荒縄締太郎、最期の緊縛

じょう

プロローグ

 ーー砂漠を縛る。



 緊縛師・荒縄締太郎は殺人的な太陽の照りつけを受け、反射的に額を拭った。だが既に彼の体には汗として流れるべき水分は残っていない。

 締太郎の手には、麻縄の束と、低温ロウソクが二本。それが今の彼の全てである。

 もって2日、それで締太郎は干からび、砂漠で生き絶えるのだ。



 ーー砂漠は生きている。



 砂漠の景色は見渡す限り砂の丘陵。だがそのひとつひとつが全て異なる形をしている。

 その形は風の流れにより、常に変化している。

 地を這う虫も、根付くサボテンも、締太郎を付け狙う猛獣も、等しく砂漠の上で生きている。

 砂漠とはその全てをしてひとつの生き物であるのだ。



 ーー砂漠は女体だ。



 艶めかしい丘陵の形は、誘うようにぐねりぐねりと姿を変える。

 夜になれば純白の肌は上気し、湯気を立ち上らせ締太郎を誘う。

 しかし砂漠はまだ誰のものでもない。

 砂漠とは、未だ男を知らぬ生娘だ。

 その悠久の時を湛えた、地球最後の処女だ。

 その処女を、締太郎は奪う。



「ーー今日俺は、砂漠を緊縛する」



 如何にしてか?何をもって緊縛とするのか?純潔を奪われた砂漠はどうなってしまうのか?

 締太郎は、かつてない仕事に武者震いを隠さない。



 緊縛生活28年、締太郎最期にして最大の緊縛が今、始まろうとしていたーー

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