聖なる夜に(リメイク版)

NEO

押し入れの奥

 埃っぽい押し入れの奥。そこが僕の指定席なんだ。

 ここに来てから、もうどのくらい経つかな。忘れちゃったけれど、分からない事ばかり。だって、ずっとここにいるんだもん。

 でも、たった一つだけ分かっていることがあるんだ。僕は、人間が「一年」っていう中で、ほんの一時しか必用とされていないこと。ううん、それが嫌なんじゃない。逆にいいと思っているんだ。だって、あんなに綺麗に飾ってもらって、光る何かを付けてもらって……たまにあるから嬉しいと思うんだ。毎日あれだったら、きっと面白くないよ。うん。

 

 こんな僕にも友達がいる。すぐとなりのバケツとかいうものにグチャグチャにはいっている、オモチャさんたちだ。

 僕が来た時は結構押し入れから出入りしていたみたいだけど、最近ば僕と同じで押し入れから出ていない。……いや、僕より出ていないね。一年に一回出して貰える僕だけど、オモチャさんたちはずっと出ていない。退屈しないのかなと思うけど、いつもみんな元気にはしゃいでいる。欠けたり取れたり、みんなボロボロだけどとにかく元気なんだ。


 ある日、外で人間の声が聞こえた。僕の出番かなと思ったけれど、人間の言葉は分からない。押し入れのドアが開けられ、僕じゃなくて隣のオモチャさんのバケツが引き出された。良かった、また外に出られたね。僕はその時心の底から思ったんだ。

 でも、それっきりオモチャさんたちは帰ってこなかったんだ。暗いから日にちなんて分からないけれど、もう二度とオモチャさんたちは帰ってこない。これだけは、なぜかはっきりそう思えたんだ。僕は寂しくなっちゃったけれど、どこかで元気に遊んでいるならいいな。


 そして、この日がやってきた。僕は押し入れから引き出され、色々な飾りで全身を輝かせ、てっぺんに光る星なんて乗せてもらってこれ以上はなくご機嫌なんだ。

 長い間に星なんて割れちゃって、透明ななにかでグルグルに巻いたりして、ちょっぴりボロいけど、そんな事なんてどうだっていいんだ。みんなが僕を見て楽しんで欲しい、そうすれば僕も楽しくなる。これこそが、僕が待っていた瞬間なんだ。ああ、ちょっと待って。なにか飲んで機嫌がいいのは分かるけど、そんなところ引っ張ったら枝が折れちゃう!! ポキッ。


 それから、何回出してもらったかな?

 その年、僕は押し入れにしまわれる事はなかった。飾りを外される事もなく、そのまま……家っていったっけ? そこから出されて、中に何かが詰まった袋がたくさん集められた所に、そのまま置き去りにされてしまった。

 何が起きたか分からないまま混乱していると、怖い音がする何かがやってきて、次々と袋を飲み込み始めた。怖い……。

 そして僕の体も持ち上げられ……バキバキという音と共に、僕の体が壊されていく。僕、何か悪い事した? なんで……。

 その疑問は解決されないまま、僕の意識は永遠に粉砕されたのでした……。


(完)




「……ってこら、勝手に終わってるんじゃねぇよ!!」

「はい? あれ、喋れる?」

 僕は慌てて辺りを見回しました。どこでしょう、ここは……見たことのない光景です。

「おう。今な、トナカイ不足で困ってるんだ。いくら少子高齢化たってお前、子供はいるからな。で、お前さんみたいなのを探していたのよ。お前、トナカイな。

一年修行すれば問題ねぇ」

 そこには、ソリに乗り、真っ赤な衣装にサングラスををかけ、何かを吸っている白髭のお爺さんがいました。はっきり言って、怖いです。

「ちっ、最近はうるさいからな。紙巻きタバコが吸えねえってのは悲しいぜ。ちっ、詰まりやがった」

 吸っていた何かをカチャカチャやりながら、お爺さんはぼやいていますが、これは無視してよさそうです。

「あ、あの、トナカイってどういうことですか?」

「あっ、今のお前だよ。馴れればいいもんだぜ。多分な」

 豪快に笑うお爺さんはどうでもいいので、僕は慌てて自分の体を見ました。四本足の何か……?

 危うく卒倒しそうになりました。本気で驚きました。なんなのでしょう、これは。

「あのままゴミ収集車で焼却場よかマシだろ? まあ、俺のシゴキはちとキツいが、やり返してやろうと思わないのか、人間どもによ。死ぬほどプレゼント配りまくって、思い切りありがたがってもらおうじゃねぇか。まっ、オイシイところは俺が持っていくんだがな」

 またも豪快に笑うお爺さん。

「というわけで、お前の身は勝手に預かった。名前決めなきゃな。「つぃんかむ」と「たーぼ」どっちがいい?」

「ええ、えっと、その前にあなたのお名前は」

 僕はもう大混乱です。状況に頭が付いていきませんが、どうやらなにか違う物になったのは確かなようです。

「おいおい、マジかよ。俺は伝説の不在票知らず、無敵の宅配屋サンタクロースだ。まあ、よろしくな」

「は、はい、よろしくお願いします」

 よく分かりませんが、強そうです。はい。

「ところでお前の名前なんだが、二つくっつけて「つぃんかむ・たーぼ」にしよう。よし、無駄に速そうでよし!!」

「……はい」

 この押しの強さに勝てるわけがありません。

 こうして、僕は押し入れの外に出る事になりました。永遠に。

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