三年も経てば忘れていてもおかしくないって。だけど横で私達の通話を聞いていた八雲が悲しい目でこっちを見てくる。


「覚えててあげよう。甘木先輩、僕でも何となく覚えているもの」


 覚えていたんだ。八雲は記憶力が良いなあ。まあそれはさておき。


「ところで何の用なの?時期的に同窓会のお知らせってわけでも無いでしょう」

『ああ、実はな。覚えているか、小学校を卒業する時にクラスでタイムカプセルを埋めた事を』

「タイムカプセル?」


 そう言えばそんな事もあったっけ。確かクラス全員分の思い出の品や、未来の自分に当てた作文を入れたはずだ。


「思い出したわ。それぞれ持ち寄った記念の品や作文を四角い缶に入れて、校庭の木の根元に埋めたやつね」

『そうそう、それそれ』

「たしか雪ちゃんは愛用のリボンを、田辺さんはお気に入りのキーホルダーを入れていたっけ」

『それは知らないけど…というかよくそんな細かい所まで覚えてるな』

「そりゃ友達の事だからね。忘れたりしないよ」

『俺の事は名前すら覚えてくれていなかったけどな。もしかして水城、俺のことを友達と思って無かったのか?』

「……………」

『沈黙するな!何か言ってくれ!』

「電話越しに大声出されると五月蠅い。これで良い?」

『そうじゃなくてだな!』


 五月蠅いって言っているのに。なおも甘木は大きな声でわめいている。


「で、タイムカプセルがどうしたの?掘り起こすのは成人式に合わせてだから、まだまだ先でしょう」

『お前、本当に俺以外の事はよく覚えているんだな。それがさ、グラウンドの工事があるとかで、タイムカプセルを埋めた木の周囲が掘り返されたんだよ』

「そうなんだ。それじゃあ、タイムカプセルはどうなっちゃったの?」

『仕方ないから開封して、中身は全部元の持ち主の所に送ったんだよ』

 

 そうだったんだ。ちょっぴり寂しいけど、まあ仕方ないか。


『それで、俺はタイムカプセルの係だったから現場に立ち会ったんだけどさ。何故か水城の入れた物だけが見つからなかったんだよ』

「え、そうなの?」

『ああ。他の奴の品は全部あったんだけどな。水城、入れ忘れてはいないよな』


 それは無い。茶封筒に入れて、タイムカプセルの中に収めたアレの事はよく覚えている。だけど…


「無いものは仕方ないわよ。残念ではあるけど、中身を誰かに見られるよりは良いわ」

『中身?いったい何を入れたんだ?』

「それは聞かないで。それで、わざわざその報告の為に電話をくれたの?」

『ああ。けどいざ連絡しようとしたら引っ越してたから。調べるのに時間かかって遅れちまった』


 わざわざ調べてくれたのか。そう言えば甘木は昔から変な所で責任感の強い奴だったっけ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る