架空のゲームレビュー

キングスマン

架空のゲームレビュー


ハロー。

あなたにとっては、はじめてのハローでも私にとっては七回目のハローなんです。

実はこの世界はループしてるとかダサいSFみたいなことを言いたいわけではなくて──まあいいや。気にしないで。


21世紀まであと2年となった昨今、みなさんいかがおすごしですか。

今のところ車が空を飛びそうな気配も宇宙旅行実現の可能性も見えてこないけれど、このテキストを読んでいるということは、あなたはネット環境を持っているんですよね。

楽しいですよね、インターネット。

ノーベル賞を受賞した偉い学者先生は、こんなものすぐに寂れてFAXに取って代わられるなんていうけど、私はインターネットにはもっと普及してほしいと願っていますよ。

だからホームページを作って自分の好きなことを発信して仲間を増やしたいなんて思ってみたものの、難しいですね、ホームページ。

最初の一日はフォントの色を変えるだけで終わって、次の一日はサイトの名前を考えてるうちに過ぎ去って、昨日はおばあちゃんとショッピングにいってきたんですよ。

まあいきなりヤフーみたいなのは無理だと悟ったので、まず手はじめに簡単なテキストだけのものでいいかなって。

そのほうが、読み込みもはやいですしね。

文字化けとかしてないといいんですけど。


もしかしたらこんなテキスト誰からも読まれることなく埋もれていくだけなのかもしれない。

でも今日は本当に特別な日なので、日記をつける気持ちで書いていきたいと思います。


私はビデオゲームがすごく好きで、特に変わった評価をされた作品に興味があります。

一昔前──まだ私が学生だったころ、ゲーム雑誌の小さな小さな記事にとても心奪われたことを覚えています。

あれから十年。月日は流れ、私は大人になり、今日で三十歳になりました。

少年時代の宝物が大人になるとガラクタに見えてしまうのは珍しいことではないのかもしれません。

だけど大人になった私は相変わらずゲームが大好きで、あのときあの作品と出会えた衝撃は、衰えるどころか強まる一方なのです。


私がまだ子供だったころ、フィリップ・プティというフランス人がワールドトレードセンターの屋上にワイヤーを張って綱渡りをしたことが大きなニュースになりました。

フランス人の彼がアメリカまでやってきた理由のはじまりも、小さな記事でした。

歯医者に置いてあった新聞にアメリカで建設中の高層ビルがあるというそれだけの記事を見て、フィリップは「これは自分のためのビル」だと直感したといいます。

私は高所恐怖症なので、どんなビルを見ても、これは自分を脅かすためのビルだとしか思えないのですが、ある意味で彼の気持ちはよくわかります。

あのとき、ゲーム雑誌の小さな記事を見て、確かに感じたのです。

これは自分のためのゲームだと。


私はフィリップのように勇敢ではないけれど、大人になって時間と経済的な余裕も生まれたので、自分なりに願いを実現させることに成功しました。

つまり、そのゲームを買ったのです。

何を大げさにいってるんだと思われるかもしれませんが、一昔前のそれもこの国では未発売の日本のゲームを現地の人に探してもらって送ってもらうのはそれなりの時間と費用が必要だったのです。

ああ、いってませんでしたね。日本のゲームなんですよ、それは。

タイトルは『Sをおしえて』です。


このタイトルを見て「おお!」と声をあげてくれたのだとしたら、私はあなたとハグをして親友になりたい。

ご存じではない方のために説明すると1989年に日本で発売された当時としては──いや、今の基準で考えても非常にインタラクティブなゲームマシンなのです。


Sをおしえて? なんだそれ、勝手に教わってろよ、なんて冷たい感想をあなたが持たれたのだとしたら、興味を持っていただけるかもしれない情報を一つプラスしましょう。

実はこれオークションにいけばこの国でも手に入れることは可能なのですが、新品の平均的な落札相場は15000ドル前後です。どうです? ちょっと知りたくなったでしょう。

ちなみに日本で発売された当時の価格はおよそ40ドルで、私は日本にいる知人に探し回ってもらって未使用で保存状態のいいオリジナルを4000ドルで手に入れることができました。なお知人への報酬は別途1000ドルです。


そして今、好事家にとってはあの伝説の、そうでない人にとっては未知なる物体である『Sをおしえて』が梱包されたダンボールが私の足下にあります。

まるで私の誕生日を祝うかのように今朝届いたんですよ。

嬉しさのあまり油断してると明細書を母に見られてしまい「あなたはこんなゴミに4000ドルも払ったの?」とあきれられたりもしたのですが、夢が4000ドルで手に入るならどう考えたって安いじゃないですか。学生でもちょっとバイトを頑張ればそれくらい稼げますよ。

それに私がこの夢に費やしたのは4000ドルではなく、ゲーム雑誌の小さな記事との出会いからはじまった10年と4000ドル、そして知人への報酬、別途1000ドルです。


さあ、前置きはこれくらいにして、早速開けてみましょう。

画像や映像も使って伝えられたら一番いいんですけど、機材もないし、できたとしても重くなるだろうし、それにやっとここまでテキストを進められたので、この勢いを失わずに書いていきます。

開封作業とテキストのタイピングを同時進行でやっていきますので、みなさんにちょっとでもリアルタイム感が伝わっていれば、それ以上の喜びはありません。



──はい、まずはダンボールのフタを開きました。

丸くて白いスポンジみたいな緩衝材がいっぱい詰まってます。

そしてその奥からでてきたのは──もちろん『Sをおしえて』のパッケージです。


……ねえ、みなさん。テキストがもっとも表現しづらいものって何だと思いますか?

複雑な図形だったり、音楽だといわれたら、確かにそうかもしれません。

でも私は、たぶんそれは『時間』だと思うんです。

『Sをおしえて』のパッケージを取り出して「……ねえ、みなさん」と語り出すまでの流れをおそらくみなさんは数秒で読まれたと思うのですが、そこに至るまで実は20分以上かかっているんですよ。

理由は単純に泣いていたからです。

いい年の大人がゲーム機のパッケージを持っただけで号泣してる醜態をさらさなくてすんだのはテキストの利点かもしれませんね。


気を取り直してつづけていきます。

そのパッケージなんですが、サイズはそうですね、バスケットボールがぴっちり収まる程度の白い正方形の箱を思い浮かべていただけたら、だいたいそんな感じです。

箱の正面には高校生くらいの女の子のイラストがプリントされています。

絵柄は古くさくなくて、今でも通用するタイプです。そうですね、変身前のセーラーマーキュリーに雰囲気が似てなくもないです。


それから発泡スチロールのカバーをはずすと──はい、ついに出会うことができました。

『Sをおしえて』の本体です。

もう泣いてませんよ。むしろさっきから動悸がすごくて倒れるんじゃないかってくらい興奮しています。

『Sをおしえて』をご存じではない方のためにSをおしえて本体の外見をこれ以上ないくらい的確な表現でここに記したいと思います。

バーチャファイターにデュラルってキャラがいるじゃないですか。

2や3ではなく、初代バーチャファイターのデュラルです。

あのカクカクでシルバーの。

あれの顔だけを強くイメージしてください。

はい、それです。

それが『Sをおしえて』の本体です。

ただの人間の頭部じゃないかと思われたのなら、それでいいのです。

ようこそ『Sをおしえて』の入り口へ。


そもそもこの『Sをおしえて』とはどんなゲームなのかといいますと、これそのものが一つのゲーム機であり、ゲームでもあるんです。

『Sをおしえて』の『S』は『Seppun』の『S』であり『Seppun』とは日本語でキスを意味する単語です。

つまり『キスをおしえて』というタイトルのゲームであり、ゲーム機なんです。

ゲームの本体は先ほどお伝えしたとおり人間の頭をしたデザインになっています。あとこれは言い忘れていたことですが、口の部分はくりぬかれて空洞になっています。

もうおわかりですよね。

そうです。『Sをおしえて』は、史上初のキス体感ゲームなのです。


リアルタイム感が大事なんていいながら、私はみなさんから見えないのをいいことに、表情筋の緩みきった顔でパッケージの中身を取り出しながらずっとニヤけてました。

説明書は全て日本語なので当然読めません。でもご安心ください。遊ぶために必要な最低限の知識は事前に習得済みです。

本体とテレビをつなぐためのAVケーブルと、本体を稼働させるために必要な単一電池が6本。この電池は最近買ったものです。

電池をちょうど取り付けたところなのですが、本体がずしりと重みを増しました。ちょっとした亀くらいの重量感がありますね。

そして最も重要なシリコン製のとあるパーツ。これを口の空洞の中に挿し込みます。

これが何を意味するか、わからないみなさんではないでしょう。

それから本体の後頭部に位置するピンジャックにAVケーブルをさして、テレビとつなげます。

私の部屋のサイバーみが、ぐんぐん増していきます。

あとは本体の左耳にある突起物、これを10秒以上押すことでゲームの電源が入る仕組みとなっています。ちなみに電源をオフにするときも同様の操作です。


このテキストを読んでくださっているみなさんの中には、武器庫であやしいダンボールを発見したゲノム兵のように疑問符を浮かべている方がいらっしゃるかもしれません。

人間の頭のかたちをしたインターフェースとキスをする?

一体お前は何を言ってるんだ?

精神科医はどこだ?

ただちにこのサイコパスにルドヴィコ療法を使って真人間へと矯正すべきだ。

そう思われているかもしれません。

ご安心を。私はいたって正常です。

むしろ『Sをおしえて』をまだ知らないあなたがこのテキストを読み終えた瞬間に15000ドルを握りしめてオークションに駆け込んでくれることを期待しています。


お待たせしました。

本体の電源を入れてみましょう。


思ったより起動音が大きいですね。

機体に命が宿っていくかのようです。

普段ならこんな大きな音を部屋から流そうものなら、おばあちゃんが怒鳴り込んでくるんですけど、幸い──なんていったら不謹慎なのかもしれませんが、今日は外がとても賑やかなので気にならないんですよね。

賑やかな理由ですか?

そうですね、ネットで公開してるんだからこのテキストだって数年後とか海外の人にひょっこり読まれることだってあるかもしれないので少しだけ説明すると、今日は1999年8月19日で、私の住んでいるここはカクーノ州。

もしあなたが何年も先の時代からここを読んでいたり、海外の人だったりするのであれば、日付と場所で検索してもらえたら、今日ここでどんなことが起きていたのかニュースのログなんかがヒットするんじゃないでしょうか。


移民犯罪が多発して、ちょっとした移民排斥の動きが活発化したのが一昨年のこと。

移民を一括りにして糾弾するのは非科学的だと移民の社会進出に協力的だった弁護士のリチャード・アビロネ氏は移民の青年を自分の娘の教育係として雇いました。

娘のリジーちゃんは移民の青年にとてもなつき、仲睦まじくハグする写真が新聞を飾ったこともありました。

半年後。移民の青年の雇用期限まであと一週間というタイミングで、移民の青年はアビロネ氏の娘のリジーちゃんをレイプしました。

しかも青年は行為を隠し撮りしており、そのテープを遊びにきていた彼の友人の鞄に忍ばせていたのです。

それが発覚してアビロネ氏は青年を射殺しましたが、裁判でアビロネ氏は無罪となりました。

なおリジーちゃんは当時9歳でした。

アビロネ氏の裁判中にリジーちゃんは自殺未遂をして、今も病院で昏睡状態だといいます。

みなさんが検索する手間を省いてさしあげました。


私も事件から半年くらいは特定の人との間に見えない壁を作っていたことは否定しません。

とはいえ耳を疑うような事件は人種に関係なく毎日そこらで起きてますし、それでも移民全体を憎むつもりはないのか、射殺された青年の遺族にアビロネ氏が経済支援を行っていると新聞で小さく取り上げられたこともあり、この事件は一応の落としどころが定まっていたように見えました。

ところが最近になって我らが州知事様が不法合法を問わず全ての移民に対する極端な優遇措置を発表したのでさあ大変。

そういう植物が突然発生したいみたいに『リジー・アビロネを忘れるな!』と書かれたプラカードが大量に掲げられ、人々が外でデモ活動を繰り広げています。

うちの近所なんですよ、知事の家。


そういった社会問題に無関心なわけではないのですけれども、他者の尊厳を傷つけることなく日常を楽しむことこそが最大の社会貢献であり平和維持活動であり、豊かな世界をつくる最善の手段だと考えているので、私はゲームのレビューに戻りたいと思います。



さて『Sをおしえて』の本体とAVケーブルでつながった私の部屋のテレビには一人の少女が映し出されています。

赤いロングヘアー、紺の制服。

89年のゲームなので、グラフィックはお察し下さい。

エボラウィルスに感染した藤崎詩織みたいです。

ゲームに登場する女の子はこの赤毛さんだけで、彼女がヒロインです。

パッケージに描かれていた少女は黒髪のショートなのに、ゲーム内で表示されているのは赤のロング。

この謎に何か理由はあるのか、できるだけ深く調べてみたのですが、日本でもこの件は解明されていないようなのです。

まあ昔はよくありましたよね、パッケージのイラストと中身に関連がない作品。メガマンとか。


さてさて、まもなく私はこの少女とキスをすることになるわけですが、いいですか、みなさん。これからみなさんの購買意欲を急上昇させる本作の魅力を紹介します。


先ほどから赤毛さんと呼んでいる本作のヒロイン、彼女に決められた名前はなく、それはプレイヤーの好きな名前で呼んでほしいという開発側からの粋な計らいなのですが、実は裏の設定としてこの少女には『コノハ』という名前があります。

当然それは、この少女のモデルとなった女の子の名前なのですが、でもそれは外見のモデルではなく、キスのモデルなんです。


定価40ドルで売られていた10年前の日本のゲームが、なぜ現在になって15000ドルというプレミア価格で取引されているのか、それは単純に希少価値が高いからです。

そもそも日本でもそんなに流通しなかったんですよ。

不人気だったわけではありません。むしろその逆で大量の受注に対して生産がまったく追いついていない状況であったと聞きます。

なぜそこまで事前人気が高かったのか? それは本作のキャッチコピーに起因するといわれています。


『本物の14歳と、本物のファーストキス』


なんとも刺激的な文字列です。

かいつまんで説明しますと、この『Sをおしえて』の開発責任者はこんなものを思いついてかたちにするくらいなので、まあ大変ユニークな人物なのです。

男性の欲望を忠実に実現したようなマシーンであるにもかかわらず、意外にもその人物は女性です。

そして彼女は娘を持つ母でもあり、その娘さんも母の遺伝子をしっかりと受け継いだユニークな少女だったのです。

母の企画を聞いた娘は、ぜひ協力したい、完璧なものを作るべきだと声を上げたといいます。

娘さんは非常に美人で、彼女の通っていた女子校で常に注目をあびていたそうです。

彼女は学校で女王だったのです。

女王には何もかも見えています。例えば、自分に特別な好意をよせてくる後輩とか。

可憐であどけなくて都合のいい年下の少女、その名はコノハ。

女王はコノハのはじめてをうばい、その感触を母の作っている機械で再現できるように尽力したといいます。

そうして誕生したのが、この『Sをおしえて』なのです。

十代の美少女が監修した14歳の少女のファーストキス。

非の打ちどころなどどこにもない、まさに完璧な作品。

『Nantoiu-Kotodesyou』

昂ぶる感情を抑えられないときに使う日本語だそうです。

さあ、みなさんもご一緒に。

『Nantoiu-Kotodesyou』


みなさん、まだこのテキストを読んでくれてますか?

それとも15000ドル握りしめてオークション会場まで馬車を飛ばしているのでしょうか。

まあこの逸話自体がデマだとか話題集めのための作り話だなんて意見もありますけど、エンターテイメントにおいては、調べようのないことは信じたいほうを信じるようにしています。


それに真実はどうであれ、過激な宣伝文句で衆目と受注を集めたまではよかったものの、ファンと一緒にアンチも増やして、抗議されて行政指導までされて、結局すでに出荷された初期ロット以降は販売を自粛せざるを得なかったといいます。

回収も呼びかけていたそうなのですが、誰も手放さなかったそうです。当たり前でしょう。


話しが長くなってすみません。

ゲームを進めていきましょう。


赤毛さん──ってこれからキスする相手を記号っぽく呼ぶのも変なので、ここはコノハさんと呼びましょう。

画面に映るコノハさんの下にテキストウィンドウが表示され、文字が並びます。

日本語なので全く読めませんが、ご安心ください。私の手元には有志が制作したファンサブをプリントアウトしたものがあります。

では読んでいきましょう。


『きょうは あなたに つたえたい ことが あります。』


ちなみに、ゲーム本体のおでこをなでることで会話を進めていくことができます。


『ずっと まえから すき でした。』


いくつになっても、こういう文章を読むとドキドキしてしまうのは私だけでしょうか。


『だから キス を して ください。』


展開はやいですね。日本だとこれが普通なんでしょうか。


『もらって ください わたし の ファーストキッス。』


画面の中のコノハさんの顔がアップになって、瞳をとじて、くちびるを近づけてきます。

アニメーションがかなり細かくて、ちょっとびっくりですよ。


そして画面には『かお を ほんたい と あわせて くちびる を かさねて ください。 くち は からなず あけていて ください。 じゅんび が できたら みぎみみ の ボタン を おしてください。』とあります。


いよいよです。

それでは14歳の少女とのファーストキスを体験してきます。

see you



終わりました。

はい……なんというか……うん。


あのですね、みなさんにお知らせすべき情報が二つあるんですよ。

一つはもしかしたらご存じかもしれない情報。もう一つはみなさんが絶対に知らない情報です。

どっちからいうべきですかね。

そうですね、じゃあ、絶対知らないほうから。

あのですね、私、今日で三十歳になりましたっていったじゃないですか。

三十歳になったということは少なくとも三十年は生きてきたということで、でもですね、その三十年の月日の中で、私は一度も人様とお付き合いをしたことがないんですよ。

テキストっていいですね。これを知られるくらいなら死んだほうがましなことでもスラスラ書けちゃう。

自己弁護じゃないですけど、別に悪いことではないではないですかたぶん。

例えば日本では三十歳まで他者と肉体的な接触をもたなかったあかつきには魔法が使えるようになるといわれています。それほど価値あることなのです。

この話しをこれ以上広げるつもりはないので要点だけいうと、つまり、私が今『Sをおしえて』と交わした口づけは、私にとってのファーストキスだったということです。

これがみなさんの絶対知らない情報です。

もし知っていたというのなら、あなたは私のおばあちゃんですね。


それからもう一つの、もしかしたらご存じかもしれない情報。

この『Sをおしえて』が非常に画期的なゲームであることに疑いの余地はないと思います。

とはいえこの作品、非常に画期的であると同時に、非常に──低評価な作品でもあるのです。


それは発売直後から巻き起こったといわれています。

『ふざけるな』『バカにしてるのか』『金を返せ』

運よくゲーム機を手に入れられた侍の子孫たちが上げた声は、喜びではなく怒りでした。


彼らは口を揃えてこういったのです。

『こんなファーストキス、あるわけない』と。


『舌をミキサーにかけられたみたいだ』

『口の中を台風におそわれた』

そんな意見が目立ちます。


早い話、常軌を逸脱したレベルで、刺激が強かったのです。

いわゆる、その、フレンチキスのね。


実体験から得た私の感想をいわせてもらえるなら、ミキサーや台風は言い過ぎです。

でも、私の舌や歯の上をやわらかい爆竹が暴れていたような感触は確かにありました。

相手はシリコン製のベロなので痛みはないんですけど、ちょっとおてんばがすぎますね。


14歳のファーストキスですよ。

当然それは、たどたどしくて、あどけなくて、臆病で、でもそれがいいんじゃないですか。

私が求めていたのは14歳の初々しさなのです。

それなのにフタをあけてやってきたのは酸いも甘いも知り尽くした百戦錬磨のアマゾネスだったわけですよ。

『Nantoiu-Kotodesyou』


しかしですね、みなさん。

話しはこれで終わりませんよ。

はっきりいって、こちとらそんなことは最初から承知だったわけですよ。

ここまでの流れは想定内です。

すなわち、対策はもうしてあるのです。

これは私の夢なんですよ。

悲しみで終わらせるなんて、そんなの私が許しません。


思い出してほしいことが一つあります。

私が手に入れた『Sをおしえて』は89年に発売されたオリジナル版だということです。

オリジナルと定義されるものがあるということは、レプリカも存在するということです。


『Sをおしえて』の制作スタッフは本作の可能性をとても高く評価していたので、新しいキャラクターや新しいキスを体験できるように、追加カートリッジで拡張できる仕組みを用意していました。

無情なことに、それは儚く霧散してしまったわけですが。

セガサターン、ニンテンドー64

拡張パックの準備されているハードはそれを生かすことのできない宿命でも背負っているのでしょうか。

いえいえ、そんなことはありません。

サターンにも64にもそれを活用した作品はあるし、これからも出るに決まってます。

シェイクスピアだってそういってました。

そしてそれは、この『Sをおしえて』も同じなんです。


そのプロジェクトは五年前にはじまりました。

オリジナルの『Sをおしえて』のおてんばなキスに絶望したある男性は、あのとき本当に体験したかったキスを自分で生みだそうとインディーズのスタジオを立ち上げ、『Sをおしえて』のレプリカ制作に乗り出したのです。

ちゃんと筋を通すためオリジナルの版元に許可をとりにいくと、「好きにしてくれてかまわない」とあっさり了承を得て、社内にあった資料まで見せてくれたそうです。

それから三年後、念願の『Sをおしえて、ピュア』は完成しました。


本体の素材は軽く、やわらかくなり、最大の焦点であるキスのデザインも『これこそ自分たちの求めていたものだ』と大評判。

年に一本のペースで新作のカートリッジが発売され、新キャラや新しいキスが楽しめるようになっています。

作者氏の意思により販売は通販のみとなっているのですが、注文すれば普通に海外にも送ってもらえます。

お値段、送料込みで200ドルです。


じゃあなんでお前は4000ドルも払って古くて嫌われているオリジナル版を買ったんだと思われましたか?

ピュアの作者氏は、オリジナルへの敬意として、おてんばなキスのデータはピュアには移植しなかったのです。

かつて私の心を奪ったのはピュアではなくオリジナルです。

後に低評価を受けたと知らされても、それで気持ちがゆらぐわけないじゃないですか。

だって、私が恋をしたのはこの人なんだから。


そして、おてんばなキスを確認した私の手には、日本から取り寄せた一本のカートリッジがあります。

拡張カートリッジはもちろんオリジナルの本体でも使えます。

さあ、新しい恋をはじめましょう。


カートリッジは頭頂部に挿すようになってるんですけど、そうするとなんだかモヒカンっぽくなるのが難点です。

ご安心ください。『Sをおしえて、ピュア』の作者氏はどこまでも我々の気持ちに応えてくれます。

専用のマスクとウィッグを装着することにより『Sをおしえて』の本体は、もはや完全な美少女へと変貌をとげるのです。

マスクとウィッグも専用のパッケージに入っているのですが、このパッケージイラストをお見せできないのは本当に心苦しい。

日本でいま一番人気のイラストレーターの描いたもので、すごくかわいいポニーテールの女の子が笑ってるんですよ。

私の『Sをおしえて』の本体が、この美少女になるわけですよ。

ちょっと手が汗ばんできたので、タオルでよく拭きますね。

丁寧にパッケージを開いて、まずはマスクを本体にかぶせます。

それからウィッグをのせて──はい、できました。

パッケージと実物との差について説明しますと──そうですね。

みなさん、日本のゲーム事情にお詳しい方ばかりだと思いますので、日本で昨年発売されたセンチメンタルグラフティってゲームあるじゃないですか。

あのゲームのキャラクターデザイナーの描いたイラストと実際ゲーム内で表示されたグラフィック程度の差はあります。

まあ些細な誤差ですよ、誤差。


それから、みなさんにあやまらなければいけないことがあるんです。

おそらくこれから私が拡張カートリッジ版の実況をはじめるのだろうと思われているかもしれませんが──すみません、もう……してしまいました。


カートリッジを挿してマスクとウィッグをつけ、画面に映し出されたポニーテールの少女を見た瞬間、私の口は親鳥の捕獲してきたエサに飛びつく雛鳥ひなどりのように『Sをおしえて』の本体に吸い寄せられていたのです。

そしてそれは──完璧なファーストキスだったのです。


緊張と戸惑いと、小さな勇気、そしてなにより初々しさ。その全てが再現されていたのです。

ずっと探し求めていた約束の地はここにありました。

正直に告白します。

私はすでに三回してしまいました。ポニーテールさんとのファーストキスを。


三十歳まで他者と肉体的な接触を持たなければ魔法が使える。

これは日本にある言い伝えです。

もう私に魔法使いになる資格はないのかもしれませんが、ほんの少し、自分の中に魔力を感じます。

私にはまだ小さな魔法が使えます。

あなたの心を読む魔法です。

頼むから『Sをおしえて、ピュア』の輸入方法を教えてくれ──そう思っているのですよね。

私はイジワルな西の魔女ではなく、優しい東の魔女です。

200ドル用意して、これから書く通りにしてください。


あっ、ちょっと待ってくださいね。


あのですね、なんだか外が一層騒がしくなったので窓からのぞいてみたら、シャローナ・ティーガーが移民のために歌ってるんですよ。


もしあなたが50年後の未来からこのテキストを読んでいるとして、そっちの世界でシャローナ・ティーガーってどんな扱いになってるんでしょうか。

そんなやつ知らないといわれたら、ちょっとショックかもしれません。

たぶん未来でもビートルズとマイケル・ジャクソンの名声は残っていると思うんですけど、少なくとも1999年のこの国において、シャローナ・ティーガーの人気はビートルズとマイケルの人気をたしても、まだ足りないくらいです。

ラジオでシャローナが大統領の暗殺を呼びかければ、スナイパーがやってくる前に、補佐官が大統領を射殺するレベルの影響力があります。

移民擁護派は苦戦を強いられていたのですが、ここにきて強力な味方が現れました。


思い出しました。

強力な味方といえば、こっちにもいたんですよ。

移民反対派のことではなく『Sをおしえて』のことですよ。

強力な味方というのは語弊のある表現かもしれないんですけど『Sをおしえて』の知名度上昇にかなり貢献した人物です。

あれは確か七年くらい前ですかね。

日本で発売されたキスを体験できるジョークグッズみたいな扱いで、こっちのテレビで紹介されたことがあったんですよ。

そのとき番組のゲストにいたのはフットボール界の英雄、トニーです。

ストイックなことで知られている彼がなぜあんな番組に出ていたのかはわかりませんが、バカみたいなミニゲームに負けて罰ゲームとして『Sをおしえて』とキスをしたトニーは大勢の国民が見守る生放送中に──突然号泣したのです。

そして嗚咽をもらしました。

誰の目にも明らかに異様な光景でした。

トニーの口からかすかにこぼれていた声をマイクはしっかりと拾い、その言葉は国中に響きました。

「ステファニー……ステファニー」と。

数日後、睡眠導入剤の過剰摂取によって、トニーは帰らぬ人となりました。

トニーのベッドには『Sをおしえて』があったといいます。

タブロイド紙の情報なので信憑性はゼロに等しいことは補足しておきます。

タブロイド紙からではない正確な情報として、トニーは何年も重度の精神疾患に苦しめられ、彼と親しい間柄の人たちは遅かれ早かれこうなることは予見していたそうなのです。

それから彼が口にしていたステファニーとは、彼が十代のころに付き合っていた幼なじみの少女の名前で、十七歳のとき事故で亡くなっています。

享年32歳のトニーはステファニーの死後、一人も恋人はつくらなかったといいます。

タブロイド紙のデマとはいえ、書けば広まってしまうのが情報というものです。

『Sをおしえて』にはいわれのない『いわく』がついてしまい、プレミア価格で取り引きされる原因になったできごとの一つでもあります。


ちょうどいま、窓の外でシャローナが私の一番好きな歌をうたっています。


自分を縛りつける思い込みに 真実の靴を履かせないで

一瞬でいい 瞳と耳を閉じ 心だけでありのままを感じたら

きっと本当が見えるから


この歌詞には何度も救われました。

自分ルールというのか、専門用語だと迷信行動っていうのかな?

とにかく私は根拠のない思い込みで自分を縛りつける癖があるんですよ。

こういうことをしたら、よくないことが起こるんじゃないか。

こういうことをしないと、よくないことが起こるんじゃないか。

みなさんにもありませんか?

お店に入るときは右足からじゃないとダメな気がする、みたいなやつ。

本当に何の根拠もないのに、なぜかそれがいつの間にか自分の中では真実になっているんです。

わかってはいるのに、やめられない。

困ったものですね。



──うん?

──ええっと、あの、ですね。

シャローナの歌に感化されたんでしょうか、天啓てんけいというか幻聴というか、私の中でささやく声があったんですよ、いま。

そいつは私の脳内に住んでいて、私にとって重要な決断をくだすときに、よくしゃしゃり出てくるんです。

そいつがこういうんですよ──本当だったんじゃないか、って。

『Sをおしえて』は本当なんじゃないか、って。


あまりにもおてんばなキスのせいで、こんなファーストキスはありえないと大勢の人から低評価を下された『Sをおしえて』ですが、よくよく考えたら変だと思いませんか?

まず、こういうものを買うのはどういう人たちですか?

それはもちろん、私のようなキス未経験の人ですよね。

だったらわかるわけないじゃないですか、ファーストキスがどんなものかなんて。

フットボールの英雄トニーは『Sをおしえて』とキスをした刹那、十数年前に事故で亡くした恋人の名前を涙ながらにつぶやきました。

トニーは思い出したのではないでしょうか。

今はなき恋人との、はじめての、口づけを。


14歳の少女のファーストキス。


その響きはあまりにも甘美で背徳的で、神聖ですらあります。

そこに私のような大人は、こんな期待を、願いを──いや、空想をしてしまうのです。

それはきっと、たどたどしくて、臆病で、初々しいものなのだろうと。

それは決して、荒々しく乱暴で、おてんばであってはならないのだと。


『Sをおしえて』に低評価のレッテルを貼った方々は、これが本物のファーストキスじゃないから怒ったんじゃないんです。

だって、彼らにそれはわからないのだから。

彼らは、自分の中で作り上げた妄想に──心地よい嘘にゲームが寄り添ってくれなかったのがさみしかったのかもしれません。

二次元の美少女ゲームを楽しんでいたのに唐突にグラフィックが実写に切り替わったりしたら、もうただの拷問ですからね。


もちろんこれは私の意見でしかなく、事実ではありません。

ファーストキスかくあるべし、みたいな国際規格があるとも思えませんし、私が妄想してるような理想的なファーストキスだって探せばあるでしょうし、トニーが泣きながら恋人の名前を呼んでいたのだって、一番の原因はおそらく精神疾患の悪化でしょう。


でもね、ちょっと思い出したんですよ。

私たち大人は──って、みなさんがおいくつなのかはわかりませんけど、たぶん成人ですよね。便宜上、そういうことで話しを進めます。

私たち大人は、子供に対して過剰な無垢さを期待してるじゃないですか。

でも自分が子供だったころを思い返せば、無垢とは無縁だったじゃないですか。

知識こそまだなかったけど、親や大人の嘘は見抜いてたし、どういう行動をとれば大人をあやつれるかを、ずる賢く考えてたじゃないですか。

いつの間に、それを忘れたんでしょうね。

子供に無条件の純粋さを期待するようになったときが、大人のはじまりなのかもしれません。



──あれ?

ということは、もしかして……。


いやいや、ありえないでしょう。

いくらなんでもそれはありえない。

いくらなんでも飛躍しすぎでしょう。


でも、もしかして、みなさんの中にも、もしかして私と同じことを考えている人が、もしかしていたりするんでしょうか?


それはつまり、いま世間を賑わしている問題の中心である、移民の青年によるリジーちゃん暴行事件の真相です。



移民犯罪が多発して、ちょっとした移民排斥の動きが活発化したのが一昨年のこと。

移民を一括りにして糾弾するのは非科学的だと移民の社会進出に協力的だった弁護士のリチャード・アビロネ氏は移民の青年を自分の娘の教育係として雇いました。

娘のリジーちゃんは移民の青年にとてもなつき、仲睦まじくハグする写真が新聞を飾ったこともありました。

半年後。移民の青年の雇用期限まであと一週間というタイミングで、移民の青年はアビロネ氏の娘のリジーちゃんをレイプしました。

しかも青年は行為を隠し撮りしており、そのテープを遊びにきていた彼の友人の鞄に忍ばせていたのです。

それが発覚してアビロネ氏は青年を射殺しましたが、裁判でアビロネ氏は無罪となりました。

なおリジーちゃんは当時9歳でした。

アビロネ氏の裁判中にリジーちゃんは自殺未遂をして、今も病院で昏睡状態だといいます。

私も事件から半年くらいは特定の人との間に見えない壁を作っていたことは否定しません。

とはいえ耳を疑うような事件は人種に関係なく毎日そこらで起きてますし、それでも移民全体を憎むつもりはないのか、射殺された青年の遺族にアビロネ氏が経済支援を行っていると新聞で小さく取り上げられたこともあり、この事件は一応の落としどころが定まっていたように見えました。

ところが最近になって我らが州知事様が不法合法を問わず全ての移民に対する極端な優遇措置を発表したのでさあ大変。

そういう植物が突然発生したいみたいに『リジー・アビロネを忘れるな!』と書かれたプラカードが大量に掲げられ、人々が外でデモ活動を繰り広げています。

うちの近所なんですよ、知事の家。


コピー&ペーストは便利なテクニックですね。


この事件が報道されはじめたころ職場近くにあるバーで同僚と飲んでいたのですが、テーブル席にいた下品という概念を具現化したような酔っ払いたちがこんなことをいっていたのです。

「移民なんてどいつもイカれてるが、ガキをレイプしたやつは異常だよ、だってそうだろ? なんで隠し撮りなんだ? どうせやるなら俺だったら──」

その酔っ払い曰く、なぜカメラを隠して撮影したのか理解できない、どうせならカメラを手にもって、いわゆる、その“gonzo”をするべきではないのかというのです。

性犯罪は例外なく厳罰に処されるべきだし、その酔っ払いたちの頭上に隕石が落ちることが人類共通の願いであることに間違いはありません。

ただ、欲望の権化たる酔っ払いのその言葉に一握の説得力があったことも確かです。

例えば、移民の青年が小さな女の子に醜い欲望をぶつけたり、あるいは何らかの理由でアビロネ氏を脅迫するつもりだったとするならば、そういう撮影方法のほうが、妥当であるように思えるのです。


しかし、そうではないのだとしたら。

前提が、間違っていたのだとしたら。

例えば、幼い少女が移民の青年を我がものにするために、自分をささげてその様子を密かに撮影していればどうでしょう。

こういうものがあるとテープを見せられれば、青年は少女に支配されざるを得ないのではないでしょうか。

事件が起きたのは青年の雇用契約が切れる一週間前のことです。

少女はなんとしてでも青年を引き留めたかった。だから既成事実をばらまこうとした。

青年の友人の鞄に入っていたテープが意味するのは、そういうことなのかもしれない。


この件でひそかに不可解な行動をとっていた人物を忘れてはいけません。

リジーちゃんの父、アビロネ氏です。

青年を射殺したあと、アビロネ氏は青年の遺族に金銭的な援助をおこなっていました。

客観的に見れば娘をレイプした男の家族ですよ、養う必要なんてどこにあるんです?

でも、そうじゃないとしたら。

例えばそれが、彼なりの罪ほろぼしなのだとしたら。

リジーちゃんは父親に全てを伝えたのかもしれない。私たちはこういうことをする関係なのだとテープを見せたのかもしれない。

私に子供はいないので親の気持ちはわかりませんが、仮に自分に娘がいて、そういうことをいってきたとしたら──そうですね、クローゼットから銃を取り出すと思います。

そして引き金をひくでしょう。

愛する娘をたぶらかした──たぶらかしたのだと思いたい、その男に向けて。


私の人生に恋人と呼べる相手がいたことはありません。だからこれは完全な想像です。

もし自分の強く愛した人がこの世からいなくなれば……もしかしたら、後を追うかもしれない。

青年の死後、リジーちゃんが自殺を図ったのは、そういうことなのかもしれない。


移民なんてどいつもロクなもんじゃない。

九歳の女の子は、被害者に決まっている。

私たちが真実と名付けた思い込みが、この事件をまったく別のものに仕立て上げているのかもしれません。

『Nantoiu-Kotodesyou』



笑っちゃいますよね。

さっきから私は何を書いているのでしょうか。

大統領は宇宙人だとか、あの暗殺事件の真相はこうだとか、陰謀論に熱を上げる方々を見かけては冷ややかな視線をおくっていたのに、ちょっと立ち位置が変われば同じことをしているじゃないですか、私は。

もうこの話しはやめましょう。

ホームページにのせるときは事件のくだり全部消そうかな。

(ここを読み返してる少し未来の自分へ、どうですか? 消しますか? それとものせる? あとシャローナまだ歌ってる?)



そうそう、ここを読んでくれているみなさんにビッグニュースがあるんですよ。

実はこのホームページの次のネタはもう決まってるんです。

栄えある第二回目の更新も、もちろんゲームに関する記事です。

『Sをおしえて』の情報を探索する過程で何人かの同士となかよくなりまして、その中の一人にですね、なんとあの『Polybius』の作者を名乗る方とコンタクトがとれたんですよ。

わかりますよ。絶対にデマだと思ってるんでしょう?

私だって最初は疑いましたし、信じませんでしたよ。

しかしですねえ……おっと、ここから先は次回にこうご期待ということで。


それでは本日のメインイベントをはじめます。

いま私の右手にはリリースされたばかりの『Sをおしえて』最新拡張カートリッジがあります。

今回のヒロインはですねえ……これはヒロインというべきなのかな?

えっとですね、いま日本で流行のきざしを見せているジャンルに、見た目は美少女だけど中身は少年というものがあるんですよ。

女装が趣味の少年とかではなくて、見た目が美少女の少年なんです。このニュアンス伝わりますか?

まあとにかくその、美少女少年との禁断の口づけをこれより交わしたいと思います。

おそらく、いや間違いなく、日本以外では初のレビューですよ。みなさんラッキーですね。

では、いざ尋常に──と思ったら本体の電源がオフになってますね、しばらく使ってなかったからかな。

少々お待ち下さい。

これ本当に時間かかるしうるさいんですよね。



「ちょっと、さっきからなんだい、おおきな音出して、家の中でもデモやってるのかい?」

「ちょっと、おばあちゃん、いきなり入ってこないでよ。っていうかドアはノックしてゆっくり開けてっていってるでしょ。じゃないと──」

「あんたそりゃなんだい、なまくびのおもちゃなんか持って。ハロウィンかい?」

「……うん、まあ、そんなとこ」

「なさけないねえ、三十にもなって、ボーイフレンドの一人もいなくて、よりによって、なまくびと遊んでんのかい」

「だからね、おばあちゃん。今はもうそういう時代じゃないの。私は異性愛者じゃないからボーイフレンドはいらないっていつもいってるでしょ?」

「だったらガールフレンドつくって、どこかでレズビアンしてりゃいいじゃないかい」

「だからあ……」

「なさけないねえ、あたしゃ十七で結婚して今のあんたと同い年くらいのときにはボーイフレンドが三人もいたけどねえ」

「おばあちゃん、それ自慢しちゃダメなことだからね」

「いったいこの国はどうなっちまったんだい。家の外じゃ頭のおかしな国民と移民がケンカしてる、家の中じゃレズビアンの孫がなまくびと遊んでる。おしまいだよ、もう」

「だからドアはゆっくり閉めてって……いっちゃったよ。もう、いつも一方的なんだから」


「さてと、どこまで書いてたんだっけ……って、あれ?」

「ウソでしょ? お願いだからそれはやめてよ、ねえ? ねえってば、ねえ?」

「さいあく……またフリーズしてるし。どうせまた文章消えてるんだろうなあ……もう、だからドアはゆっくり開けてっていつもいってるのに、おばあちゃんのばか」

「どんなこと書いてたか思い出せないよ。もう一回同じテンションで書けるとも思えないし、普通にレビューだけにしようかなあ。でもさっきまで書いてたのは名作の予感がしたのになあ……ああ、もう本当に──Nantoiu-Kotodesyou」




GAME OVER


Pay homage to The video game with no name









ハロー。

あなたにとっては、はじめてのハローでも私にとっては八回目のハローなんです。

実はこの世界はループしてるんじゃないかと、だんだん疑いはじめているんですけど──まあいいや。気にしないで。


https://note.mu/kingsman/n/n471b534ce28e

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