あやかしやかましや~騒がしい高校生活~

ユウやん

転校した先は……普通じゃなかった

第1話 引越し初日

 現実は小説よりも奇なり


 この言葉を考えた人はきっと現代の小説を知ったら驚くだろう。

 昔の小説なんて現代っ子の俺にはわからないが確実に今とは違うことは想像付く。

 だって今の小説、いや、ラノベは異世界に行って魔法使ったり、異能の力を使ってバトルしたりでこれ以上、奇怪きっかいなものは無いと思う。

 ……そう思っていた時期が俺にも有りました。


「お~い、藤城。大丈夫か~?誰かこいつを保健室まで運んでやって~。」


 高校一年の夏、誰が転校した先の学校が妖怪の巣窟だと思うだろうか。



 俺が保健室に運ばれる五日前。


「すまん清明きよあき、急な転勤でお前の転校が決まった。」

「はい?」


 いつもの登校前の朝、朝食を取ってた俺に珍しく朝から家に居る親父が新聞で顔を隠しながらそう言ってきた。


「何だよ急に。珍しく朝から家に居ると思ったら、転勤?学校はどうなるんだよ、今時期から編入って出来るのかよ。」

「それなら心配ない。昔の知り合いが勤めている学校に行くことになったから。」

「心配ないって、俺の都合は無視かい。」

「お前に都合って有るのか。お父さんは驚いたぞ。」


 この野郎、未だに新聞から顔を出さずに失礼な事を言いやがって。


「そりゃあ、有るさ。」

「ほう、例えば?」

「高校で出来た友達との付き合いやバイトとか。」

「他には?」

「恋愛とか。」

「お前に彼女いたか?」

「うっ……これから出来るかも知れないだろ。」

「はん。無理だな。」

「何で言い切れるんだよ。」

「ばっか、おまえ。実例が目の前に居るからだ。」


 親父、息子としては聞きたくない事をさらっと言うなよ。


「もう決定したことだ。男なら腹をくくれ。」

「いや、でも……」

「持っていく荷物は明後日までにまとめておけよ。」

「明後日って、いつ移動なんだよ。」

「四日後だ。」

「四日後!?いくら急って言ってもそれはおかしいだろ。」

「転勤の話は二週間前から有ったが決定したのは昨日だ。仕方ないだろ。」

「……分かったよ。で?行き先は?」

「京都だ。」


 こうして高校生活始まって初の夏に転校が決まったのだった。

 今になって思えば、この時に一人で何とか生活するから東京に居させてと言っていれば状況は変わったのかな。




「そっか、転校か。」

「寂しくなるね。」


 学校に登校の途中で会った友人の黒木場と乃木に転校の話をした。

 ヤンキイみたいな見た目だが意外と優しい黒木場、完全に見た目は女の子だがちゃんとした男の乃木。

 こいつらと知り合ったのは高校からだ。何故か話が合い今はこうして一緒に登校するまでとなった。


「行き先は京都だったよね。」

「あぁ、面白いよな。東京から京都に引越しって。」

「確かに。笑えるな。」

「でも、この時期によく編入を受け入れてくれたね。」

「それに関しては親父が知り合いに頼んだらしいんだが、正直不安でしかない。」

「だな。お前の親父さんは何をしでかすか……」


 黒木場と乃木は怯えたように自分の肩を抱いた。

 この二人の反応を見ても分かるように、親父はかなりの変人だったりする。

 この二人を家に呼んだ時、仕事から帰ってきた親父がお土産と称し猪一頭持って帰ってきた事が有った。親父の仕事、公務員って聞いた事が有った様な……

 そんな事があったので親父に対する二人の印象は変人で固定された。


「京の都、京都。そこに清明せいめいが行くなんてな。」

「セイメイじゃねぇ、キヨアキだ!」

「あはは、わりい。ついからかいたくなってな。」

「だめだよ黒木場くん、清明きよあきくんに悪いでしょ。」

「乃木~、お前だけだよ、俺の名前をからかわない奴は。」


 女の子に見える容姿だが男の乃木に俺は感謝の意味を込め抱きついた。


「ちょっ、清明きよあきくん!?恥ずかしいから抱きつかないで!!」

「そう照れるなよ~。」

「や~め~て~。」

「あははは、お前らウケル。」


 などと日常の風景になりつつあるこの光景を楽しみながら転校することに少し寂しさを感じながら学校へと向かったのだった。




 四日後の朝、荷物を車に乗せ引越しの準備をしていた。大きな荷物は先に業者に頼み運んでもらっている。


「お前は学校の寮での生活になるから荷物は別に運んである。」

「了解。」


 そう、今度から俺は親父と暮らすのではなく学校の寮での生活になる。

 なので必要最低限の荷物だけは持って行き、他の大荷物は親父が別に頼んだ業者に運んでもらっている。


「よいしょっと、これで荷物は最後だな。よし、京都に向けて出発ー!」


 親父は楽しそうに一人で拳を掲げ意気揚々と車に乗り込んだ。俺は助手席に静かに乗りこんだ。


「おい、反応しろよ。恥ずかしいだろ……」


 少し照れながら運転席に乗り込んだ親父が呟いてきたが無視をし、京都へと向かった。




 数時間後、無事に京都に着きまずは親父が住む予定の借家へと向かった。

 立派とは言いがたいが一人でしばらく暮らすには広い一軒やに配達業者の車が止まっていた。


「藤城さんですね。お荷物はどこに置いておけばよろしいでしょうか?」

「大きい家具類は適当に運んでください。あとはこちらでやりますので。」

「大きい家具の配置も手伝ってもらえば?」

「後で知り合いが来るからそいつに手伝わせるさ。それよりも寮へ向かう準備を済ませろ。」

「分かった。」


 そう言われ自分の荷物をあさり、軽く寮へと持っていく荷物の確認を済ませる。


「よし、忘れ物は無いな。」

「有っても戻って来ればいいだけだろ。」

「そうだが一回で済むことは一回で済ませたいだろ。」

「そうだな。」


 と、軽くやり取りをした親父が再度車に乗り込む。


「荷物を持って乗れよ、送るわ。」

「家の方はいいのか?」

「業者が帰る前に戻るさ。」

「分かった。」


 ここは甘えさせてもらおう。どうせ寮の場所とか聞いてなかったし丁度いいや。

 家から数十分の道のりを車に揺られながら京都の町並みを眺めていると風景が変わり、木々が生い茂る森へと入っていった。


「こんな森の中に寮があるのか?」

「あれ?言ってなかったか?寮だけじゃなく学校もこの少し先に行った山の中にあるって。」

「はぁ?聞いてないぜ!俺はてっきり町の中に有るとばかり思っていたぞ。」

「そうか。言ってなかった俺が悪かった、すまんな。」

「ここまで来たんだしもう諦めるよ。今後何があってもこれ以上驚く事も無いだろうし。」

「本当にそうかな。」

「どう言う意味だよ。」

「ほれ、着いたぜ。」


 車が止まった場所は山の上へと目指す為に作られたと思わしき石階段の前だった。


「ここからは徒歩だ。この階段を上ってすぐに右に行けば寮に着く。」


 車を降りながら寮の場所を教えてもらったが、この階段を上るのか。終わりが見えないのだが。

 そうか、だから荷物は少なくしろと言っていたのか、この馬鹿は。


「それじゃ、後は頑張れよ。」


 無責任な声に振り返るとすでに車に乗りエンジンを入れた親父がニヤケ顔でこちらに手を振っている。


「何かあったら連絡しろよ。」

「あ、ちょ、待て。」


 その一言を最後に親父は車を走らせ姿をけした。


「あの野郎、息子をこんな所に置き去りにするか普通。」


 小さくなりやがて見えなくなった車の後姿に文句を言いながら改めて階段に向き直った。

 階段の入り口には朱色の大きな鳥居が立っており、この先は学校や寮ではなく神社が有るのではと思わせる作りになっている。階段の先は終わりが見えないほど続いて、上る気力を奪うのではと思う。


「さて、愚痴っても仕方い。上りますか。」


 と、つぶやき階段に始めの一歩を踏み出した。




 階段を上り始めてどのぐらいの時間が経ったのだろうか。未だに終わりが見えてこない。


「ぜぇ、はぁ。ぜぇ、はぁ。」


 いくら少ない荷物だとしても終わりの見えない階段を荷物を持ちながら上るのは心が折れそうになる。


「まだ…ぜぇ…上るの…はぁ…かよ…」


 若い体で体力を持て余している俺でも、この長さの階段は堪える。

 その時、後ろから赤く染まった日の光が木々の隙間から差し込んでくるのを感じ後ろを振り返った。


「おぉ……都会では見れない絶景だな。」


 木々の隙間から夕日に照らされた京の町並みが目に飛び込んできた。


「もう少しがんばるか。」


 絶景に少し疲れが飛んだ気になりながら階段を上る作業を再開した。

 更に数分が経っただろうか、鳥居の数が増え千本鳥居に似た光景へと周囲が変化してきた。


「もう少しだよ、がんばれ。」

「!?」


 どこからか少女のような声が聞こえ周囲を見渡したがどこにも少女の姿は見当たらない。


「誰だ!」


 少し声を張り上げてみたが返事が無い。

 幻聴?しかし、はっきりと耳元で聞こえた。だから幻聴って事は無いだろう。


「とりあえず無視して階段を上るか。」


 あの幻聴?がもう少しって言ってたしがんばる気力が湧いてきた。




「つ……着いた……」


 あれから更に数分上ってやっと階段の終わりにご対面できた。


「しかし、すげぇ……」


 階段を上りきって出迎えてくれたのは先ほどから有った鳥居より更に大きい鳥居と、これまた目を引く大きな木が一本。

 上りきった勇姿を祝うかの様な風景にため息に似た息が口から零れる。


「っと、上ってすぐ右が寮だったな。」


 その事を思い出し右を見て息を呑んだ。

 そこには古くも味のある大きな旅館に似た建物が一軒。そこにこれから寝泊りするのかと思うとわくわくしてきた。


「いつまでもここで立ち止まってないで挨拶に向かいますか。」


 上りきった時に置いた荷物を持ち直し今後生活する寮へと向かった。




「ごめんください。今日からお世話になる藤城です、どなたかいらっしゃいますか?」


 横に引く扉を開け寮の中に入った。

 中は隅々まで清掃が行き届いており外観よりも綺麗だ。大きな鷹の剥製はくせいが入り口の前に置いてあり完全に旅館に泊まりに来た感覚になる。


「は~い、ちょっと待ってください。」


 奥から若い女性の声が聞こえてきた。それからまもなく着物姿の女性が顔を覗かせた。


「藤城君ね、話は聞いているわ。」


 腰まである黒い髪をなびかせ優しい笑みで迎えてくれた。

 うん、はっきり言ってタイプかも。


「あの長い階段を上ってきてお疲れさまです。立ち話は疲れた体に酷でしょう、お部屋までご案内いたしますわ。」


 再度優しい笑顔で彼女は部屋まで案内を始めた。




「自己紹介が遅れました。わたくし鈴鹿すずか りんと申します。苗字は鈴に鹿で鈴鹿、名前は鈴と書いてりんです。ここの寮母をしております。」

「鈴鹿さんですね。」

「鈴でよろしいですわ。他の皆さんからもリンちゃんとか呼ばれておりますので。」

「では、鈴さんと呼んでも。」

「かまいませんわ。」


 正直、そこまで女性と話をした事のない俺にはキツイ。ましてや美女と言っても過言ではない彼女をそう呼ぶのはいささか恥ずかしいものが有ったが当の本人がそう呼んでほしいとのご要望なので妥協した。


「あ、俺の事も清明きよあきと呼んでください。そのほうが慣れてますので。」

「分かりましたわ清明君。」

「ありがとうございます。」


 やばい、流れで名前を呼んでもらう形にしたがこれはこれで恥ずかしいぞ。


「ふふ。清明君、あの長い階段はつらかったでしょ?」

「え、あ、はい。かなり足にきました。」


 恥ずかしさに照れていると鈴さんは少し楽しそうに先ほど上ってきた階段の話をしてきた。


「あの階段は昔、僧侶が修行の為に作った階段で急な坂に作ったので傾斜がきつく、普通の人は途中で上るのを諦めるほどですわ。」


 そんな階段の上に学校を作ったのか、ここの校長は。頭おかしいのでは?


「ですので、あの階段を上りきった清明君はすごいですわ。」

「あ、ありがとうございます……」


 美女に褒められて顔を真っ赤にしてしまった。恥ずかしい……


「さて、着きましたわ。ここが清明君が使うお部屋です。」


 そういい一室のドアを鈴さんが開けて中に通してくれた。


「おう……すごい……」


 中の作りは完全に和風の旅館の一室の見た目で、ここが寮である事を忘れそうになる。

 窓は大きく作られており、そこから京都の町並みが一望でき最高の場所と言える。


「先に来ている荷物は端に置いてありますのでご自由に整理してください。」

「分かりました。」

「朝と夜の食事はこのお部屋にお持ちいたしますので、何かご要望がございましたら係りの者にお申し付けください。」

「あれ?持ってきてくださるのですか?」

「はい。一応皆様が集まって食事できる所はございますが、基本はお部屋にお持ちする事になっております。」


 これはあれだ。完全に高級旅館のそれだ。


「お望みでしたら広間のほうでも食事が出来ますが、いかがいたしますか?」

「いや、部屋の片付けもしたいので、しばらくは部屋で食事させていただきます。」

「分かりましたわ。もし、広間で食事をしたい時はお申し付けください。そちらに料理をお持ちいたしますので。」


 本気でここは寮ではなく旅館なのではと思い始めてきたぞ。


「それではわたくしは他の仕事がございますので失礼させていただきますわ。」

「あ、長く引き止めてごめんなさい。」

「いいえ、これもお仕事の一環ですわ。それに、新しく来たお方がどのような方なのが気になってましたから丁度良かったですわ。」


 ふふっと笑みを浮かべる鈴さんに見とれてしまった。


わたくしは基本フロントに居ますので、何かお困りのことが有りましたら来てくださいね。」

「分かりました。」

「この部屋の鍵は机の上に置いておきますね。それでは失礼いたします。」


 最後に鈴さんは部屋の鍵を置き、頭を軽く下げ部屋を出て行った。


「き、緊張したー。」


 もうね、女性に対してコミ症の俺にはバベルの塔並のハードルなんですよ。


「さてと、片付けますか。」


 こうして俺は引越しの初日を終えたのだった。

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