第3話 ホットココア
少女は買ってもらったホットココアで両手を温めながら、
僕はエリーゼのためにの旋律の余韻に浸りながら、
二人は、神学部内にもある小さな教会に入った。
「鍵がかかってないけど、入っていいのかしら?」
「ああ。この教会はな、いつでも開かれているんだ。他の教会は分からないけどな。」
「わ、クリスマスのデコレーションですね。きれい。とても。」
「・・・・・・。」
「どうしたの?」
「僕、ちょっと昔のことを思い出してたんだ。」
「へぇー。どんなお話かしら。」
「ごくごく簡単に言うと。僕ね、子供のころ、サンタさんが来てくれなかったんだ。」
「そう・・・。」
「その時、神父さんがそっと僕に話しかけてくれたんだ。」
「・・・・・・。」
「“メリークリスマス”、とね。そして、ホットココアを注いでくれたんだ。」
「・・・・・・。」
「それと、“大きくなったら、サンタさんになりたいか?”って。」
「・・・・・・。」
「僕は、この神父さんの背中をいつも追いかけていたんだ、この先生を尋ねてこの大学の神学部に入ったんだよ。」
「・・・なるほど、なるほど。」
「・・・どうした?」
「だって、あなた、矛盾してるわ。その神父さんからホットココアもらってるから、その神父さん、あなたのサンタさんでしょ?」
「なるほど。これは僕、神父さんに一本取られたな。」
「そして、あなたは大きくなって、サンタさんになりました。」
「あっ!」
「えへ。その神父さんに、一度お会いしたいです。」
「・・・・・・。(エス、貴方という人は、どうして! どうして・・・。)」
「???」
僕は、ガラスの思い出の中で静かに微笑む神父さんを思い出していた。大柄の男性で、温かい清んだ眼差し、そして穏やかな声。神父さんは・・・、微笑んだときの顔は -もちろん性別も異なるし、年齢も親子ほど異なるが- この少女とどこか似ている。
「ああ・・・そうだな。だが・・・」
(つづく)
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