絵日記ミケちゃん

秘密のアルバイトのバイト代

　あれれ。

　雪が、降ってきたよ。

　犬さんは雪が降ると喜ぶって言うけど、本当かな。

　こんど、犬のパロさんとペロさんに、きいてみよう。

　猫は雪が降っても降らなくても、冬はコタツで丸くなっているけれどね。

　戌年（いぬどし）も、終わっちゃうね。

　犬さんたちは、戌年は忙しかったのかな。

　戌年が終わると、ほっとするのかな。

　それとも、ちょっぴり寂しいのかな。

　うん。これも、パロさんペロさんに会った時に、きいてみよう。忘れずに、覚えていたらだけど。

　来年は、亥年（いどし）。いのししさんの年だよね。

　あたし、犬さんのお友だちはいるけど、いのししさんのお友だちはいないから、知り合えたら楽しいだろうな。

　猫はね、去年も、今年も、来年も、猫年。

　毎年、猫年なのよ。

　世間では、猫はネズミさんに騙されたとか、お寝坊したとかで十二支に入れなかったって、言うんだけどね。

　窓から雪を見ながら、ぼんやり考えていると、誰かが手を降っている。それも、雪雲の間から。

　あたしはびっくりして、目をこすった。

　雪雲の間には、もう、何も見えない。

　雪が、舞い落ちてくるだけ。

　コンコン　コンコン

　雪が降る音？

　はずれ。

　きつねさんの鳴き声？

　はんぶん、あたり。

　コンコン　コンコン

　「ミケちゃん、こんにちは」

　きつねこちゃんが、窓を叩いていたの。

　きつねこちゃんは半分猫で、半分きつねさんだからね。

　「雪が降っているのに、きつねこちゃん、どうしたの？　寒いでしょ、早くお部屋に入って」

　あたしは、急いで、窓を開けた。

　きつねこちゃんは、白い息を吐きながら、うれしそうに言ったの。

　「ミケちゃん、見た？」

　「見たって？」　

　「ほら」

　きつねこちゃんは、空を見ている。

　開けた窓から外に出て、あたしも、きつねこちゃんのとなりで空を見上げたの。

　「あっ、ヴィクセンちゃんたちだ！」

　さっき雪雲の間で見たのは、見間違いじゃなかったんだ。

　ヴィクセンちゃんは、トナカイさん。『メスのきつね』という意味の名前。

　同じ「きつね」が付く名前のきつねこちゃんと意気投合したの。もちろん、あたしとも仲良しよ。

　あたしね、そのヴィクセンちゃんたち８頭のトナカイさんの引くソリに乗って、クリスマスイブにバイトしたのよ。　

　今、雪の中、そのソリに乗って空から手を降っているのは、もしかして……。

　「クマパンちゃん？！」

　「うん。クマパンちゃんだよ、ミケちゃん」

　クマパンちゃんの乗った８頭立てのソリは、すぐにまた、雪雲の間に見えなくなった。

　あたしは、涙が出てきた。

　うれしいんだけど、悲しくて。悲しいんだけど、うれしい涙。

　そして、降る雪しか見えない空を、きつねこちゃんとずっと見上げていたの。

　「きつねこちゃん、もう、お部屋に入ろうか」

　「うん。三毛猫じゃなくて、白猫になってるよ、ミケちゃん」

　「きつねこちゃんだって、白きつねこちゃんだよ！」

　あたしたちは、ぶるるって、雪を払って、お部屋に戻りました。

　「おじいさん、わたしたちのお願い、叶えてくれたんだね、ミケちゃん」

　「うん。だけど、クマパンちゃんがお手伝いしてるなんて、思わなかった。びっくりしちゃった」

　クリスマスの朝、バイトが終わったあとに、みんなでお祝いをしたんだけれど、おじいさんがアルバイト代として、願いを一つづつ、叶えてくれると言ったの。

　あたしもきつねこちゃんも、どんな願いを叶えてもらうかは決めていたんだけれど、他の猫の手バイトのみんなも、同じだったのよ。

　それで、おじいさんは、あたしたち、みんなの願いを叶えるために、こうして、ソリを出してくれたんだ。

　あたしたち、みんなの願いはね。

　おうちがなくて、お外で凍えているこたちに、あたたかなおうちが見付かりますように。　

　そして、もし、もし、凍えたまま眠ってしまったら、次に目を覚ますのが、おじいさんの暖かなおうちでありますようにっていう、お願い。

　おじいさんのおうちは、とっても広くて、あたたかい。

　世界中の優しさや慈しみが集まっているところだから。

　おじいさんは、その優しさや慈しみをプレゼントにして、クリスマスイブに良いこのもとに届けてくれるの。

　あたしたちの願いを乗せたクマパンちゃんのソリは、これから世界中をまわって、眠ってしまったこたちの魂をソリに乗せて、おじいさんのところへと連れて行ってくれるはずなのよ。

　「ミケちゃん、来年もまた、猫の手バイトしようね」

　「しよう！しよう！」

　おじいさん、ありがとう！

　トナカイさんたち、ありがとう！

　クマパンちゃん、おじいさんのお手伝い、がんばってね！

　みなさん、良いお年を！

　もし、心が凍えそうになったら、あたしたちのところに、いつでも遊びに来てね。

　来年は、今年より、もっと楽しい１年になるといいな。

　三毛猫ミケ

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　日本では25日が終わるとクリスマスの装飾は早々に片付けられて、すっかり年末年始お正月の雰囲気です。

　欧米では、クリスマスの直前の日曜日からさかのぼって４週間前の日曜日が待降節（アドベント）。この日から、クリスマスを待ち望む準備期間が始まります。そして、25日からの12日間がクリスマス期間。

　1月６日の公現祭の日に、クリスマスの装飾をかたずけることが多いそうです。

　そのクリスマス期間の12月28日は、罪なき幼子の殉教日（ホーリー・イノセンツ・デイ）。

　ヘロデ王は救世主の生誕を恐れ、ベツレヘム周辺の２歳以下の男の子をすべて殺すように命じました。

　この日は、主の身代わりになり天使になった幼子たちのための祭日です。

　人間の社会においては悲しいことに、まず、犠牲になるのは声すらあげられないかよわき小さなものたち。

　これからやってくる年が、無垢なる小さなものたちに、優しい一年になりますように。

　皆様、良いお年をお迎えくださいね。