スウェーデン――ストックホルム

特殊殺戮部隊本部施設

 所はスウェーデン。一方の壁に巨大ディスプレイ。その下に色取り取りのコンソールが整然と並んでいる。


三女「大変大変!」

長女「どうしたの」

次女「また芸能界のしょーもない噂話に踊らされてんでしょ」

三女「違うもん。ドルイドギルドの秘宝が、根こそぎ盗まれちゃったんだって!」

長女「ドルイドギルドって、アイルランドの?」

次女「うちと業務提携してるとこじゃん」

三女「そうそう、そこに泥棒が入って」

長女「根こそぎって大袈裟じゃない?」

次女「誇張しすぎでしょ。あんたの悪い癖」

三女「だって諜報部がそう言ってたんだもん! 嘘だと思うなら訊いてみなよ」

次女「判った判った。落ち着いて」

長女「犯人はまだ見つかってないのね」

三女「うん」

長女「正体は判明してるの?」

三女「まだみたい。だけど、多分……」

長女「多分?」

次女「ああ、ね。日本支部が言っていた」

三女「うん……諜報部のみんなも、あいつに違いないって。ロキみたいに狡猾こうかつで」

次女「フェンリルのように獰猛どうもうな、だっけ? そんな逃げ腰だからむざむざ出し抜かれちゃうんだよ。そんな奴、うちらでとっちめちゃえばいいんだよ! 早く出動命令来ないかな」

長女「血気盛んなのはいいけどね。実際に仕留める際は、ニヴルヘイムの氷の如く冷静になるのよ」

次女「判ってますって、お姉ちゃんの命令は絶対。そうそう、日本といえばさ、ハイデルマン教授のご令嬢が日本へ向かったんでしょ」

三女「へえ。何しに?」

次女「さあ、おおかた研究調査か何かでしょ。日本の高校に転入するとかしないとか」

三女「もうそんなとしなんだね」

長女「知能的にはオックスフォード大卒業してもおかしくないほどよ。あなたたちも精進なさい……それはともかく、我が部隊の三大至宝が全て無事なのは幸運というべきね」

三女「日頃の行いの賜物だねっ! あの三つが揃ってれば、〈神々の黄昏ラグナロク〉が来たって平気だもん」

次女「おー随分な口利いてくれるけど、あんたはその三つがなんなのか、ちゃんと把握してるわけ?」

三女「知ってるってば! 鉄槌ハンマーでしょー、ミョルニルでしょー、トールハンマー」

次女「最後のはミョルニルハンマーの別名じゃん。実質一つしか言えてないよ」

長女「日頃の行いはともかく、勉強は足りてないわね」

三女「ふえーん上のお姉ちゃんにまで言われたー」

長女「案外、わたしたちに恐れをなしてるのかもしれないけどね、三大至宝が盗まれない理由。巷では〈北欧の凍てついた死神〉なんて呼ばれてるくらいだもの」

次女「せめて女神にしといてほしいよね」

三女「そーだよ! こんなにプリチーなあたしたちを死神扱いするなんて」

次女「何そのふざけた異国語……あ、入電だ」

長女「何かしら……緊急事態発生?」

次女「やった、出動命令?」

長女「違うみたい。えっと……」

三女「……ええっ?」

次女「……う、嘘ォ……」

三姉妹「「「ミョルニルが……盗まれたァ!?」」」

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