残像ー3-2
(音・銃声)
イ「ぐっ……」
(音・ナイフ)
男「ああっぁぁ!」
男「ぐうっ!」
イ(二発かすった……けど
とりあえず目の前に出てきた奴らは片付けた……!)
イ(残りはあと何人……?
味方と人質の状況は……)
ク「余所見はダメだぜ、ちびっ子さんよ」
(音・打撃)
ク「おおっと、倒れられたら困るぜ
嬢ちゃんには俺の盾になってもらわなきゃなんねえからな」
イ(意識が吹っ飛びそう……何かで頭を殴られた、のか
手足が震えて上手く動かせない……)
イ(額から血が垂れて、視界が塞がれてく
感覚がどんどん狭まっていく……)
グ(ちっ、奇襲は成功とは行かず、か
テロリスト達は人質を楯にして引きこもりやがった)
グ(一番動きのいいあの餓鬼もあっさり捕まりやがるし
これ以上続けるのもしんどいか……?)
グ「おいおいおい、野郎どもが二十歳にもならない女を盾にして
恥ずかしくないのかね?」
ク「はっ、結果的に死人が出ない選択ならば
どんなにダサく見えようとそれこそが大人の判断なんだよ、違うか?
グ「あん? なに言ってやがる
死人が出ねえなんて寝言言ってんな、お前らはここで死ぬ」
ク「わかってんだろグロキア 再交渉の時間だ」
ク「俺たちは13年前の事件についての情報公開
それと衆都外部への安全な逃走手段、それだけを要求する」
ク「市民の命を2度も見捨てるなんてことをすれば
世間がお前らをどう判断するか、わかってるよな?」
グ「……」
グ「飲めねえな、情報開示をすることはできない」
グ「その代わりお前らの交渉内容を都民に向けて公開する
もちろん安全な脱出経路も用意させる、これでどうだ?」
ク「……なるほどな、事件の詳細を明かすことはできないが
闇に葬られていたその存在だけは公表してやる、そういうことか」
ク「わかった、その条件を飲もう」
グ「もうすぐここに一台の大型トラックを寄越す
そしたらお前らは銀行員達を解放しろ」
グ「その後、俺が報道機関向けに今回の経緯を説明する
もちろんお前らが確認できるような形でな」
グ「安心したら人質の警備隊員二人と共に車に乗り込み
東部のゲートから都外に脱出すればいい」
ク「人質は?」
グ「ゲートから5キロほどしたところに置いといてくれ
ほっといても自力で帰ってくるからな」
グ「都内の連中は都内のことにしか関心がないからな
危険人物を外に摘み出しただけで満足してくれるだろうよ」
ク「もちろん変な動きをすれば人質は容赦無く殺すからな」
グ「重々承知してる」
ク「……聞いてたろお前ら、準備しろ!」
男「納得できねえよ、俺たちの生活を滅茶苦茶にして
それでこれだけなんて!」
ク「これであいつらの隠してたものは少しだが明らかになった
俺たちごときの人生にゃ、十分すぎる対価だろ?」
ク「それに少しでも尻尾を暴ければ、必ずそれを引きずり出してくれるさ
真相を知りたいと願う、俺たちみたいな奴らがさ」
ク「俺たちはそれを信じて、この街から退場するとしようぜ」
(音・エンジン&ブレーキ)
グ「ほら車が来たぜ、人質を解放しな」
ク「言われなくてもやるっつーの
そっちこそ、早く公式声明を出せ」
グ「へいへい、ったく面倒なことになりやがってクソが」
(音・足音)
(音・ドア)
民「おい、警備隊員が出てきたぞ!」
民「銃声が止んだが、一体どうなってんだ!?」
グ「どうもみなさん、光都警備隊を代表してコメントさせていただきます
第3班班長、グロキア・グラールスです、さて今回の事件ですが……」
(音・ブレーキ)
(音・ドア)
ク「ほら、降りな嬢ちゃんたち」
イ「いでっ!」
マ「……手錠されてるんですから、急かさないで」
ク「手荒な真似をしてすまん
ま、その仕事に染み付いた業ってやつだと思ってくれ」
マ「私はともかく、この娘は怪我してるんですよ?
ここから門まで歩けだなんて」
ク「頭を殴られたくらいでノビちまうタマじゃないだろ
一人で三人を相手取る化け物じゃねえか」
ク「それより、聞きたいことがあるんだが、いいかい?」
マ「……拷問する気ですか?」
ク「いいや、せっかく逃げだせたんだ
わざわざ警備隊の逆鱗に触れるような真似はしないさ」
ク「そんな大したことじゃねえ
グロキアのやつ、元気でやってんのかなってだけさ」
マ「……副班長とどういう関係なんですか
親しそうに話してましたけど」
ク「……幼馴染ってやつさ、真反対の運命を辿ったがな
同じ事件をきっかけとして、なんでこうもすれ違ってんのか」
マ「それが、13年前の真実、ってやつですか」
ク「……ご想像にお任せする」
マ「……愛されてるとは言いにくいですけど
周囲に尊敬されてる存在だとは思います」
ク「へへっ、そうか、ならよかった
口下手だからなあいつ、これからも良くしてやってくれ」
ク「……ああ見えて寂しがり屋だからな、あいつ」
マ「……」
男「おい、ナンパしてんじゃねえよ
駆け落ちのお誘いでもしてんのか?」
ク「ちげーって、それよりこっからどうやって暮らそうか?
店でも開くかい? 小麦はできんのかねえ、外ってところは」
(音・エンジン起動)
ク「じゃ、ここらでお別れだ
そっちのちびっ子も、達者でやれよ!」
(音・エンジン)
マ「行っちゃった……」
イ「なんか、変な人でしたね……てか外でも小麦ぐらい育つし
いたたたた」
マ「大丈夫? 歩ける?」
イ「平気ですけど、歩きたくないなあ……」
マ「何がほっといても自分で帰ってくる、よ
ほんと、帰ったら承知しないからなグロキアめ」
イ(こわいなあ……)
マ「さて、手錠されたまま夕暮れの道を歩こうか
そうする以外に道はないみたいだし……」
イ「いい運動になりますかね?」
マ「こんなダイエット……望んでないよぉ!」
イ「あはは……はぁ」
イ(なんだろう……あの人、そんなに悪い人には見えなかった
なのに銃を持って人を襲い、私と戦う羽目になった)
イ(それに、13年前の事件ってなんのこと?
光の全てを信じるな……ってことなのか)
イ(この街の裏には、どんな闇が眠ってるんだ?)
マ「ん、どうしたの?
そんな難しい顔して、珍しい」
イ「いや、この辺り来たことあったかなあって
見覚えあるような」
マ「あはは、懐かしい?」
イ「今は早く晩御飯が食べたい、それだけです」
マ「間に合うかなあ、晩御飯
ってか暗くなったら危ないし、ちょっと急ごうか」
イ「はーい、がんばります……」
イ(判断を下すには、今の私は何も知らなすぎる
今は目を開いて、何も見落とさないようにするしかないか)
イ(……お腹空いたなあ)
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