第30話 小野小町

 声とともに、十二単じゅうにひとえを身にまとった女性が現れた。部屋に入って来たのではなく、現れたのだ。

 扇で顔を隠しており、長い髪とエルフではないと分かる普通の耳しか見えない。

 女性は向かいの座布団に座り、ため息を吐いてから言葉を発する。

「ふぅ。お主らが旅の者らかえ?」

「せや」

 エドルが答えた。

「なんでまた、こんなところまで?」

「俺らは冒険者なんやけど、この近くんkクエストで来てな。ついででエルフの街ってのを見に来たんや」

「はあ。冒険者であるか。それはご苦労であった」

「あんたは誰や」

「わっちかえ?」

 女性が聞き、エドルは頷いた。

「わっちはこの地の長をしている者。名はさっきも右大臣が言ったように、小野小町である」

 小野小町って言うと、世界三大美女のあの人か?

「小野小町……。どっかで聞いたことがあるわね」

 大舞があごに指を乗せる。

「それもそのはずじゃ。なんせ、わっちよりも美しい女はおらぬでな。世界一の美女としてお主も名を聞いているであろう」

 やっぱり、その小町さんでしたか。

「なんかムカつく……」

 大舞はなんか不機嫌そうだ。

「して、小野小町さんや。何故わざわざ、俺たちをお招きくださったのです?」

 言ったのは哀だ。意外に言葉遣いが丁寧で、少し驚いた。もう少し荒いイメージがあって……。

「うむ。お主はどこかで見た覚えのある顔だ。名をなんと申す」

「古井哀でございます」

「古井……哀。もしやお主、戦の救世主であるか?」

「そう呼ばれているかも知れませんね」

 哀は結構有名人なんだな。

 と思いながら、二人の会話を聞き流す。

「百年も前であったか。ご苦労であったな」

「そうですね。お褒めにいただき光栄です」

「なに。お主は世界を救ったのじゃ。今やわっちと同等であると思っても良いだろう」

 哀すご。世界一の美女と同等だってさ。

「は。それではこれより、言葉遣いを改めさせていただくとともに、お聞きしたいことを一つ」

「なんじゃ?」

 なんだ?

 哀はニヤリと笑い、右膝を立てて言った。

「股は寂しくねえか? 俺は寂しかったぜクソビッチ」

 ………………。

 その場の全員、静まりかえる。空気が冷たい。

 哀の本性なのか、ただの挑発なのか。どっちにしろ、一日一緒にいただけではわからない事だらけだと知り。

 ついでに言うなら、小町さんの殺気が恐ろしいんですが。これで哀が殺されたら保険おりるのかな?

「今、なんと言った?」

 ああダメだ。殺されるの哀だけで済むかな?

「ビッチ」

「あいや、その前」

「その前? 股は寂しくなかったかって?」

「あああ。行き過ぎじゃ」

「俺は寂しかったぜ、だな」

 そんな事を言っていたか。……言ってたな。

「お主、あの夜のことを! わっちは隠そうと思っていたのに、お主は平気でええ!」

「なに? 哀と小町さん、昔なんかあったの?」

「小吉さん。きっと、元恋人ってやつですよ」

「いや。股だとかあの夜だとか言っていたし、セフレだったんだろう」

「真って、よくそういうことポンって言えるよね」

「ん? 花奈はそんな淫らな服装でいて、言えないのか? 意外だな」

「服装や雰囲気で決めちゃダメですよ」

「アナ。確かにそうなんだけども。その会話を止めてくれないかな? 話逸れてるから。俺はアナに話を止める期待をしていたりするんだけども」

「そんな。小吉さんが私に期待なんて……。エヘヘヘ」

「ああ。この子もダメな子だ」

「しかしだな花奈。男女での性行為というのは」

「だから、なんで平気で言えるの?」

 騒がしい。普通に。

「あの、少し黙って貰えるかえ……?」

 ほら。小町さんも困ってる。

「小町ちゃんも、はっきり言ったらどうなのぉ?」

「隠すのは良くないぞぉ?」

 ガールズトーク!?

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