第七特務白虎隊
蚊帳ノ外心子
入学
桜が舞い散る中、青いバッグと細長い形の風呂敷を肩に背負い、両手をポケットに入れた制服姿の黒髪のストレートヘアで、前の方に一つピンと立った髪がある青年が、うつむきながら歩道を歩いていた。
「ここか」
見上げて立ち止まったのは学校の前だった。門には『国立総合軍事教育学園』と書いてある。
学校の門を同じ制服の学生達が通るが、その肩に背負っているのは青いバッグと歪(いびつ)な形のケースや袋だった。
「きゃっ――ご、ごめんなさい」
立ち止まっていた青年にぶつかったのは黒髪でショートヘア、同じ制服の華奢(きゃしゃ)な女子だった。
「ああ、いいよ」
「す、すみません」
彼女はお辞儀をすると足早に学校の門を通って行った。
「あれ、鎌か?」
彼女にも青いバッグともう一つ――刃の部分を包帯で巻いていたが――形からして彼女とほぼ同じ大きさの鎌を背負っていた。
「………」
――同じか。
青年はぼんやりと彼女を見つめた。そして青年も学校の門を通った。
上履きに履き替えて階段を上がり、教室へ入ると一人の男子を中心に談笑をしている以外、他の生徒は自分の机に座って黙り込んでいる。あの大鎌を背負っていた女子も居た。
「……」
青年は談笑している男子を少し見つめるとその後ろの席に座った。
「お! 男子発見!」
談笑していた男子は青年を見つけると、すぐさま駆け寄ってきた。
「君、ここの学園は初めてだな。俺の名は本田(ほんだ)雷(らい)。ここの中等部から上がって来た男だ!」
本田雷という金髪を逆立てた髪型の男子は胸を張って言った。
「だからある意味俺は先輩に当たる。もし分からない事があれば何でも言ってくれ!」
青年は雷とは反対の方を向き、ため息を吐いた。
「おい? 聞いてるのか? お前の名前は?」
その上から目線の態度に青年は少しいら立ちを覚えてきた。
「……村(むら)正(まさ)千子(せんじ)」
村正千子はふてくされた様にそのままの姿勢で言った。
「村正千子……どっかで聞いた名前だな。お前、なんかテレビとかに――」
「中学じゃ義務教育が付いている。だから実戦に出される事は無いけど、高校だと実戦に投入される場合がある。まさか、それを見越してわざわざここの中等部から入ったのか?」
千子は雷の話を途中でさえぎり、挑発的な言い方をした。
「は? 何だその言い方は。凡人中学から上がって来た奴に言う筋合いはねぇな」
雷はそっぽを向いている千子に顔を近づけた。
「中等部からわざわざ入って調子に乗った奴に『凡人中学』なんて言われてもね」
千子は立ち上がり雷の方を向くとにらみ合った。
「んだとぉ」
そこへチャイムが鳴った。
「はいはい、喧嘩はそこまでにしときな。出席を取るわよ」
教室に入って来たのは赤く染まった長髪をポニーテールで結び、厚手のジャケットを羽織った女性だった。
「チッ」
雷は舌打ちをすると自分の席に戻った。千子もイスに座り、頬杖を突いた。
「じゃ、ようこそ! 《四神学校》へ。ここじゃ今までの知識は役に立たないと覚悟しておくことだね。体力・知力・精神力。全てにおいて中学とは違うことを覚えておきな」
そこへ手を挙げたのは灰色がかった長髪でツインテールの女子だった。
「先生、ここの学校は《四神学校》という名前では無いですよね?」
それを待ってましたと言わんばかりに赤髪の先生は笑みを浮かべた。
「じゃ、ここのクラスの名前は?」
「白虎です」
「他のクラスの名前は?」
「青龍・朱雀・玄武……あ!」
ツインテールの女子は思い出したようだ。
「そう、青龍・白虎・朱雀・玄武を総称していうのが四神だ。だからここ『国立総合軍事教育学園』は
「はい……」
ツインテールの女子は少しへこんだようにうつむいた。
「じゃ、ついでに聞くが、クラスごとの編制はどうなっている?」
「白虎が特務部隊、青龍が海上部隊、朱雀が航空部隊、玄武が陸上部隊と聞いています」
「そう、それで合っているわ。四神は知らなくて部隊編制は知っているなんて――情報に偏りがあるわね。あんた、名前は………」
赤髪の先生は自分の持っている名簿を調べだした。
「東条(とうじょう)季(き)穂(ほ)です」
その言葉を聞くと名簿から見つけ出したようだ。
「あぁ、あったあった………ふ~ん。ガンマンか――まぁいいや。それじゃ、あたしから自己紹介といこうか。あたしはこの特務白虎隊の隊長兼先生の暁(あかつき)梨(り)隠(おん)よ。これから三年間お世話になるからちゃんと覚えなさい」
暁梨隠は教卓に手を付き、教室を見渡した。
「それじゃ、出席取るのと同時に自己紹介も済ませちゃって。勿論、自分の武器も紹介してね」
「えぇぇぇ」
教室から一斉にブーイングが起こったが、それには目もくれず出席の点呼を始めた。
「え~と……浅木真衣」
「あ、はい。えっと………私は―――」
――いい加減な先生だな。こんなんで特務部隊の隊長が務まるのか?
千子は少し呆れていた。
「――死四幽子(しよんゆうこ)」
「は、はい…」
その名前で立ち上がったのはあの大鎌の女子だった。
「わ、私はぁ、この大鎌を使って………わっ!」
そういって死四幽子は刃の包帯を外しているが、中々外せていない。暁先生の視線も冷たくなってきた。
「私はぁ、この大鎌を使ってぇ近接戦闘を得意としますぅ………」
やっと包帯を外し、大鎌を構えたその時、幽子の様子がおかしくなった。うつむいたと思ったら口元は歯をむき出しにするほどの笑みを浮かべ、顔を上げると目を見開いている。
「さて……今日は誰が地獄へ逝くのかな。フフ、フフフ」
今までおっとりとしていた性格から一変。まるで別の人格が乗り移った様に狂気に満ちている。
「あ~、これのことね――死神退散!!」
暁先生は名簿を一度見ると幽子に向かって叫んだ。
「あっ――す、すみません!」
幽子は正気を取り戻し、座ると刃に包帯を巻きだした。
「これは慎重に扱わないとだめね」
暁先生は名簿を見ながら少し息を吐いた。
「じゃ、次。須藤―――」
――こいつ……ヤンデレか!?
千子は幽子を見ると少し引いた。
「――東条季穂」
「はい」
その名前で立ち上がったのは、あのツインテールの女子だ。彼女は青いバッグから二丁のヒップホルスターに入ったリボルバーを取り出し、一回回した。
「私はこのシングル・アクション・アーミーを同時に二丁扱えます。勿論、他のハンドガン、アサルトライフル、ショットガンなども扱えます」
季穂は端的に話すと、リボルバーをヒップホルスターに仕舞い、座った。
「ピースメーカーね。西部劇の映画に出たらどう?」
暁先生のその質問には季穂は無言だった。
「……じゃ、次。七崎―――」
――ガンマンか……それに色々扱えるみたいだな。
千子は季穂に見とれていると季穂が殺気立たせた様に千子を睨んだ。
――うっ……武器を扱えるだけでも無さそうだな………
千子はとっさに違う方を向いた。
「じゃ、次。本田雷」
その名前に胸を張って立ち上がったのはあの中等部から上がって来た男子だ。彼は歪なケースからライトマシンガンを取り出した。
「俺はこのライトマシンガンを拳銃の様に扱えるぜ。ダダダダダン! てな」
雷はライトマシンガンを撃った時の様に構え、最後は肩に乗せた。
「M60E4か。だけど隠密行動に騒音は厳禁よ。仕舞っときなさい」
暁先生の冷たい言い方に雷は少しムッとして座った。
「じゃ、次。村正千子」
その名前に無言で立ち上がり、細長い形の風呂敷から鍔が無く、鞘と柄に漆塗りが施されていない日本刀を取り出した。
「俺はこの刀での近接戦闘が得意だ。武術にも長けているから、あまり近寄らない方がいい」
そういって少し雷の方を見た。雷は前を向いたまま腕を組んでいた。
「あの村正の血を引く子がここに来るとわね」
暁先生の言葉に雷は何かを思い出したように目を見開いた。
「あぁぁ!! お前! 《ピストルブレイカー》の村正じゃねぇか!」
雷は立ち上がると千子の方を向き、指を差した。それと同時に教室が騒がしくなった。
「はぁ……」
千子はため息を吐きながら座った。
「お前、飛んでくる弾丸を両断出来るって本当か? 唯一、刀で拳銃に勝ったって本当か?」
雷は興奮して千子に質問攻めをしている。しかし、千子はそっぽを向いたままだ。
「はいはい、本田雷! 座れ。他のみんなも黙りな」
暁先生の言葉に皆、静まり返った。雷も自分の席に座った。
「ハンパねぇ奴を敵に回したなぁ」
雷が座り際に呟いた。
「村正千子はあの刀工村正の子孫ってのはみんな知ってると思うし、拳銃相手に刀一本で勝ったとか、射出された弾丸を両断したとか色々あるが、そんなのはここに来れば全部意味は無い。村正千子。初心にかえったつもりで励みなさい。浮かれていると死ぬわよ」
暁先生は千子に目線を合わせた。
「こっちも最初からそのつもりだ」
千子も暁先生とにらみ合った。
「………大丈夫そうね。じゃ、次。望月―――」
――そんなの中学の時から分かってる……
千子は少しふてくされているように見えた。
こうして出席の点呼兼自己紹介は終わった。
「じゃ、最初の授業だけど実力テストをするから」
「えぇぇぇ!」
暁先生はサラッと言ったが皆、その言葉に落胆した。
「この実力テストで四人一組の班が決まるから気を抜かないように。じゃ、まずは地下一階に白虎隊の武器庫があるわ。そこに装備一式人数分置いてあるわ。名前が書いてあるから間違えないように。それと今日持ってきた自分の武器もそこに置いてきてね。」
暁先生の言葉に皆、真剣な眼差しに変わった。
「じゃ、十分で校庭に集まりなさい。始め!!」
その言葉を皮切りに一斉に動いた。皆、我先に教室を出て地下の武器庫に向かった。
先頭を走るのはツインテールの東条季穂。その後ろを雷と千子が並走していた。
「チッ、なんでお前と並走しなきゃならないんだよ」
「それはこっちのセリフだ」
「んだとぉ」
雷と千子はいがみ合いながらも足並みは揃っている。
そうこうしていると武器庫の前まで来た。季穂は武器庫の扉を引こうとした時。
「あれ? 鍵掛かってる」
季穂が扉を引いても扉には少し錆び付いた南京錠が掛かっていた。
「おい、どうした?」
そこへ雷が覗いてきた。
「なんだよ。鍵掛かってんじゃん。他に扉ないのか?」
「武器庫の扉は一つ。それに鉄製だからこの扉を破壊するのは無理ね」
「ったく、暁の野郎鍵閉めっぱなしにしたな。十分で校庭まで行けるのかよ」
雷は愚痴(ぐち)りだした。後ろで並んでいる他の生徒も不安そうに見ている。
「俺のライトマシンガンでぶっ叩くか」
そういってケースごと振りかぶろうとした。
「そんなことしなくても開くわよ。こんなの造作も無いわ」
そういって季穂は髪に差していたヘアピンを外し、南京錠の鍵口に刺し込んだ。
「錆び付いているからちょっと時間掛かるかも………」
皆が見守る中、一分もしない内に南京錠は開いてしまった。
「開いた!」
「よし!」
すると滑り込む様に雷が開いた扉から最初に入った。
「ちょっ、もう!」
季穂はせっかく開けたのに一番乗りを取り逃した。
「はは……」
千子は苦笑いをすると、季穂の後に武器庫に入った。
武器庫は以外にも広く、多種多様な武器が揃っていた。
「俺の装備は……あった!」
『村正千子』と書いてある装備品の一角を見つけ、迅速に装備していった。
「防弾チョッキにチェストリグ……チッ、重りが入ってやがる。マガジンは五つ。コルト・ガバメント――サプレッサー付きか。サバイバルナイフ――なんだこれ、切れないじゃん。それに……迷彩柄の雨ガッパ!?」
雷は装備品を装備する度にその武器の名前を言っていた。
「なんだよこの装備……雨の日に遠足でも行くのかよ……」
雷は装備品に落胆しながらも全て装備し終わった。
「後三分――そんじゃ、お先~」
武器庫に一番乗りした雷が一番最初に武器庫を出て行った。
「あいつ……ムカつく!」
そういって二番目に季穂が飛び出した。
「………」
そして三番目に千子が武器庫を出た。
武器庫から校庭までは一階上がって数メートル廊下を走ればすぐだ。
校庭に出るとそこにはもう暁先生が待っていた。無論、雷と季穂も並んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます