十一月
まだ秋なのに冬が来る冬を飛ばして春になる
「たいへんだ〜、たいへんだ〜」
くまパンちゃんが、
のんびり
「どうしたの!?クマパンちゃん?」
「ミケちゃん〜、どうしよう〜」
クマパンちゃんは、半べそで、陽だまりの中に座り込みました。
「落ち着いて、クマパンちゃん。とりあえず、このお水飲んで」
クマパンちゃんは、あたしの渡したお水をゴクゴク飲んで、ふうーと大きく息をつきました。
「で、どうしたの、クマパンちゃん」
「さっき、猫のお菓子屋さんに行ったら、カレンダーが11月になっていたんだ」
「それはそうよ。11月なんだもの。それで、クマパンちゃん、あたしにも、おやつ買ってきてくれたの?」と言いかけて、あたしは、ハッと気付きました。「お菓子売り切れちゃってた?!」
それなら、たいへん!せっかく、お菓子を買いに行ったのに、買えなかったらものすごくショックだもの!
だけど、クマパンちゃんは、首を横に振りました。
えっ、違うの?
「ぼく、順番待ちしている間にカレンダー見てたの。そしたら、11月7日のところに
ああ、そうか。もう、立冬なのね。季節の移り変わりって、早いなぁ。あんなに暑くて嫌いだった夏が、なんだか恋しいや……。
「ミケちゃん、しんみりしている場合じゃないよ!冬だよ!もう、7日から冬になっちゃうんだよ!秋が終わっちゃうんだよ!ぼく困っちゃうよ!まだ、栗ご飯たべてないんだよ!柿だって、もっと食べたいよ!どんぐり拾ったり、きれいな落ち葉で遊んだりしたいよ!そうだよ、困るのは、ぼくだけじゃないよ!どんぐ
りだって、葉っぱだって困っちゃうよ!まだ黄色や赤になっていない葉っぱや木になったままのどんぐりだって有るんだもの!どうすんの?ねぇ、ミケちゃん、どうすんの?もう、秋が終わって冬になったら、ぼくも、どんぐりも、葉っぱも、みんな困っちゃうよ!」
クマパンちゃんたら一気にしゃべって、またべそをかきました。
「だいじょうぶよ。クマパンちゃん。立冬は、
ほんと、今日はポカポカお
あたしは、思わず大きなあくびをしてしまいました。
そしたら、クマパンちゃんたら、泣き出しちゃった。あたし、あくびをして、誰かを泣かせたことなんて、始めてだよ。
「ミケちゃん、いやだよ!そんなの!もっと困るよ!」
「困るって、クマパンちゃん……急に、そんなこと言われたって……あたし、あくび、いつだってしてるんだし……」
「違うよ、ミケちゃん。困るのは、今日が春だってことだよ!」
「???」
「そりゃ、春が来るのはうれしいよ!でも、冬を飛ばして春が来るのは困るよ!冬にはクリスマスだって、お正月だってあるんだよ!秋の真っ最中に冬が来るのは困るけど、冬を飛ばしていきなり春になるのはもっと困るよ!」
「やだ、クマパンちゃん。小春日和は春のことじゃないよ。春みたいに暖かい秋の日のことだよ」
クマパンちゃんは、キョトンとして、あたしを見ました。
「秋なのに、春なの?」
「そうだよ。秋の中に生まれた小さい春みたいな日のことを小春日和っていうのよ」
「なーんだ」
クマパンちゃんは安心したのか、穏やかな秋の陽だまりの中にひっくり返って、思いっきり手足を伸ばしました。
「それで、クマパンちゃん、今日の猫のお菓子屋さんには、どんなお菓子があったの?」
あたしは、気になっていたことをたずねました。
猫のお菓子屋さんは、日替わりで、おいしいお菓子が並ぶのです。
「えっと……あっ!ぼく、カレンダー見てて、どんなお菓子があるのか見てなかった!」
「やっだぁ、クマパンちゃん。一番肝心なとこ、見てないなんて。それなら、今から、お散歩がてら、猫のお菓子屋さんにおやつ買いに行こうか?小春日和は、お散歩日和だもの♪」
「うん!」
「お菓子、売り切れてないといいな」
「公園を通って行こうよ、ミケちゃん。ぼく、落ち葉をふむの好き!」
「あたしも!カサコソ音がして、楽しいよね!」
「おやつ食べたら、落ち葉で、遊ぼうね」
「遊ぼう、遊ぼう、冬が来る前に、いっぱい遊ぼう!」
あたしとクマパンちゃんは、落ち葉をふむ音に合わせて歌いながら、猫のお菓子屋さんに行きました。
♪ おさんぽ おさんぽ いち に の おさんぽ
おさんぽ おさんぽ いち に で おさんぽ
おさんぽ おさんぽ おさんぽ ミケちゃん ♪
三毛猫 ミケ
***
日毎に夜が長くなり秋が深くなっていく中で、時折訪れる穏やかで暖かな日。
そんな日が、小春日和。
まるで神様からの贈り物のような日ですね。
厳しい夏がやっと過ぎ、過酷な冬がやって来る前の一休み。
冬支度に忙しい山や森で暮らす生き物たちやお外で暮らす猫たちも、小春日和には一息ついているのかな。
慌ただしい毎日に追われる人間の心の中にも、たまには一休みする小春日和が来ればいいのにね。
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