第27話 レール

 月斬丸は古井の腰の鞘に入り、ゆっくりと眠った。

 眠る前、月斬丸は古井に「ついて行っても良い。好きにせい」と言い残した。どうやら契約とは、月斬丸の気分による物で、魔法による強制などはないようだ。

「んじゃあ古井。俺らと一緒に来るんだな?」

「ああ。行かせてもらう。マギウス......」

「ユーリさんの苗字に、なんか心当たりでもあんのか?」

「いや。小吉には関係ないことだ。それと、俺の事はあいと呼んでくれ」

「わかった」

 俺と哀は互いに拳をぶつける。......なんか男の友情っぽくてかっこよかった。

 忘れかけていたしんは、エドルが触手を伸ばして助けた。

 俺たちが外に出ると、既に日は落ちきり、敷地の外では大舞とアナが肩を並べて寝ていた。

「おいお前ら。起きろ。帰るぞ」

「うーん......。木下?」

「小吉さん、オバケは?」

「倒して来たから。......エドルが」

「エドルが......、ね」

 大舞が繰り返して言う。表情を見るに、半分が嘲ていて半分が同情だろう。

「で、その人は誰なんですか?」

 アナが哀を見て言った。

「こいつは古井哀」

「ああ、木下が何回か言ってた名前ね。この人だったんだ」

「そうそう」

「......」

 大舞は理解したようだが、アナは俯いて震えていた。

「どうしたんだアナ」

「全然オバケ倒してないじゃないですかああああぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」

 突然叫んだアナ。全員が驚きに視線を向ける。

「あ、アナ?」

「その哀さんがオバケの現況なんですよね? てことは哀さんはオバケじゃないですか! 倒してないじゃないですか!!」

「あ俺、一応ネクロマンサーの資格持って......」

「そういうのは関係ないです! エドルさん、さっさとその人を討伐してください! 早く!」

「「ええええ」」

 アナを除く全員が声を揃えて言った。

 にしても、アナのホラー嫌いがこれほどとは......。哀にまで恐怖心と憎悪を向けるなんて。

「ちょっと待てよ。俺は不死身なだけで幽霊じゃ」

「人間じゃないんですから同じです!」

 アナは亜人、エルフ、悪魔を全員敵に回しました。


 その後アナをどうにか説得し、哀は連れて行けることになった。


「んでエドル。もうこのまま帰るのか?」

「帰りたいんか?」

「いや、俺はどっちでもいいけど」

「俺は折角やし、少し観光でもしようか思っとったんやけど」

「「観光!!」」

 アナと大舞が目を輝かせた。

「でも秋田って、特別見るような観光スポットあるのか? 俺詳しくないんだけど」

 俺が聞くと、哀が答えた。

「それなら、能代のしろに行ったらどうだ?」

「能代?」

「ああ。俺も噂を聞いたらくらいなんだが、エルフの町らしい」

「エルフ......」

 どうやら能代はエルフが三百年前から、戦争のために拠点にしていた町で、今もそこに住んでいるようだ。エルフ特有の文化として木造の建物が多く、能代は『木都もくと』と呼ばれているらしい。他にも『バスケの町』、『宇宙の町』など、暇を持て余したエルフ達が築き上げた、県内でも有名な町だそう。

「んじゃあその能代、行ってみるか」

「アナ、運転頼むで」

「え?」

 エドルはアナに触手をかけ、来た時と同じ方法で移動をしようとした。

「いやあああああああああああ!!!」

 アナの叫び声が耳に響く......。

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