二十三話 私じゃ駄目





「…………っ!はぁっ、はぁっ……!」


意識が戻ると共に起き上がった。

起き上がった、と言うことは倒れてた?

今自分がいる場所を認識する。


背景は……相変わらずわからない。

けれど、今、私は……砂の敷き詰められた地面?に座っていた。海はないけど、まるで砂浜みたいな。

そしてすぐに目に入ったのは。


「………汐里しおり


穴だらけで、欠陥だらけだけど、それが徐々に修復されつつある……城だった。

汐里は、あそこだ。だって感じるもの。

どうやら私たちは振り落とされたみたいだけど、なんとか敵の本拠地近くにまで来ることはできたみたい。

私たち……そうだ、お姉ちゃん。

辺りを見回すとちょうど起き上がるお姉ちゃんを発見できた。


「お姉ちゃん、身体は平気?」

「…………大丈夫っぽい。実束みつかこそ」

「私は大丈夫。お姉ちゃん、汐里はあの城の中に」

「いかにもな場所ね……うん、いけるわ」


詳しい会話は必要ない。

二人で城に向かって駆け出した。

どうやってここに来たとか、そんなのはどうでもいい。

今回も後手に回りはしたけど、完全にしてやられたわけじゃない。

元凶まで、手が届く。






「左に跳んで!」

「!」


走りつつそう叫んで、同時に右に飛び込む。

一瞬遅れて、私たちがいた場所へなにか目に見えないが振り下ろされた。地面が細く抉れる。

足を止めざるを得ない。

城の入り口からゆっくりと歩いてきたそいつは……


「まーさかここまで来るとはなァ。リベルタも驚いてたぜ?」


ジャック。汐里を攫った怪物。

当然、妨害はあるよね。

鉄はいつでも出せる。……どうやって倒す?わからないけれど、どうにかしなきゃ汐里へは辿り着けない。


「実束」

「なに、お姉ちゃん」

「えー、と……そう、そう。今から言う事を聞いてくれる?」

「言うことって?」

「こほん。“ここは私に任せて、先に行きなさい”」

「はっ?」


思わずお姉ちゃんの方を向く。

……堂々とした態度で、お姉ちゃんはそこに立っていた。

余裕の表情。


「任せて、って……でもお姉ちゃんじゃ」

「私が一昨日から今にかけてただただ話を聞いていただけだと思う?こんな事もあろうかと、ちゃーんと秘策・・は用意してあるわ」

「……いつの間に」

「努力は見せないタイプなのよ、私」


私の前にお姉ちゃんが立つ。


「さぁ、行きなさい実束。城の様子から見るに、今もリベルタは汐里ちゃんの力を使って何かをしている。……手遅れになる前に、早く」

「あー……もういいか?ま、そのままずっとそこでくっちゃべってればこっちも楽で助かるがなァ」


時間はない。それはわかる。

だから急がなければならない。それもわかる。

…………。


「……後でね、お姉ちゃん!」

「ファイトよ実束!」


足に鉄を纏わせて、力強く地面を踏み鳴らして、跳ぶ。

決心はついた。だからもう振り返って考えを変えたりはしない。

この選択肢を選んだのだから。


「行かせるわけねぇだろが!」

「パンツ覗くんじゃないわよ男子!」

「あァ!?んなどーでもいい事するかアホ————うぉっ!?」


声が遠ざかる。塞がりつつある穴の中へ飛び込む。




……お姉ちゃん。

後でね、って言わなかったな。




————————————。




ジャックが実束を追って上を見上げた瞬間、野次を飛ばしつつ駆け寄って、首元と袖を持って……


「——うぉっ!?」

「っ!」


思いっきり背負い投げ。

多分受け身を取らせないつもりの投げ方。力の使用は阻止できたみたい。


「いって……あークソ鬱陶しいなお前!」

「あぐっ」


頭を蹴られて思わず手を離してしまう。

蹴られた所を抑えつつ、それでも立ち上がったジャックからは目を離さない。


「あーあーあー……通しちまったよ……まいいか。お前らじゃどの道無理だしな」

「どういう意味かしら」

「そのまんまだよ。もうあいつ…あー、汐里、だっけか?そいつはリベルタの監視下にある。ついでに……なんだっけあいつの名前……アベ……テベ…イベリスか。あいつも護衛に回ってる。戦える新入り付きでなァ」

「お前ら、あいつに手も足も出なかったんだろ?あの鉄女も頭がバカになった後に解体されて終わりだろうよ」

「発言には気をつける事ね。その台詞、フラグよ」

「んなもん纏めて全部ぶった斬ってやる。……ああ、そうだ。そういやお前にも仕返ししねェとな……痛かったぜ、熱かったぜ?どうしてあんな非人道的な事ができるのかさっぱりわからないね俺は」


淡い光を放つ刀がジャックの右手に現れる。

まっすぐ私はそれが向けられる。

それは凶器。

それは殺気。

少し前までは全くの無縁だった感覚。


「だからそうだなァ、同じくらいは無理だが……それなりに苦しめた後に目ん玉にぶっ刺す。決めた」

「…………」

「で、そういや秘策がなんたらとか言ってたなお前。見せてみろよ。身体中がたがた震えせてできるんならな」

「…………」


震えてる?

ああ、震えているのね。そりゃそうだ。


「あいつが行った途端にこれだ。上手いことあいつを騙せてよかったなァ?」

「……これもあなたを騙すためのハッタリかもよ?」

「言ったら意味ねェだろアホか。ま、やれるもんならやってみろよ。俺は変わらず——」


刀が消えた。

風を斬る音。

が、聞こえる前に後ろに転がった。


「……っう、ふぅっ…!」

「————お前を削いで削いで、最後にぶっ殺す」


抉られた地面を認識した瞬間、身体中に針が突き刺さったような緊張が走る。

怖い。恐ろしい。単純な言葉じゃ表現しきれない。

……でも……


「…………こっちの、台詞よ。殺れるもんなら殺ってみなさいよ。私は、変わらず」


……私は無力だ。

だからこそ、少しは役に立たなきゃ。

せめてこのくらいはしなくちゃ。

姉として、歳上として…情けなさすぎる。


「役目を、果たすわ!」


覚悟を持って叫んだ。

身体に衝撃が走った。


「……………っ?」


目線を落とす。

制服が斬り裂かれてて、肌が見えて。

すぐに赤くなった。


「か、ふ……っ…ぁ……あ…!!」


痛い。

変な声が出る。痛い。どうにかしたい。叫んだらもっと痛いでも叫びたい。

叫ばない。歯を食いしばれ、枳実房。

こんな程度なにも問題ない。私は死なない。死なないんだから。

まだ削ぐ・・だけの段階。時間は稼げる、稼げるんだ。


「ふ、ふーっ……ふぅぅーっ……!」


ざきゅ、みたいな音がした。

衝撃は。肩。

見なくてもなんとなくわかる。貫いてる。


「ぎ、ぃっ……!」


叫ば、ない。

ていうか、そう、そうよ。避けなきゃ。

出来るだけ私はこいつをここに引き止めなきゃならない。

跳んで転がって避けるの。ほら、刀消えた。

跳ん


「あっ」


足。

力を入れた所を斬られた。転がる。

砂にまみれる。目の前で身体から流れ出る血が砂に混じって泥みたいになってくのが見えた。

立ち上がろうとしたけど、全然動けない。


「おうよ、やってみたぜ?もう詰みだ、ってか元々詰みだ。お前はなにもできてねェぞ?ただただ俺の思い通りに遊ばれてんだよ」

「……っふ、…く……」


右手を、人差し指を、歩いてくるジャックへ伸ばす。


「……なん、か…でろ…!」


指先が光り輝く。

そして。


「……ほーら見ろ。なにもできてねェ」


光っただけだった。

なんの役にも立たない右手はジャックに踏まれて強制的に降ろされた。


流石にわかった。これは、もうどうしようもない。

元々こうなるのはわかってた、もちろんわかってた。

わからないはずない。拳銃を持った人間相手に向かって行ったら死ぬって事ぐらい、普通にわかる。

私は……頭がおかしい訳でもないのだから。



————頭がおかしい、か。



正直、不明晰夢に入ってから今に至るまで。

私はずっと、今の状況を気持ち悪いと思っている。



自分から光が出る事も気持ち悪くてたまらない、受け入れられない。

実束が身体から鉄なんかを出せるのが奇妙で仕方ない。

汐里ちゃんと実束がずっと不明晰夢で怪物を殺してきたのが信じられない。

あんな生きる死ぬの戦いを続けてきたのが信じられない。

幽霊が実体を持って動いているのが訳わからない。

狂ったように怪物を殺して回っているのが恐ろしい。


汐里ちゃんが居なくなった昨日の実束の様子が忘れられない。

明らかに異常だった。自分の妹がそんな事になってた事が衝撃だったし、ただただ恐ろしかった。


実束の異常さを浮き彫りにした、私の異常を引き出した、あの幽霊を手懐けている汐里ちゃんが……


……とても、とても、気持ち悪い。




それでもね。


その時、しなくちゃいけないことはわかったの。


気持ち悪い、それはそう、たぶん正常な感想。

だからと言ってあの時どうこう言ってもしょうがない。

だから気持ち悪いを気持ち悪いのままで受け入れようとした。

汐里ちゃんが居る時に出来るだけ能力使って慣れようとした。

殺し合いの時はゲーム感覚を意識して自分をごまかした。

どうしようもない時は、何も考えないようにして汐里ちゃんの言う事をただ聞いて動いた。

私は、汐里ちゃん達みたいにはできない。

だから、私なりに、力になれるように頑張った。




その結果が、これ。


「……………」


血が砂に吸われていくのがよく見える。

ここまでする事はあっただろうか?ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。

私はなんでこんな事になってるんだろう?ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。

今更だなぁ。

ここまでする事はあった?

別に、命を捨てる覚悟はある訳じゃない。そんな覚悟できっこない。

私がした覚悟は、出来るだけ頑張ろうって覚悟。

それに、覚悟がなくたって、きっとこの方がいい方向に動いたでしょう。

だから、これでいい。足手まといになるよりかは。

なんでこんな事になった?

そんなの、汐里ちゃんがきっかけに決まってるじゃない。

あの時、汐里ちゃんが私の能力を引き出した時から、私は異常になった。



『……あなたは力を持っている。非現実的な力を!だけれど普通の意識じゃそれは使えない!なにせそれは現実ならざる力、現実を見ている間は使うことのできない力だ!』


『本当はできるんだよ、でもできないって思い込んでいる!あなたが少しでも想像を広げれば、意識を夢に向ければ、そして自分にはできると信じれば!!あなたの中の“何か”は思うままだ!』


『なら……なら、後はできると信じるだけ!想像しろ、現実ならざる自分を!超常の存在となった自分を!』



……なんだか、明確に思い出せる。あの時の心も、鮮明に。

これが走馬灯?


こんな事を言ってくれたけど……汐里ちゃん、私には無理だったわ。

私じゃあなた達みたいにできない。

きっと、あなた達ほど力を受け入れられていないから。実束のように自在な事は出来ない。

私じゃあなにも



なにも……そう、私じゃ何もできない。

私じゃ……じゃあ、誰なら?



「……………?」



ぽつん、と何かが頭に浮かんだ。

リベルタの能力。

による、もの。私の力夢力はとても少ない、いつも

外付けの汐里ちゃんの力を。

私は肉体じゃない精神の身体常ちゃんは夢力の身体ジャック達も夢力の身体にたようなもの私

はまともすぎる精神の問題私じゃだめ

私じゃできない現実ならざる力超常の存在






自分にはできると信じれば。

私の中の“何か”は思う通りだ。






じゅる。くちゃ。


「…………あ?」


ごく。けふっ、ぇふ。しゃぐ。


「……お前……何やってんだ?」



「……砂…喰ってんのか……?」



もぐ、ごくん、げほっかはっぇ、じゅる。


「……あー…………狂ったんだな、うん。じゃあさっさと死」


頭を蹴ろうとしたらしいから。


「ゔ——————お、あ゛……!!?」


光線でぶっ飛ばした。

結構吹っ飛ばしたらしいから、ゆらりゆらりと立ち上がる。


「ふ」


あ、駄目。も無理。

噴き出す。



「ふふふふひぃーひひひっあはははぁはははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


溢れ出る気分のままにワタシは笑う。

愉快な時なのだから笑う。

ただただ笑う。


「ああああぁぁぁ、やぁぁっと出てこれたわぁ!ここが表側!ここが世界!愉快、愉快、愉快だわぁぁ!!」


思いの丈をブチまける、それがひとつのやりたかった事でワタシの欲求。

ついでに光線を辺りに撒き散らして砂を塵にしつつ巻き上げ、光を使って口へ運ぶ。

足りない。またまだワタシが完全にワタシになるには足りなすぎるのよ。


「すうううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!」

「…………」

「あら戻ってきたのねジャックなによその顔アホ面晒してるわよ?ついでにスポットライトでも当ててあげましょうか?」

「………………引いてんだよ。お前に今。全力で。お前を気持ち悪いと思ってんだよ。俺は」

「そう、酷いわねジャックありがとう気持ち悪く見えてる?ならこれでいい・・・・・わこれがワタシだもの」

「それがてめーの本性かよ……」

「本性?本性ですって?ばぁぁぁぁぁぁぁぁか腹がよじれて真顔になるわ、まさかからたち実房みおの本性とかそんな意味じゃないでしょうね?なら今すぐあなたの認識を矯正してやるわ」

「枳実房。ああ本当に大っ嫌いだったわあんな弱っちい存在にワタシが封じ込められていたなんて思い返したくもない、けれどももう解放されたのならワタシが主体・・・・・・!ワタシは、ワタシこそは——“カーディナル”!!!!」


これが自己証明。

高らかに宣言する、ワタシはカーディナル。


「ワタシは輝きの魔物!闇に満ちた世界をワタシが照らしてやったと言うのに人間どもはワタシをバケモノ呼ばわり!あああ腹が立つ!!その上肉体は寄ってたかって滅ぼされて魂のみを未来へ転送とか酷い仕打ちにも程があるわ!しかもその先がこーんなチンケな肉体だなんて……」


風切り音が聞こえた。

人差し指をちょいと動かして光線を放つ。風切り音の元、ジャックの斬撃は消え去った。

次々二つ三つ七つ。全て消し飛ばす。


「話し途中よ?礼儀がなってないわねぇ母親の顔が見てみたいものね」

「……ただの光で防ぐのかよ。どうなってんだそれ?」

「ただの光ィ?また馬鹿言ってるのねジャックワタシの光がそこらの光と同等の価値とでも思ってるの?ワタシの光は救世の光!触れるものを浄化し、塵にし!不死をも滅ぼすのよ!」

「へェェ。胡散臭いにも程があるが……本当かどうか、いっちょ試してみるかァ!!!」


ジャックが地面を蹴るのを見た瞬間、ワタシは光を放った右手を振り下ろす。


「あ?」


それに付随して光線が波打ち、鞭となる。


「ふ、くふふははははっ!!」

「てめっ…!」


向かうジャックへ愛用の鞭を振るう。

身体を逸らして避けるけれどそれは無駄。ワタシの光は救世の光で自由自在。

避けた所で光は曲がり、ジャックの腕に絡みつき——


「あっづ!…………っ!?」


焼き斬る・・・・


そして空中で体勢を崩してみっともなく落下する。

ふふ、ふふふ、信じられない、みたいな顔をしてるわねぇ。


「そんな顔しないでちゃんと見なさいな。たしかにそこに落ちてるわよ、あなたの腕」

「なんでだ、なんで斬れてんだよ!リベルタァ!バグってんじゃねェのかこれ!!」

「何故?何故?これでもう三度目よジャックあなたは鳥頭?言ったでしょう?もう一度言ってあげるわ」


光を振るって辺りの砂を塵にしてかき集め、吸い込む吸い込む吸い込む。



「すぅぅぅぅぅ……はぁ。ワタシの光は!救世の光で自由自在!触れるものを浄化し、塵に還し!不死をも滅ぼすのよ!理解したかしら?」

「…………デタラメだな……まるでリベルタじゃねェか。……枳実房」

「は?」


なに言ってるのこの怪物。


「さっき言ったでしょう、ワタシはカーディナル。枳実房なんて人間はもう」

「そろそろ虚勢を張るのも限界じゃねェか?枳実房」

「……馬鹿なの?」


ワタシはカーディナル。でしょう?

思考にノイズが入る。邪魔。私はカーディナル。

枳実房のようにまともな人間ではない魔物超常の存在。

つまりこれは挑発だ。ワタシはカーディナルなんだから。


「お前、自分をバケモノと思い込んでんだろ?自分にはできない、だから自分をバケモノと思い込む。お前自身はキチガイになりきれてねーって事だ」

「うるさいわね」


鞭を。

……あれ?鞭は?光の。


「…………あれ。どうして?光、私の、光は」

「今さっき消えたよ。かははははは!何が起こったかと思ったが……つまりはそういうこった。自己暗示なんてそうそうできやしねェ、そして続きやしねェ。枳実房、お前がまともな人間なら尚更な」

「…………………」


邪魔な情報がたくさん入ってくる。

私はカーディナルだから。違う、ワタシはカーディナル。

こうなった経歴も思い出せる。封印されていた頃、内側から見ていたこの身体の、経験もわかる。ワタシが、ワタシこそがカーディナル。

なのにあの怪物は私を枳実房だという。

その名前で呼ばれる度に、ワタシが揺れる。

水面を揺らされるように。え?ワタシは、水面に映る、だけの?

ワタシは。私は。私は……私じゃ。




「…………あー……」




納得がいった。

今すべきことを再確認したから、ワタシは。

自分の顔に手をかざした。


じゅううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。


「……は…?な、お前、何して」

「アンタがどうしてその名前で呼ぶのか、よくよく理解できたわ。そうね、顔がそうだものね。これはワタシの・・・・・・・顔じゃない・・・・・。」


じゅああぁぁぁぁぶじゅっぱちっじゅじゅううううう。


「ワタシの顔はもっと綺麗だもの。枳実房のような醜い姿じゃないわ。だから、邪魔」


手を離す。

これで……私は、ワタシ・・・・・・


「……ははぁ、なるほど、なるほど、ようやっと俺も理解が及んだぜ」


笑うジャックへ、手を向ける。

小さな黒が手のひらの前へ現れて。



「てめェら姉妹……揃いも揃って狂ってんなァ!!!!」



次にジャックごと前の空間を飲み込んだ。





「…………そう。そう見えた?なら、良かったわ」


消え去ったのを確認して、私は手を下ろした。

とりあえず、役目は果たせただろうか。

とりあえず、実束みたいにできただろうか。


少しぐらい、役に立てたのならいいのだけど。


「…………………」


じゃあ、次。


実束を追いかけないと。

まだ終わってない。汐里ちゃんを助けて、リベルタがやろうとしている何かを阻止する。


それがやるべきことだから。


足を踏み出す。

私の足は役割を放棄した。


「…………。」


手も役割を放棄してる。

喉も。

全部。

でも、私はまだだ。

身体中に衝撃が走る。痛みも鈍い。

それでも。

身体が動かなくても、思考はできる。


思考 ができるな ら、能力を工夫 して




………


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