第282話 ブリマー

「陸亀ホエール、空港の上空で停止しました。陸亀ホエールの先端に白い布が立っています。攻撃の意志はなさそうです」

「よし、使者を出そう。誰か候補はいないか?」

「私が行きます」

 エミールが立候補してくれた。

「エミール、頼む。エリス、エミールの護衛を頼めるか」

「いざと言う時は、エミールを連れて逃げればいいのね」

「ああ、そうだ。では、二人に頼む」

「私も行きます」

 ミストラルが、手を挙げた。

「鳥人には鳥人の方が良いと思います。私も連れて行って下さい」

「分かった、ミストラルも頼む」

 エリスがエミールを抱え、ミストラルと停止した陸亀ホエールに向かって行き、上部に降りる。

 エミールの服に仕込んだ高性能マイクを伝わって、お互いの話の内容が伝わってくる。

「私は、エルバンテ公に仕えるエミールという者だ。今回の使者を仰せつかった。話の内容を聞こう」

「私は鳥人の頭で『ブリマー』という。我々にエルバンテと交戦する意志はない。実はお願いがあって来た。聞いて貰えないだろうか」

「内容による。まずは話を聞こう」

 ブリマーの話が始まった。

「半年前、大地が揺れ、サン・シュミット山脈が噴火した。それは自然の怒りなので仕方ないが、その影響で魔物の森に火山灰や噴石が降り積り、魔物の森に住む草食系の動物や魔物が餌を食べれなくなった。

 そうなると肉食系の動物や魔物も餌がなくなり、今や、魔物の森は全滅の状態だ。

 魔物の森の動物や草木を食料としている我々も例外ではない。

 そこで、エルバンテ公を頼ってきたのだ。我々に食料を提供して頂きたい」

「聞きたい事がいくつかある。まず、この部落は何人ぐらい居る?」

「80人ちょっとだ。元は120人ぐらい居たが、40人程が餓死と病死した」

「次に、これはエルバンテへの降伏と受け取っていいのか?それは全員の総意なのか?」

「そうだ。我々は生きる事を選ぶ代わりに、エルバンテに降伏する。それは、生き残った全員の意志だ」

「降伏するという事が、どういう事か分かっているか?」

「分かっている。我々は昔、人族から迫害を受けた歴史がある。しかし、それでもこのままよりましと判断した」

 そこまで聞いた俺は、相手と話をする事にする。

「エミール、これから俺がそっちに行く。そのブリマーという者に伝えてくれ」

「ブリマー殿、これからエルバンテ公自らここに来るそうです」

「なんと……」

 俺はミュに抱えられ、エミールたちの居るところに来た。

「あなたさまは、もしかして、いつぞやの……」

「やあ、覚えていましたか。その時は失礼した」

「で、では、あの時の女神さまも……」

 エリスがフードのついたコートを脱ぎ、背中から白い翼を出した。

「はっ、ははー」

 ブリマーとその護衛が跪いた。

 俺とは態度が違うじゃんか。

「話は聞いていた。取り敢えず、この陸亀ホエールを地上に降ろしてくれ」

 ブリマーが目を閉じ、念じているのか、陸亀ホエールは滑走路横の駐機場のところに降りた。

「では、全員、降りて貰おう」

「全員降りたいが、実は半分が病気で、そのうち、10人は一人では歩けない状態だ」

「エリス、診察を頼む」

 エリスが病気と言われた人を診察する。

「原因は単なる栄養失調、それと脱水症状ね。病院で点滴をすれば治るはずよ」

「なんと、女神さま、ありがとうございま」

 いや、だから病院って、キバヤシ病院は俺の病院だから。

「それでは、一人で飛べる方は私について来て下さい」

 ミストラルが翼を出した。

 それを見た、白い鳥人はびっくりしている。

「既にキバヤシ公の下には鳥人が居たのか。そこの人、迫害はされていないか?」

「私はミストラルと言います。迫害どころか、秘書としてお仕えする身です。大変良くして頂いています」

 そういうとミストラルは、空に飛び出す。

 ミストラルを追って白い鳥人も飛び出した。

 一人で飛べない鳥人は垂直離着陸式輸送機、前の世界では「オスプレイ」と言われた飛行機を使って運び出す。

 運びだした鳥人は直ぐに病院に連れて行き、手当をしたら、夜には全員が立てるまでに回復した。

 比較的健康だった鳥人には、食物を与えてやると無我夢中に食べている。

 その日は、避難所に泊まって貰い、翌日からは家族ごとに社宅に入って貰う。


 1週間後、ブリマーが挨拶に来た。

「我々は昔、人族から迫害を受けた歴史があり、それが言い伝えとなって、人族とは関わらないことにし、魔物の森で暮らして来た。だが、それが間違いだった事が分かった。

 これからは、この地でエルバンテ領のために働きたい。認めて貰えるだろうか?」

「それは構わないが、読み書き計算はできるか?計算の基礎はそろばんだが、それの訓練もやって貰う。

 それと子供たちは全て学院に通って貰い、教育を受けて貰う事になる」

「なんと、エルバンテでは教育も施してくれるのか。我々には、字は当の昔に失われてしまったものだ」

「それでは、大人もそこからだな」

 鳥人の身の振り方を考えないといけない。

「ところで、陸亀ホエールの餌は何だ。陸亀ホエールだって、餌が必要だろう」

「いや、陸亀ホエールに餌は必要ない。我々は何百年と餌を与えた事はない」

「それで、陸亀ホエールはどうやったら言う事を聞いてくれるんだ」

「念話を使う」

 念話!うちの娘たちも使えるが、陸亀ホエールにも通じるだろうか?


「念話で動くのか?」

「念話で動くが、念話を使える者が少ない。我々の仲間にも私の他に1人居るだけだ。まず、念話を使える者を探すのが先だろう」

「ああ、試してみるよ」

「???」

 ブリマーが怪訝な顔をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る