魔王様、村人になる。

蟲崎 まゆみ

序章 魔王様、消える。

魔と人間が対立する世界その世界の中心に位置する魔王城、そこに魔王はいた。

漆黒の鎧を身に纏い王座に鎮座していた魔王はふと思った。


「外に出たい…」


床に座り宝箱をいじっていた側近がフードで隠れた顔を魔王に向けた。


「……なにいってるんですか?」


「まあ、話を聞け側近よ」


「宝箱に罠を仕掛けるのに忙しいので無理です」


そう言うと側近は再び宝箱に向き直った。


「……我は思うのだ…」


「…無視ですか」


「勇者来ないし我ここに居なくてもよくね?」


「…は?」


「…勇者が現れたという報告から十年経つが一向に勇者が現れる気配がない...」


「事件といえば魔界の領土に冒険者が入って来るぐらい。

最近の大きな事件は何があった?」


「三階を守護している真竜さんに卵が生まれました。」


「なにそれ知らない!!

ではなくて、それくらいのことしか起こっていないではないか。

よって我はここに居なくてもいいと思うのだがどう思う?」


側近は呆れたように首を振る。


「駄目に決まってるでしょどこの世界に外をほっつき歩く魔王がいるんですか、

もう少し魔王としての自覚をもって下さい」


「……………」


「はい、もうこの話は終わりです。こっちは忙しいんですからね。」


「……限界だ…」


魔王がぼそりとつぶやく。


「えっなにか言いましたか?」


「我はもうっ限界なのだぁぁぁ!!!」


魔王は勢いよく玉座から立ち上がる。


「!!!!!」


「毎日っ!毎日っ!座り心地のたいして良くない椅子に座ってただひたすら勇者を待つだけの生活っ!!」


「窓から見える景色も、上を見れば空はいつも曇天!

下を見れば毒沼と枯れた木しか見えない。

こんな生活もういやだっ!! 我は出ていくぞ魔王だって自由が欲しい!」


出ていこうとする魔王の前に慌てて側近が立ちふさがる。


「落ち着いてください魔王様そんな理由で出ていかれたらあの方になんて説明すればいいんですか?

だいたい一人では何にも出来ない魔王様が城を出ていったい何が出来るんですか。

どうせ行き倒れるのが関の山でしょう。」


それを聞いた魔王は体をわなわなと震わせる。


「貴様…言わせておけば……我だってな……我だってな………傷つくんだぞっ」


そう言いながら魔王は側近のフードを掴んで揺すった。


「どうせ我は!我はー!」


フードを掴まれて必死に抵抗する側近。


「ちょっやめてください脱げちゃうやーめーてー」


「おっさんのくせに可愛く言うな」


魔王は怒鳴りながらなおもゆすり続けた。


「ひどい 乙女に向かって何てことを!!」


「そんな野太い声の乙女がいるかっ」


側近は魔王を振り払うと項垂れながら一歩二歩と下がる。


「……さまの……」


「え?」


ボウッ


突然側近周りに炎の球が出現する。


「魔王さまの……」


側近はまるで呪詛でも唱えるかのように呟くそのたびに炎の球が一つまた一つと出現する。

気がつくと、魔王は無数の炎に囲まれていた。


「ちょっと待て...我が悪かった。少し落ち着こう。」


魔王が一歩後ずさる。


「魔王様のっバカァァァァァァァァッ!!!!!」


その叫びを合図に炎の球が一斉に魔王に襲い掛かる。


「うおぉぉぉぉぉ」


魔王は両手で自分の身をかばいながら後ろに下がる。


ガンッ


「むっ?」


次の瞬間、激しい爆発、煙、轟音が部屋と魔王を包み込む。


「はぁ…はぁ…これでわかったでしょう乙女を怒らせるとどうなるか…」


徐々に部屋を覆っていた煙が晴れてくる。


「魔王様?…!?」


煙が完全になくなると、そこにいるはずの魔王の姿は忽然と消えていた。

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魔王様、村人になる。 蟲崎 まゆみ @zako_musi

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