お年始迷子

 玄関を開けると、見たことのない子が立っている。

 おとなじゃなくて、まだ、こども。

 犬さんでもなくて、猫でもない。知らない子。


 「どなたですか」


 でも、お返事はなし。

 だから、あたしは、もう一度、たずねたの。


 「どなたですか」


 その子は、キョロキョロあたりを見回しているだけで、やっぱりお返事はなし。

 困ったな。

 

 「えっと、なにか、ごようですか」


 そうしたら、やっと、その子は言ったのよ。


 「ここは、うりどしですか」


 「はい?」

 うりどしって何?

 うりって、畑にあるうりのこと?

 そういえば、このこ、うりに似てるな。それで、あたしは答えたの。

 「ここは、畑じゃありません」


 そしたら、その子、目をまん丸にして、あたしを見た。

 「それは、わかっています。ぼくが行きたい場所は畑ではなく、うりどしなんです」

 

 この子の言うって、売りってことなのかしら。

 だったら、お店?


 「お店なら、どんなお店ですか? お菓子屋さんとパン屋さんなら、ここをまっすぐ行って、三叉路さんさろを左に曲がって、公園が見えたら右の道に曲がって、まっすぐ行けば、看板が見えますよ」


 その子は、さらに、目をまん丸にした。


 また、ちがったのかしら。

 「えっと、うりどしって、どんなところですか」


 その子は、やっと、にっこり笑った。

 「さっきから、三毛猫さんが言っているところです」


 とても礼儀正しい子なんだけど、何を言っているのか、あたしには、わからない。

 「えっと、あたしは、どんなところですかって、きいたんですけど」


 「だから、うりどしです」


 もう! わかんない!

 「えっと、だから」


 「三毛猫さん、ぼくを連れて行ってください。ぼく、迷子なんです」


 あら、やっと、少しわかった。

 この子、迷子だったのね。

 

 「だったら、かどの交番に、連れて行ってあげる」


 「交番じゃなくて、うりどしに連れて行ってください」


 「えっとね。交番に行けば、きっとお巡りさんが連れて行ってくれるわよ」


 「どうして、意地悪ばっかり言うんですか」


 あたし、意地悪なんて、言っていないよ。


 「だって、知ってるくせに、三毛猫さん、しらばっくれてばっかり。その上、交番に行けだなんて。ぼく、何も悪いことしていません! 三毛猫さんの意地悪!」


 あなたが悪いことをしていないのはわかっているけど、言ってることが、あたしには、わからないのよ。


 いきなり、その子の目から涙がポロポロこぼれてきた。

 どうしよう、どうして、泣いちゃうの?

 あたしは、オロオロするばかり。

 「えっとね、えっとね」


 「意地悪! 三毛猫さんの意地悪!」

 どんどん、その子の目から、涙があふれてくる。


 あたし、どうしたら、いいの?

 どうやったら、泣き止んでくれるの?

 あたしだって、泣きたいよ。


 三毛猫ミケ

 (続く)




***




 ミケちゃんのおうちに最初にお年始に来たのは、どうやら、迷子のようです。

 ミケちゃん、この子を無事に、うりどしに連れて行ってあげられるのかしら。

 

 ところで、うりという漢字は、つめという漢字によく似ていて、まぎらわしいですよね。

 PCやスマホなどの変換に慣れちゃっていると、いざ手書きで書こうとすると、どっちがどっちだったか、わからなくなることありませんか?


 それで、こんな言葉があるんです。


 瓜(うり)に爪(つめ)あり爪(つめ)に爪(つめ)なし


 さて、瓜に似た迷子ちゃんには爪はあるのかな、ないのかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る