番外編 八雲友人記 6

「そんな事があったんだ」


 夜。僕は自宅で基山さんに、今日学校で起きたことや吸血鬼の友達ができたことを話していた。

 帰山さんは時々こうして遅くまで一人で家にいる僕の様子を見に来てくれている。基山さんも吸血鬼だけど、僕の周りにいる吸血鬼は怖いどころか優しい人ばかりだ。


「その竹下さんは、クラスに馴染めそう?」

「はい。騒動の後、女子からいろいろ聞かれていましたけど。もともと良い子ですから、この調子ならきっと友達も増えていきますよ」

「それは良かった。八雲も仲良くしてあげるんだよ」

「もちろんです」


 竹下さんに友達が増えるとなると、僕といる時間は少なくなるかもしれない。やっぱり女の子同士の方が話しやすい事もあるだろうし。

 だけどそれはそれ。僕はこれからも竹下さんとは仲良くやって行くつもりだ。

 そんなことを考えていると、ふと基山さんが尋ねてくる。


「ところで、水城さんは最近変わった様子は無い?元気が無いとか」

「いいえ、特には」

「良かった。それじゃあ、僕のことは何か言ってなかった。ゴールデンウィークの事件で色々あったから、嫌だとか気持ち悪いとか」

「無いですよ。もしかして、姉さんに何か言われたんですか?基山さんは姉さんを助けてくれたんですよ。もし嫌うようなことがあったら僕が許しませんよ」

「それは大丈夫。僕が勝手に気にしてただけだから」


 ほっとしたように息をつく基山さん。どうやらよほど姉さんにどう思われているか気になっていたようだ。

 すると、そこに丁度姉さんが帰ってきた。


「ただいま。あれ、基山。来てたんだ」

「お邪魔してます」


 ペコリと頭を下げる基山さん。だけど、なぜだろう。姉さんはちょっぴり不機嫌そうだ。


「八雲に変なこと吹き込んだりしてない?」

「してないよっ」


 突然疑いをかけられて慌てる基山さん。だけど姉さんは僕を抱き寄せ、基山さんと距離を開ける。


「だって基山、最近やたらめったら八雲の話をしてくるじゃない。女子アレルギーなのに、無理して私と話してまで。そりゃあ八雲の様子を見てほしいとは言ったけど。まさかとは思うけど、本気で八雲を取る気なんじゃと思って……」


 声に力が無いあたり、姉さんもさすがに考え過ぎだとは思っているようだけど、基山さんはなんだか昼間の犬塚君と同様、とても悲しい顔をしている。


(姉さん、それはたぶん僕の話をしたいわけじゃないよ。姉さんと話がしたくて、僕を話題にしているんだよ。家によく来るのだって僕の様子を見てくれるのもあるけど、姉さんに会いたいからって部分も大きいはずだよ)


 そんな僕や基山さんの考えていることなど姉さんは全く気付いていないようで。基山さんの必死の弁明で誤解は解けたけれども、話を終えた後はすっかり元気が無くなってしまっていた。

 クラスの皆といい姉さんといい、どうして皆恋心に気がつかないのだろうか。特に姉さん、基山さんの分かり易さは犬塚君の比ではないというのに。

 こんなにも鈍いと、姉さんの将来がつい心配になってしまう。


「念のため確認するけど、姉さんは基山さんのことを嫌いなわけじゃないんだよね」


 気になった僕は基山さんには聞こえないよう、こっそり姉さんに聞いてみる。


「何言ってるのよ。たくさんお世話になっているんだし、感謝はしても嫌うわけ無いでしょ」

「だったらもうちょっと優しくしてあげてよ。あれじゃあ可哀想だよ」

「可哀想?まあ八雲がそう言うなら」


 まったく、姉さんにも困ったものだ。こんな姉さんを好きになってくれるような奇特な人なんてそうそういないだろう。

 基山さんは優しくて頼りになるし、安心して姉さんの事を任せられるから、このチャンスを逃してほしくない。二人には是非ともくっついてほしいけど。


「基山、何か私にできる事があったら言ってね。何でもするから」

「何でもって、どうしたの急に?」

「八雲が少しは基山に優しくしろって言うから」

「あっ…ああ、そういう事か。でも嬉しい」


 何とも珍妙な会話をしている。こんな事で果たして進展できるのだろうか?

 やっぱり一番の問題は姉さんの鈍さだけど、さてどうしたものか。


「鈍感な姉ですみません」


 僕は姉さんに見えないように、基山さんに頭を下げるのだった。



                          【八雲友人記  完】

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