第16話 想うほど

 メイド喫茶を出た俺たちはのちょっとした観光を始めた。ついでに情報収集もする。

 俺たちのいた日本の秋葉原とは全然違う。俺らの秋葉原は電気屋が多く、少し前まで闇市だった場所だ。

 しかしこの秋葉原は建物こそ洋風だが、さっきのようなメイド喫茶や玩具を売った店、アイドル歌手の育成所等がある。文化はだいぶ発展しているようだ。

「すみません。お伺いしてよろしいでしょうか」

 たっきがメガネとハチマキ、少女が描かれたシャツにリュックを背負う太った青年に質問した。

「悪いけど拙者は今から美少女平民ブレザームーンの期間限定フィギュアを買わないといけないので急いでいるんだお。他にあたってみ」

 呆気なく断られてしまった。

「そうですか。買えるといいですね」

 たっき。なんて良い奴。永遠の親友だ。

「悪いあいっち。今のところ大した情報は……」

「いいって。俺なんて見てるだけだしよ」

「そんな事はない。あいっちも目で情報を手に入れているじゃないか」

 捉え方!

「俺、たっきの親友で本当に良かった。幸せ」

「あいっち。俺もだ」

 相思相愛。最高だぜベスフレン。

「今日はどっか良いホテルに泊まるか」

「そうだな。しっかり疲れを癒さないと」

「いいや。寝かせないぜ」

「何を言っているんだ」

 たっきに怒られちゃった。


「帰って頂けませんか?」

「そこをなんとか!」

「本当にダメなんですよ」

 ホテルのオフィスレディと交渉するたっき。今日はあいつ、ずっと喋りっぱなしだな。やっぱり寝かせるか。

「そこをなんとか」

「もう帰れ!」

 オフィスレディに蹴りを入れられ、たっきがとぼとぼと戻ってきた。

「ダメだったか」

「ああ」

「なんで」

「わかるだろ」

「わからん」

「俺らこっちの金持ってない」

 あ。そういえば俺ら1文無しじゃん。

 メイド喫茶では「初めてご利用のお客様にはコーヒー一杯無料なんですよ」と言われて、結果的にタダで珈琲コーヒーを飲んだ。だが宿屋はそうも行かない。一杯の珈琲と一室一晩は訳が違う。

「寝床どうする?」

「野宿しかない」

「そっか」

 その夜。俺らは捨てられたエロ本を布団にして眠った。股間からあったまるのがよくわかった。わかっちゃダメか。


 朝になる。今日も情報収集。

「たっき。俺思ったんだけどさ」

「ん?」

「秋葉原で、何を聞くの?」

「というと?」

「ここは異世界で別な時代ってわかった。後は何を知ろうとしてるんだ?」

「戦争の期限と詳しい情勢」

「それ、秋葉原で聞き込みする必要あるか?」

「は!」

 たっきの顔から色がなくなった。

「おーい。たっき?」

 返事がない。ただのしかばねのようだ。

「たっき、大丈夫か?」

 返事を促す。固まったままだ。

 ……まじで動かねえんだけど。まるで屍どころか、屍になってんじゃねえか?

「し、しっかりしろ」

 俺はたっきの肩をポンポンと叩いた。

「は!」

「あ、起きた」

 さっきと同じ言葉でたっきは気がついた。

「俺は何を」

「チコリん星に行ってたぜ」

「どこだよそこ」

「知らん。とにかく無事で良かった」

「チコリん星は危険なのか?」

「知らん」

 チコリん星とはてきとうに言っただけだ。

「んで、さっきの話だが」

 俺が話題を戻して。感謝しろ。

「ああ。秋葉原で聞き込みしなくてもいいって事だな」

「そーそー」

 覚えてたみたいだ。

「どうすんの」

「確かにあいっちの言う通り、聞き込みをしなくても図書館や資料館、その他関係者を訪ねればいいだろう」

「じゃあそうすんのか?」

「いや、無料だな」

「なんで」

 そうすればいいじゃんか。

 たっきがハアとため息をつく。

「図書館の場所知ってるか?」

「知らん」

「関係者が誰か知ってるか?」

「知らん……」

 そっか。そうだよな。


 どうすんだよ。

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