第283話 陸亀ホエール

 俺は娘たちを連れて陸亀ホエールの上に来た。

 もちろん、ブリマーも一緒だ。

 娘たちは念話が使えるが、反対に念話以外は使えない。

 ラピスは教育ママらしく、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、ありとあらゆる魔法の適正を調べたが、結局念話以外の魔法は使えなかった。

 ラピス自体が、火魔法を始めとする数種類の魔法を使えるので、落胆は幾何だったろう。

 ブリマーから陸亀ホエールへの念話の通し方について簡単にレクチャーを受けた後、まずはアヤカからやってみる。

 アヤカは手を陸亀ホエールに翳し、目を閉じて、念話を送っているようだ。

 すると陸亀ホエールが、上昇し出した。

「おおっー」

 ブリマーが声を出す。

「アヤカ、街を一周して、空港に戻ってくれ」

「はい、お父さま」

 空港に戻った陸亀ホエールに今度はアスカが念話を送る。

 陸亀ホエールはアヤカの時と同じように浮上し、街を一周して空港に戻った。

 そして、同じようにホノカも陸亀ホエールを操る事ができた。

「どうだった、陸亀ホエールは?」

「アスカが一番、上手に陸亀ホエールを動かす事ができたわ」

 アヤカが言う。

「そうね、私にも分かったわ。念話の使い方と陸亀ホエールとの意思疎通が一番良かったのが伝わってきたもの」

 3姉妹はそんな事も分かるのか。

「なら、この陸亀ホエールはアスカが動かせ。ブリマーそれでいいか?」

「我々は既に陸亀ホエールに代わる住居を頂いたからには、これはエルバンテ公のご自由にされるがよろしかろう」

「でもね、アヤカにはビビが居るし、アスカには陸亀ホエールが居るのに私には何もいない」

「そのうちに、お父さまのような素敵な旦那さまがホノカの前に現れるって」

「えっー、お父さまのような……、まあ、いいか」

 おい、ホノカ、その言い様は何だ。

「お父さま、陸亀ホエールが身体が痒いと言っています。長年に渡って生えたカビや苔のためだと言う事です」

 アスカに念話で陸亀ホエールが伝えてきたのだろう。

「分かった、掃除をさせよう」

 機体整備だけでなく、軍隊からも人を出して、2日かけて陸亀ホエールの掃除をしたら、心なしか陸亀ホエールも喜んでいるようだった。

 それと、陸亀ホエールへの乗り降りが大変なので、専用のボーデングブリッジを造る事になった。

 鳥人たちが陸亀ホエールの上に家を造っていたが、それはキバヤシ側で撤去し、新しい建物を造る。

 そして、垂直上昇が可能な輸送機も配備することにした。

「この陸亀ホエールに名前がついてなかったな。アスカ、お前がつけるか」

「えっ、いいの。うーん、何にしようかな」

 一つ問題がある。

 娘たちはまだ念話の魔法が使えるが、魔法が使えない者も居る。

 息子のタケルだ。

 ラピスはタケルにも様々な魔法の適正をさせているが、どの適正もない。

 さすがにラピスも落胆した。

 それに引き換え、エリスとミュは気にもかけていない。

「そんな魔法の一つぐらい、シンヤさまだって使えないじゃない」

「エリスさま、旦那さまと一緒にしないで下さい」

 ラピス、その言い様はないだろう。

 ラピスと目が合った。

「あっ、そういう意味ではなくて、旦那さまごめんなさい」

「ラピス、今夜はお仕置きだな」

「ええ、は、はい」

「ラピスだけずるーい」

「そうです。ご主人さまは妻たちを平等に扱う責任があります」

「分かった。3人とも今夜はお仕置きだ」

 きっと、今日の夕食はうなぎになるに違いない。

 陸亀ホエールは生き物なので、身体の中に飛行機を格納できない。

 そのため、背中を甲板にして使うしかなく、利用という点では使い勝手が良いとは言えない。

 最大のメリットは空を飛べるという事なので、輸送用としては利用できるだろう。

 災害時にもメリットが出るはずだ。


 そんな時、一つの情報が伝わってきた。

 砂漠の向うにある住民とコンタクトに成功したというのだ。

 昔、ミュの母という人が居たところだ。

 文明はエルバンテに比べてかなり低かった。

 そこの住民とコンタクトに成功したというのは大きい。

「シードラ、今度そっちに行くから。よろしく頼む」

 シードラと衛星通信で話す。

 キバヤシは気象衛星だけでなく、通信衛星、GPS衛星、偵察衛星を打ち上げている。

 その中の通信衛星を使って会話をする。

「会長は、そう言って、転移魔法とかでパッと来るつもりなんでしょう。で、いつ頃来ますか」

「いや、今回は陸亀ホエールで行ってみようと思う」

「……、今、陸亀ホエールって聞こえた気がするんですが、もう一度言って貰えませんか?」

「ああ、たしかに陸亀ホエールで行くと言った」

「マジっすか」

「マジっす」

「会長は、何でいつも常識外れなんですか。たまには常識的な事をやって下さいよ。転移魔法だけでも口から心臓が出ると思ったのに」

「まあ、成り行きでな、成り行きだよ、成り行き」

「成り行きで陸亀ホエールを手懐けるのは会長だけです」

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