持衰(じさい)
牛耳
第1話
下手をすると今から半世紀近く昔、母親と新宿へ行った時にガード下で空き缶を置き「右や左の旦那様〜」と言いながら道行く人々にお金を貰う乞食がいた。
「お母さん、あの人は何であんな風にしてお金を貰っているの?恥ずかしく無いのかな?」
と私が母親に聞くと母親は。
「お前、あの人達はああいう芸を見せてお金を貰う芸人なんだよ。普通の人がアレをやっても誰もお金なんて貰えないよ。それにね人に寄ってはお金と一緒に悪い物を一緒に捨てて厄を払ってる人も居るんだよ。乞食と言った人達は本当は
まだ小さかった私は何だか解らないけれども「ふーん、そうなんだ」と言って納得した様にその場を後にした。
★★★★
苗字の無い者、人では無い者達が現代にも存在する。
その者達は仮の苗字を名乗りひっそりと暮らしながら災厄をその身に取り込み社会のバランスを調整する大切な役割を担い生きている。
遠い昔は
★★★★
新宿西口。
「おじさん、恵まれ無い子供達の為に募金して下さい!」
繁華街を歩いていると高校生位の女の子に声を掛けられた。
普段なら無視するのだが募金箱を持つその娘を見ると何故かお金を箱に入れたくなった。
先程、泡銭と言える訳ありの大金を稼いだばかりだったので懐の封筒に入ったその全額、三百万を募金箱にねじ込み立ち去ろうとすると。
「うわー!何これ?筋の悪いお金ねぇ。それにこの額、私で処理し切れるかしら?おじさん!ちょっと付き合って貰うわよ?頭の所まで一緒に来て!」
募金箱を抱えた娘に手を引かれJRガード近くにある喫茶店に連れて行かれた。
「大婆ちゃん!コレ見て!」
娘は店の奥の席でサンドイッチを捲り塩を掛けている老婆に募金箱を突き出した。
老婆は塩の瓶を持ったまま募金箱を覗き込み。
「うわー!筋の悪い金だねぇ。それにこの金額。アユミこんなのを募金箱に入れて貰うなんてお前も一人前だねぇ〜。だけどお前一人じゃあ処理し切れないか・・・一束はバラ巻くか・・・」
老婆はテーブルに置いてあるスマホにポチポチと何かを打ち込んでいる。
私は娘に促され老婆の隣の席へ腰を下ろすと娘がカウンターの中に入りコーヒーを淹れ私の前に置いた。
程なくしてロン毛を後ろで纏めた青年が店に入って来て老婆が募金箱から出した百万円の束を受け取る。
受け取った札束を見て『うわぁ』っと声を上げながら足早に出て行った。
剥がしていたサンドイッチを戻して一口食べた後に老婆が私を見て「旦那さん。よっぽど嫌な事で得たお金だったんだろうけどアレを募金をやってる女の子に押し付けちゃあいけないねぇ。旦那さんはどうもそう言ったヤバイ金を稼ぐ星のある人みたいだから今度からはこの店に来てこの婆に恵んで下され。キチンと処理します」
老婆の言葉を聞き、昔母親から聞いた言葉を思い出しフト口から溢れる。
「持衰と厄を祓う金撒き・・・」
老婆は目を見開き先程アユミと呼ばれた娘に
「アユミ、お前はとんでもない旦那様を引き連れて来たねぇ〜。次の頭はお前で決まりだよ」
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