第2話
廃棄された地下鉄を出て地表に上がると、計測器がけたたましく音を出し始めた。
僕は一応数値を確認し、それが政府の定めた危険水域を余裕で超過しているのにため息をついて、さっさと警報をミュートにする。
「汚れた炎」によって汚染されたこの廃都は、未だに人間を拒み続けていた。
僕はガスマスクのバイザーに付いた塵を拭い、ヘッドギアに装着されたライトの電源を入れる。夜の闇の中から、かつて賑わった大都市の死骸が浮かび上がる。
「さて、行きますか」
そうつぶやいて僕は歩き始める。目的地は僕がかつて通っていた「中学校」だ、正確には中高一貫校なのだが、中等部までしか通ってなかった僕には中学校という認識しかない。
僕の足は、例え夜の闇の中でも、都市が崩壊により様相が変容していたも容易にその学校までの道順をたどってくれた。
静寂の闇の中に、僕のライトの閃光と、歩く音だけが反響して響き渡る。今日のために新調したハロゲンライトの光は鋭く、全身を覆う重装備は一歩進むたびにカチャカチャと騒がしい音を盛大に立て、僕を「寂しさ」や「心細さ」から遠ざけた。
学校は直ぐに見えてきた。
衛星画像情報から分かっていた事だが「汚れた炎」の直撃は免れていたようで構造が崩壊している様子は一切見らず。雑居ビルの合間にかつての姿のまま聳え立っている。
僕はそのまま校門をくぐり、一先ず中等部の普通科の校舎へと進入する。
途中ちらりと校庭が見えた。草木が鬱蒼と生い茂るような変貌を遂げていると思っていたが、予想に反してスギナの類が雑然と生えているだけで、風食の跡を除けばほとんど当時の姿のままであった。
普通科の校舎にたどり着く。この地区が廃棄される直前、この高校は近隣住人の避難所としての役割を担っていた。その為か、受付と思わしき簡易テーブルの連結体や、避難民の情報を記録していたと思わしきノートが散乱している。
校舎の中に入り土足のまま下駄箱の群れを抜ける。そのまま土と雨水で汚れた廊下を進み、適当な教室の扉を開く。
中は荒れ放題だった。大量の土や落ち葉が入り込み、清潔さは欠片もなくなっている。小動物が住み着いてる気配もあった。
僕は机やイスをどかし、適当なスペースを作ると簡易寝袋を広げた。
本来なら、ここで休憩を取るべきではない。あと3時間もすれば朝になってしまい、太陽光により汚染物質が活性化してしまう、だから夜の内に作業を終わらせるべきだ。
だけど、地下駅でくだらないイザコザに巻き込まれたせいで体力的にも、残存バッテリー量的にもこれ以上の探索は困難だ。
僕は携帯ソーラーパネルを屋外に投げると、抑制剤を注射器で4本ほど静脈に打ち込み、寝袋にくるまった。
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