日本――私立金剛智高等学校

本校舎――その跡地

 早朝。

 数えきれぬ光の束が縦に走り天地を繋ぐ、だだっ広い野原。その外れ。


生徒「おはようございます、寺島先生」

教師「おはよう狩魔さん。あら、アルティアさんはまだ寝起き?」

転入生「……んー……ふわぁぁ……失敬」

教師「わたしこそごめんなさいね、こんな早い時間に呼び出しちゃって」

転入生「……いいえ」

教師「そのバッグ、いつも持ち歩いてるのねぇ。また銃器関係でも持ち歩いてるのかしら?」

転入生「……はあ、まあ」

生徒「けど、どうしたんです急に? まさか、ルキちゃんたち見つかったんですか?」

教師「いえ、そうじゃないけれどね」

生徒「三日も経つのに音沙汰ないなんて、絶対何かあったんだわ、あの二人。やっぱり先生の言う通り、警察に連絡したほうがいいんじゃ」

教師「その話はまた後でね。何はさて置き、まずあれを見てほしいの。ほら、あの辺り……あとあそこにも」

生徒「! 地面から、霊子エーテロンの柱が……でも、すごい数ですね。どうしてこんなに」

転入生「……〈禍座〉」

生徒「え? アルティア、今なんて」

転入生「〈禍座〉だ。間違いない」

生徒「うっそぉ……ここが? だってここ、学校があった所だよ」

転入生「灯台下暗しとはまさにこのこと。よもや学校の敷地内に存在したとは。おかげですっかり眼が醒めた。先生、お手数をおかけしました」

教師「いいのよ、わたしもたまたま今日が早出で、偶然見かけただけだもの。まさかとは思ったけれど、本当にあれがあなたたちのお目当ての場所だったなんてね」

生徒「アルティア。先生に話しておいてよかったね、〈禍座〉のこと」

転入生「ああ。ワチキらが一番乗りだ……おや、早くも嗅ぎつけたか」

教師「……誰か来るわ」

生徒「里見衆!」

転入生「あの黒服は、十種の神宝を盗まれた一味だな」

生徒「猿田の衛士もいるね。あの二人だけじゃないよ、もっと大勢」

転入生「その後ろにいるのは、確か……」

生徒「うっわ、幹部会じゃん! 陰陽師の。もうあの人たちとやり合うのコリゴリなんだけど」

里見衆「……娘よ、お主らも来ておったか」

生徒「な、何よ、またやる気?」

里見衆「これだけの数を相手に渡り合おうとてか」

生徒「うーん、ちょっと考えさせて」

里見衆「考えるまでもなかろう。命を粗末にするでない」

衛士「娘。ここに集いし者らは皆、逐電士の青年に用があるのだ。彼奴きゃつはどこにいる?」

生徒「知らないよ。こっちが訊きたいくらい」

衛士「すると、お主も何か盗まれたのか?」

陰陽師「憐れよのう。裏切られたか」

生徒「そんなんじゃないわよっ」

里見衆「確かに、お前たちの手許に我が宝はないようだが……」

衛士「だが、ならばこの霊気の充溢じゅういつはどう説明をつける?」

老人「そうじゃそうじゃ、見よこの大地の騒ぎようを! まるで広大なる地球そのものが、内なる怒りを噴き出しとるようじゃないか。この近くに呪物が密集しとるのは間違いないのじゃ」

生徒「おじーさん、誰?」

老人「爺と呼ぶでない、儂は熾天使じゃっ! 以前はうちの若い衆が世話になったのう」

転入生「そのボロっちい鎧……ああ、あの雑魚五人」

老人「き、きっさまぁ、ヒヒイロカネを護りし一輪の薔薇十文字団を、愚弄するか!」

生徒「待って、向こうからも誰か来たよ」

老人「儂を無視するでない!」

天使「ご、ご老体、お気を鎮めて」

老人「ろ、老体と呼ぶな! 熾天使と呼べい」

生徒「ちょ、ちょっとすごい数じゃない?」

教師「ええ……ざっと見ても、うちの学校の全生徒より多いわね。それに全員完全武装って感じだわ」

生徒「ねえアルティア、あれってこないだ会った人たちだよね」

転入生「うむ。エレウシス・ミステリアにドルイドギルド、モンセギュール・コミューン……いや、以前とは異なる顔触れも混じっている」

生徒「あ、ほんとだ」

転入生「ほほう……遂にイングランドの重鎮・薔薇十字団ローゼンクロイツァーもこの地にご到着か。その後ろには、盟友たる黄金の夜明け団ゴールデン・ドーン払暁ふつぎょうに相応しい登場ではある。薔薇十字は甚大な被害を被ったと聞くが、大丈夫なのだろうか……おお、あれに見えるは徐福會! しかもあの影は、偃月刀に……蛇矛だぼうまで!」

生徒「ほら! あっちにいるの、北欧の人たちじゃない?」

転入生「おおう紛う方なき北欧の至宝ヴァルキュリュール黒翼部隊! ヒヒ、いつ見ても美しい……いっそ徐福の者らと切り結んでくれたら、未だかつて実現したことのない素晴らしい絵面になるのだが。レーヴァテイン対偃月刀。グングニル対蛇矛……マーヴェラス、想像しただけで胸が躍る! 欣喜きんき雀躍じゃくやく

生徒「ちょっとアルティア、落ち着いてってば。なんか眼つきヤバイよ」

教師「にしても、続々と集まってくるわね。一体これから、何が起きるのかしら」

生徒「先生、何暢気なこと言ってんですか。どう見たってあの人たち、戦闘モードですよ? 戦争でもおっぱじめる気なんじゃ」

教師「戦争は困るわねぇ。防空ごうでもあればいいんだけれど」

転入生「壮観ではあるがな。そういえば、あの者たちが見当たらないが。狩魔と同じ隠形術を使う、地味な外套がいとうの」

生徒「ローブの連中? 来なくていいよ、あんな奴ら。あなたも酷い目に遭ったでしょ。命からがら逃げ出したのよ、あたしたち。まだ擦り傷が痛むよ……って、ねえあれ見て!」

転入生「何事?」

生徒「あの光だけ、ほかのよりも大きいよ」

里見衆「むっ、下に何かあるぞ」

衛士「細長い、平らな板のような」

陰陽師「もしや、あの下に何かが」

老人「ヒヒイロカネじゃ! 儂らの霊具ヒヒイロカネがあるのじゃ! いざ取りに行かん!」

教師「待って、様子が変だわ」

老人「ええい、邪魔するでない……ぬおっ!」

天使「熾天使殿! いかがなされた」

老人「こ、腰が……ギックリ腰じゃ」

天使「…………」

老人「む、無念」

生徒「ねえ、あの板……丁度人一人分、入れるぐらいの大きさじゃない?」

教師「言われてみれば、そうだわね」

生徒「なんか、棺桶っぽくない? 下に誰か葬られてるのかも」

転入生「……ワールド・シェイカーか?」

里見衆「異国の娘ッ! 今なんと言った!?」

衛士「ワールド・シェイカー!?」

陰陽師「ワールド・シェイカーだと!?」

中国人「世界震駭者かッ!」

里見衆「覚醒したのか、世界震駭者が!!」

生徒「あ、いや、待ってよ。まだそうと決まったわけじゃ」

衛士「裂けるぞ、時代が分裂してしまうぞ!」

陰陽師「それでは、クン・ヤンの民の出現も間近ということか!」

天使「おお神よ! 天にまします我らが神よ! 混沌のこの世に、いよいよ世界を揺るがす者をもたらそうというのか!」

生徒「全然聞いてくれない、この人たち……」

大司教「この、大気を圧するような気魂波動。これこそが、ワールド・シェイカー復活の前兆なのか?」

団員「なんたることだ、どうするミカエル」

大天使「もはや万策尽きた。後は薔薇十字の兵力を総動員して、天にまします我らが神に、全てを委ねるしかあるまい」

天使「熾天使殿、横になられたほうがよろしいのでは」

老人「ええい下がれ下がりおれ! 十字団の腰抜け共と一緒にするでない。それこそ薔薇の名折れじゃ。たとえここで朽ち果てようとも、後ろ向きには倒れぬ! 前のめりに死んでこそ十文字団の本懐! ……イタタタ」

転入生「光の柱が、増えていく……」

長女「なんて美しいの……ヴァルハラ宮の宴も、あんな感じなのかしら」

生徒「あっ!」

教師「どうしたの、狩魔さん」

生徒「今、あそこの板が、微妙に動いたような」

教師「本当に?」

里見衆「しかしあの近くには誰もいないぞ。錯覚ではないか?」

衛士「いや、俺も見た。確かに動いた」

次女「何か……出てくるんじゃないの?」

衛士「ワールド・シェイカーか!?」

陰陽師「ワールド・シェイカーだと!?」

里見衆「世界震駭者かッ!」

大司教「とうとう降臨するのか、ワールド・シェイカーが」

老人「違う違う違ーう! 世界震駭者などでは断じてない! この光はヒヒイロカネの聖なる輝きなんじゃあ!」

三女「ま、また動いたよ……ふえーんなんか怖いよお姉ちゃーん」

陰陽師「おお、更に動いたぞ」

里見衆「開くのか、遂に開いてしまうのか?」

大司教「ひつぎから蘇りしワールド・シェイカー、果たしてそれは世界をあまねく照らす最高善なのか、それとも……」

転入生「柩が、開く……!」

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