第38話 美しき猫

 アナが眠ってしまった為滑走では帰れず、夜行バスで帰ることになった。

 大舞も眠り、エドルはなんか念仏を唱えてる。

「なあ、小吉」

「ん?」

 哀が呟いたような声で呼んだ。

「……」

「なんだよ」

「……いや、なんでもない」

 なんなんだこいつ。

「おお。哀と小吉のカップリングが成立か? あたしは推すぞ」

「やめてくんない?」

 真も、なんなんだこいつ。

「否。お似合いだよ。あたしは誰がなんと言おうと推すからね!」

「まじでやめて」

「小吉、今夜は寝かせねえ」

「ややこしくなるから!」

 それにそろそろ夜が開けそうな時間で……、本当に今夜は寝なかった。

 こんなに遅い時間になったのには勿論理由があり、簡単には説明しずらいのだが……。ただ言えるのは俺たち全員、特にアナはエルフにトラウマを植え付けられてしまったということ。やめろ。詮索しないでくれ。

「後でまた能代行こうな」

「エルフ怖い」

「でも町並みはよかったろ」

「それは……、否定できない」

 実際能代の街は木都もくとと呼ばれるだけあって神秘的だった。木都というより「木」だったけど。

「それに、小野小町の供養をしてやらなきゃね」

「ええええ。あいつの供養なんかすんのおお?」

 真の提案に哀は消極的どころか、死者に失礼とも言える態度をとった。

「いや、供養してやれよ……」

 実際、美人っちゃ美人だったし。

 と、心の中だけで思ってたつもりだったが、ポカーンとしてる真と哀の様子を見る限りもしかしたら口にしてしまったかもしれない。

 ……かもしれないってか、言ってたらなんか恥ずいな。

「ほ、ほう。小吉にも美醜の概念があったとは」

「ま、まあ、いいんじゃねえの。年頃の男子だからな」

 なんだよその、可哀想なものを庇うような笑い方は。

「ちょっと小吉さん!」

 声を荒らげたのは……、寝ていたはずのアナだった。

「どういうことですか! 私を差し置いて美人に目が行くなんて! あんの泥棒猫めえええ!!」

「アナ落ち着け! 他のお客さんもいるから!」

「落ち着いてられますか! 小吉さん! 今夜は寝かせませんよ!」

「お前もかよ!」

 ちゃんと寝たいよ。

「木下……、うるさい」

「なんや賑やかやなぁ」

 アナの声に、大舞は目覚めてエドルも現実に戻ってきたようだ。

「小吉さんもやっぱり胸が大きくて化粧が上手でスタイルのいい日本美人が好きなんですね! そういうことなんですね!?」

 多分日本美人は外国の美人ほどスタイル良くない。いや知らんけど。

「木下、うるさい!」

「賑やかで良いじゃねえか! はははは!」

「良くねえよ! 他のお客さん見てるから!」

「なんか、すんませんねぇ」

「ほう。エドルが謝るとは珍しいこともあるもんだね」

 どんどん騒がしくなる俺ら。流石に駄目だと思った矢先。

『後ろのお客様、お静かにお願いします』

「「「……はい」」」

 運転手の一言で一気に静まり、その後東京に着くまで誰一人声を出す者はいなかった。

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