秀美の恋

第28話 エルフ

 能代はエルフの街のため『木都もくと』と呼ばれている、とは聞いていた。

 でもこれは聞いてない。

 いや、木都とはそういうことなのか?

 林業が盛んで、木造建築が多いから木都なのではなく?

 そうなのか......?

「着いたで」

 エドルが告げて降りたそこは、信じられないやはり能代で間違いないようだった。

 しかしこれは......。

「聞いていた通りの『木都』やなぁ」

「これが『木都』かあ」

「『木都』、素晴らしいです!」

 いやなんか、みんな納得してるし。

 確かに林であり木造建築が多いけど。

 いや、建築?

 その光景に、俺は自分の思考すらまとまらなくなっていた。

 何故なら。それは、目の前の『木都』は文字通りで、しかし言うなれば都がつかず『木』と呼ぶのが適切だと思うような......。


 巨大樹の林だからだ。


 直径5メートル程の巨大樹が立ち並び、それらにはドアや窓の様な穴も空いている。

 そして見渡す限りエルフがいない。衰退した町なのだろうか。これは都とは言えない。

 すなわち、エルフの町能代は、『木都』ではなく『木』でしたと。

「そもそもこれ、人住んでるのか?」

「ゴーストタウン、って感じだねえ」

「ゴースト!? またおばけですか!」

 真の例えにアナが反応する。どんだけ怖がってんだか......。

「とにかく、街に入ってみなければ」

「哀にもここが街に見えるのかあ」

 いや、異世界慣れした哀には、もはや当然のような風景なのか? エドルと真も異世界に(俺よりは)長くいたから、こういうのは見慣れてたり......。アナも、イタリアには密かに、こういう街が存在しているのかもしれない。大舞は......。

 あれ? アニメとかも見ないし異世界歴も俺と同じなのに、大舞はなんで普通に街だと認識してんだ? え、俺がおかしいのかな?

「なあお前ら、一応確認なんだけど」

「なんや?」

「この能代、パッと見街だと思う?」

「「全然」」

「ですよね」

 良かったぁーーーーーーー! みんな普通だったあああああーーーーー!

「それじゃあ行こうか」

 真を先頭に、俺らは能代に歩いて入って行く。道は予想通りというか砂利で、草で道が見えないところもある。

「にしても、本当に誰もいませんね」

「本当にいるのかエルフ」

「ねえ、そういえばエルフって何?」

 大舞が聞いた。そこまでの異世界初心者だったのか。

「エルフってのは魔法に特化した種族で、綺麗な顔立ちと長い耳が特徴的なんだよ」

「へえ。木下キモ」

「今のでなんでそうなった!?」

 陽キャ様の思考は読めません、陰キャの木下小吉でございます。

 俺らがそんなやり取りをする中、哀はじっくりと辺りを見回していた。そして何かに気がついたような反応をして言った。

「あそこに誰かいるぞ」

「ほんまか?」

 俺らは哀の指さす方を見た。確かに人影が見える。尖った耳のようなものも見えるし、エルフだろう。

「木下、話しかけて来て」

「なんで俺なんだよ」

「小吉、行って来てくれんか?」

「小吉さんお願いします」

「頼んだよ小吉」

「小吉、期待してるぞ」

「なんでだよ......」

 俺はハアとため息をつき、エルフの元へ行った。

「あの、すいません」

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