こんな異世界納得できねえ

窓雨太郎(マドアメタロウ)

第1話 小さな話

 見た事のある景色。

 いつも通る道。毎日見る公園。

 多く建ち並ぶ高層ビル。少ししかない緑。

 怖いヤンキー。ウザイギャル。

 どっかで見た店。食べた事のある飯。

 めっちゃ強いポリス。必要とされない冒険者。

 こんなところが異世界だなんて。

 こんな異世界、俺は納得できねえ。


 俺の記憶が正しければ、確か雨の日だった。

 滅多めったに家から出ない俺は、その日だけ昼間から散歩に出かけた。滅多に出ないと言っても休日の事で、平日はしっかり学校に行っている。

 珍しく休日、しかも雨の日に出歩いた俺だが、その日は奇妙きみょうな女に出会った。恐らく出かけたからだろう。

 何があったか簡単に説明しよう。出かけてテンション高い同級生に会って、変な女に変な事言われた。それだけだが、詳しく説明するなら――――――


 雨の音がやたらうるさく感じる。普段はそうでもないのに、今日は苛立った。

「……散歩でもすっか……」

 何故そう思ったか自分でもわからなかったが、どうしても外に出たい気分だった。

 傘に雨が当たり、屋根に降った雨と同じ音が鳴っている。しかし、家で聞いた音よりは気持ちよく聞こえるのが不思議ふしぎだ。

 そんな事を考えていたら、いつの間にか通学路にある公園に着いた。雨が降っているからだろう。子供は一人もいなかった。その代わりに、めんどくさい奴を見つけてしまった。

 俺は見つからないようにこっそり帰ろうとしたが、

「あれ? 木下じゃん! 何してんの?」

 見つかった。見つかった上に名前を言われた自己紹介もまだしてないのに。  という事で自己紹介をしよう。名前は木下小吉きのした しょうきち。中学三年だが、名前の通りにちいさい。これだけで十分だと思う。

 俺は急に呼んできた女の方を向き、返答した。

「よお。同じクラスの大舞花奈おおま かなじゃん。俺は散歩だけど、お前こそ何してんだ?」

「ウチは家から逃げて来たの。親がうるさくてさ……」

「そっか」

 そんなやり取りをしながら大舞の方に歩いて行き、大舞と話した。クラスの事や進路の事、親や先生の愚痴ぐちなどを言い合った。

 大舞は典型的てんけいてきなギャルと言った感じで、俺みたいな友達少ない奴とは真逆の存在だ。

 しばらく話していると、雨は止んでいたが、突然目の前に意味不明な物が現れた。

 金髪ロングで中世ヨーロッパのような姿をした女だ。そいつは急に話しかけてきた。

「私はメテナド=ドラゴニム。あなた達はめでたく異世界転生いせかいてんせいができるようになりました。」

 ……はぁ?

「いせかいてんせい? 何それ」

 大舞は異世界転生が何かすらわからないようだ。

「異世界転生するにあたって、あなた達の能力が与えられます。」

「ちょっと! 話聞いてる!?」

 大舞を無視して、メテナドはどんどん話を進めて行く。

「こちらの紙にあなた達の能力が書いているのでどうぞ」

「ちょっとおおおおお!!!!!」

「大舞、諦めろ」

 俺はずっと言い続ける大舞に無駄だ言いながらメテナドから紙を受け取った。

 紙を見るとデカい文字でこう書かれていた。

予言よげん

「……なんだ?これ」

「それがあなたの能力です。」

 予言か……そのままの感じだが、多分予言できるんだろう。

 ところで大舞の能力はなんだ?

「ちょっと! これどういう事!?」

 大舞うが大声を出したのでビビったが、丁度気になっていたし大舞の紙を覗いてみた。書いていたのは……

「「『秘密ひみつ』ってどういう事!?」」

 見事にハモった。

「二人とも、自分の能力はわかりましたか?では異世界へ行きましょう」

 またもや大舞は無視され、俺らはメテナドに掴まれた。

「異世界へレッツゴー!」

「いや!ちょっと待てよ!!」

 叫んだ頃には遅く、既に真っ暗闇しかし見えていなかった。

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