愛と哀

第20話 恩

 ギルドハウスを装う我が家。ただのアパートであり俺が転生前に住んでいた場所と同住所である家に帰ると、俺はすぐに布団に横になる。徹夜で歴史を勉強していたからくっそ眠い。

 が、休みたい俺にすらギルマスのエドルは容赦ない。「帰ってきたならクエストに行くで」ではない。あいつはただの脳筋バカ。力こそあるがそんなに真面目ではない。

 部屋に入るなり、俺に腹パンを食らわせた。

「おかえり小吉!」

「痛ぁぁぁぁぁぁ!」

 肉が八十キロ、天空遥か五万メートルから落ちてきたような勢いだ。

「何すんだよバカ!」

「旅行行くんやよ!」

 いきなりの一言に、俺は頭がこんがらがった。

「は? 旅行?」

「せや。旅行や」

「どこに」

「秋田」

 聞くと、昨夜俺がマギウス家に行っている間に、組合から報酬が届いたらしい。金額はざっと二百万円。更に手紙で、秋田にある『幽霊屋敷』の噂を何とかして欲しいとの事だった。

「どうやらその幽霊屋敷の奥には天下の宝刀と呼ばれとる『月武者』があるらしいんや。それを見つけると大金が貰えるとか何とか。金やで。行くしかないやろ」

「まだ金欲しいのかよ」

「アパートに五人は狭いやろ。お前の刀がサテナになった時なんかもっとや。広めの家が欲しいんや」

「確かにな……」

 それに幽霊か。生きた死人。もしかしたら不死身である古井ふるいあいとも何か関係があったり……。

 や、ないか。

「まあ、幽霊屋敷とか面白そうだし、俺はいいよ」

「なんで承諾しちゃうんですかぁぁぁああ!」

 泣き叫んで部屋に入ってきたのはアナだった。

「これで賛成三人反対二人。行くこと決定やな」

「小吉さん! そこは! そこは行かないって言いましょうよ!」

「いや、俺の勝手だろ。ってか痛い! 離せよぉ!」

 俺の服を掴み猛スピードで揺らすアナを無理矢理離す。

「だってぇー、行きたくないんですよぉ」

「お前、オバケとか怖いの?」

 俺が聞くとアナはコクりと頷いた。

「じゃあお前は行かなきゃいいんじゃね」

「全員強制参加や。ギルドやからな」

「別に良いだろ! 行きたいやつだけで!」

「みんなで行きたいやろ! みんなで楽しみたいやろ!」

「幽霊屋敷なんか楽しめるわけないですよぉぉぉ!」

「じゃかあしい!」

 耳に響くでかい声はしんだ。

「あんたら。花奈が気絶したままなんだからちょっとは静かにしなよ」

「気絶?」

「ああ。エドルが旅行行くって言ったら花奈大喜びしたんだけど、幽霊屋敷行くって言った途端に気絶しちまったんだよ」

「まぁ、大舞は幽霊苦手そうだしな」

「あたしも苦手でさ。ほんとやになるよ」

 真はそう言って部屋を出ていった。

「ん? となると反対三人じゃないのか?」

「花奈、絶対行く言うとったで」

「それ、幽霊屋敷の話する前だよな」

「……」

 エドルに一発ビンタしたが、やっぱり筋肉は硬かった。

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