第4話救済

 ジェット機のような速さで肩から生え出る漆黒の翼を操る赤髪の美少女は不敵な笑みを浮かべていた。先程カズキという少年がドアの下敷きになっているのを見てからこの調子だ。何か企んでいるのだろう。



 「見つけた」


 颯爽と飛びながらも人間には真似できない動体視力で目標であるヤクザの連中をを見つけた赤髪の美少女。ヤクザらは赤髪の美少女の翼同様に漆黒である漆黒の車に乗っており、高速道路を走っていた。




 「俺ら実際やってなくないですか!」 


 「いや、俺らが壊した扉の下敷きになっていたんだぞ、俺らが殺したんだ...」


 「借金取りに来ただけなのにどうしてこうなっちまったんだ...」



冷静に考えるものもいれば、後悔しているものも、嘆いているものもいる。


 

 「...もしかして...自殺..じゃない...」



そのワードを聞いた瞬間、皆の顔は青ざめた。本職はヤクザを生業としている連中、今回は借金取りという依頼を受けて一ヶ月も押しかけていたのだ。その結果がこの様だ。自殺と考えてもおかしくない。それだとドアの下敷きになってもピクリとも動かない少年にも頷ける。自殺だとしてもそこまで追い詰めた彼らが罪に問われないとは考えられない。その思考が車を止めないのだ。


 

 そうこうしているうちに赤髪の美少女は高速道路で100㌔走っている漆黒の車の真上で魔法の詠唱を始めていた。


 中級魔法ワープゲート!!


 漆黒の車は前方に突如現れた円状の空間に入り込み高速道路から消えたのだ。


  ■ ■ ■ ■

  


——高速道路を走っていたはずなのに...



——何故ここに俺らがいる?


 驚きのあまりヤクザ達は皆、口に出すよりも思考が優先され目の前の風景がスローモーションに見え、思考は急激に速くなる。タキサイキア現象に陥いっていた。


 ——俺らはここで死ぬのか


 高速道路で走っていた車は未だ運動エネルギーを持ったままであり、もし何かに衝突することがあれば助かる見込みははぼ皆無だろう。それに被害も少しでは済まない。しかし、今回の被害はその車だけなのだ。何故ならば、衝突先はあの少年しか住んでいないボロアパートなのだから。



 ドォォォン



 衝突した瞬間ボロアパートなだけあって崩落し、車は大爆発をおこし火の餌食となった。



 それと同時に赤髪の美少女は魔法道具でテレポートしてきた。



「これで証拠隠滅できた」



魔法で殺してしまった少年だ。もし殺害方法不明とか、凶器不明とか思われるとが私のいる世界を特定してしまう。そのため証拠隠滅をしたのだ。


 「さてと【選ばれしもの】を探しに行かないと」



 「まて.....よ」



 崩落した建物の中から声がした。奇跡的に助かったヤクザのリーダー、グラサンのおっさんは腕やわき腹の骨が折れていて立つのもやっとだ。それでも立ったのはその男の性格上からであろう。



 「おまえ...何者だ..空間から..急に現れやがって..」



「見られてたの..それならしょうがない」



 赤髪の美少女は魔法を唱え初めた。それを見たグラサンのおっさんはが人間ではない、人外に見えたのだ。



 「俺の人生..ここで終わりか...」



 急に胸にぽかんと穴があいたような切ない思いに襲われた。ヤクザとはいえ自分の家族と同じ扱いをしてきた連中だ。それを殺されては虚しさ、悲しさ、怒りが積もるのも無理はない。殺されるのならば一矢報いてやろうそうも思った。しかし目の前の人ならざる姿、そして不吉な黒いもやを見て気持ちは変わった。勝てるはずがない...と



 「ほんと人間ってクズよね、死んだあなたの仲間も、もちろんあなたも」



その言葉を聞いた瞬間何か自分の中で弾ける音がした。勝てるはずがない、倒せるわけがない。そう思いながらもグラサンのおっさんは仲間を侮辱した目の前のが許せなく拳を握り、大地を踏みしめ殴りにかかった。



 「その無意味な覚悟には感服するわ。それでは...この世からそして皆の記憶からさようなら」



 中級魔法ローズ・エクシスト!!



 無数の漆黒の手がグラサンのおっさんに向かい襲い掛かってきた。避ける術もなく捕まりそうになったが、急に身体が横に倒れ死は免れた。何故倒れたのか後ろを振り向くとそこには死んだはずの少年カズキがいたのだ。



 「お、おまえ扉の下敷きになって死んだはずじゃ?」



 「えッ扉? 違うって俺はあの女に殺されたの、いや殺されたならここにはいないよな、つまり...」



「私の魔法を撃っても生きてるじゃない。心肺停止してたようだったけれど」



 カズキは絡む糸をほどくようにグラサンのおっさんに誤解を解いた。



 「そういうことか、俺たちはまんまとお前に騙されたわけだな。おかしいと思っていたんだよな。扉の下敷きになって即死なんてな」



 自分が殺していないと分かりホッとし胸をなでおろした。



 「生きてるという事はやはりあなたは【選ばれもの】」


 


 「だ~か~ら俺はその【選ばれしもの】じゃないって!!」


 

 「ふふぅ~ん...ではこれでもかな」



 「グラサンのおっさん、俺の後ろに隠れとけ!!」



 いつもなら人の命令を聞かないがこの時は命の危険性があったので、少年カズキの後ろに隠れたのだ。



 中級魔法ローズ・エクシスト!!



 「そんな攻撃きかねぇ」 



 右手を前に出し、攻撃を吸い込むように防ぎ、左手で相手に向けて攻撃を放ったのだ。



 ローズ・エクシスト!!



                                              continue...




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