地下3

目の前にあったのは日向が今朝見たばかりの整備用車両だった。

「整備専用車両か」

3両編成の車両でそれぞれに異なる役割が与えられている。

 

1両目「検査車両」、線路の状態を調べる車両。亀裂はもちろん、金属疲労や密度のわずかな変化も逃さない。1両目が異常を感知した際に2両目が起動する。

 

2両目「撤去車両」、異常が見つかったレールを撤去する。かなりの高馬力を持っているらしい。

 

3両目「敷設車両」2両目が撤去した場所に新しいレールを敷設する車両。

 

この整備専用車両だけでなく、ほかにも用途別に様々な車両が人間の指示なく地下中を走り回っている。こいつらのおかげで人々は耐用年数を気にすることなく地下に暮らすことができるわけだ。

 

「まったくすごいものだ、あっという間に線路が新しくなっていく」

「実はこの車両の設計にもかかわっていたんですよ、僕」

平野が自慢気に言った、一人称が変わっているのは技術者としての全盛期のころの一人称に一時的に戻っているからなのか。

「あなた、実はすごい人なんですね」

「実はって何ですか?」

「これは失礼」

 平沢は怒ったふりをしながらもなんだか上機嫌だった。

 

「実は、この壁も僕がかかわっていまして」

「壁もですか?何の変哲もない壁に見えますけど」

「それはあなたが本当の『ただの壁』を知らないからだと思いますよ。昔の壁には汚れの探知機能も緊急事態の通報機能もなかったんですから」

「すると、壁はただ部屋を仕切るためだけに使われていたんですか?」

「そうなんです、IoTとはすべての物をつなぐというのがコンセプトでした。当然その中には壁も含まれていました。当時はプライバシーとかいろいろありましたし、僕も問題ないと断言することはできませんでしたが、今まで特に問題が起きていないということは大丈夫だったんでしょう」

 

「ところで、そんなにネットワークでつながっていたら私たちが調査を断行したことが委員会にばれてしまうのではないですか?」

やや不安になってきたので、明確な否定を期待して尋ねてみたが帰ってきたのは不安げなものだった。

「多分、大丈夫だと思います。きっと事務局長がうまくやってくれるはずです」

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