第273話 新大陸

 しばらくすると、第一艦橋の扉を開けてウォリア艦長が入って来た。

「ウォリア艦長、ご苦労さまでした」

「いやー、やっぱり艦上はいいです。広々している」

 潜水艦の内部は狭いので、出てくるとほっとするのだと言う。

「ミズホはこれより東へ向かう。航海長、進路確認」

「進路問題ありません」

 この時代は羅針盤はあるが、GPSなんてないので、星を見て航路を決める」

 それも航海班の重要な仕事だ。

 しかも航海班にはもう一つ仕事がある。それは気象観測だ。

 嵐や氷山の発見も航海班の仕事になる。


 陸地から離れて2日、周りには何もなくなった。

 あるのは海ばかりだ。

 外洋なので、多少海は荒れてはいるが、双胴船の効果もあり、ミズホにはそれほど影響はない。

 そして更に4日、陸地が見えてきた。

「前方に陸地が見えます」

 スパロー船長や俺が双眼鏡を覗くと、遥か彼方に蜃気楼のような陸地が見える。

 そして、その陸地は徐々に大きくなって来る。

「艦載機、偵察準備」

「ファン、ファン、艦載機発艦、艦載機発艦」

 館内放送が響くと同時に格納庫から艦載機が専用エレベータで甲板に上がってきた。

 甲板には艦載機発艦のための兵士が走って来て、発艦の指示をしている。

 直ぐに第一陣の2機が並んで発艦していく。

 第一陣が発艦すると直ぐに第二陣が発艦する。

 あっという間に10機が発艦した。20分ほどした頃だろうか、艦載機から連絡が入る。

「こちら第一飛行隊、陸地の上空に来ましたが、下は魔物ばかりです。見える範囲に人間らしき者はいません」

 何だって、魔物ばかりだと。

「艦長、代わって貰っていいか?」

 艦長に代わり、無線のマイクで俺が話す。

「キバヤシだ。どんな魔物がいるか、分かるか?」

「ガガガ、か、会長ですか?」

「確認はいいから。先程の声は聞こえたな。どんな魔物だ」

「はい、ティレックスも居ますし、一番大きいのは100フぐらいで首と尻尾が異状に長い魔物も居ます。背中に団扇のような板のある魔物も居ます」

 それは魔物じゃない。恐竜だ。

「分かった、直ぐにそこから離脱するんだ。いいか、直ぐにだ」

「カガ、了解、離脱します。あっ、あれは何だ。何か黒い飛行物体がこっちに向かって飛んで来ます」

 やばい、恐れていたものが来た。

「直ちにミズホに向かえ。いいか、交戦しようなどと思うな」

 恐竜が居た世界なら居るだろう、飛行能力を持つ恐竜、プテラノドン。

 だが、ファイター機なら速度的に負ける事はないだろう。ところであのファイター機って名前つけてなかったっけ。

「ガー、全機離脱、全機離脱」

 無線から緊迫した声が聞こえる。

「こちらアル、速度上がりません。先に行って下さい」

「アル、状況を説明しろ」

「エンジン出力が低下していきます。回転数が落ちていきます」

「高度はいくらだ。エルバイディで帰れそうか?」

「現在の高度なら、ギリギリ届くと思います」

 エルバイディとは高度に対する滑空距離の事で、エルバイディが20であれば、高度1,000mで20km先まで滑空する事が出来る。

「ミュ、エリス行くぞ。ラピスはビビで上空待機、艦載機を誘導してくれ」

 俺はミュとエリスと一緒に外に通じる扉を開けて非常階段の踊り場に出ると、エリスに抱えられて上空に上がった。

 ラピスはビビの居る甲板に降りていく。

 俺はエリスとミュにサンドイッチにされると、最高速で第一飛行隊の方に飛んで行った。

 プテラノドンとアルの艦載機の間に入り、ミュがプテラノドンにファイヤーボールを放つが、プテラノドンは華麗にファイヤーボールを躱す。

 俺たちがアルの艦載機から注意を逸らしている間に、アルは高度を落としながらもミズホの方に飛んで行った。

 しかし、反対に不利になったのはこっちだ。見るとプテラノドンが10匹ほどに増えており、俺たちの周囲を回っている。

「囲まれたな」

 下には、ティレックスの群れがこっちを見上げている。俺たちでもプテラノドンでも落ちて来た方を捕食するつもりだろう。

「シンヤさまどうするの?」

「こいつらは自分で羽ばたいて上昇することが出来ない。上昇するのは上昇気流を捕まえているからだ。

 なので、上昇気流のないところに行く。エリス、ミュ、あそこに見える湖の上に行ってくれ。

 上昇気流は大地が暖められる事によって出来るから、暖められない湖の上では上昇気流は出来にくい」

 俺、ミュ、エリスが湖の上に行くと案の定、プテラノドンたちは追って来た。

 下降しながら、湖に行ったので、湖の上に出た時は高度が20mもない程だ。

 そこにプテラノドンが来た。

「今だ、急上昇」

 ミュとエリスが垂直に上昇する。

 プテラノドンたちは上昇気流が無いので、上昇する俺たちを追って来れない。

 そのうち、1羽が湖に落ちた。

 すると落ちたプテラノドンに、首長竜の群れが襲い掛かる。

 それを見た、他のプテラノドンは急いで羽ばたくが、元々羽ばたいて上昇する機能はないので、また1羽、また1羽と湖に落ちていく。

 落ちたプテラノドンは捕食されていく。

「今のうちに帰艦するぞ」

 俺たちは最高速でミズホに帰艦した。

 帰艦したアルの機体からはオイルが漏れていた。

 まだ飛行機は使われ始めたばかりだ。故障が出るのも仕方ないのだろう。

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