第255話 帰郷

「ミドゥーシャ、エルハンドラ、大丈夫か」

「私たちはどうにか。それより、モン・ハン領もエルバンテ領になるとか。今後はよろしくお願いします」

「エルハンドラ」

 ローランド伯爵も来た。

「おお、無事で良かった。孫も元気そうでホッとしたわい」

「あら、ほんと、大人の世界の事なんて、我知らずって顔をしているわ」

 ローランド伯爵夫人のミルバァさんが覗き込む。

「エルハンドラ、この子の名前は何と言うんだ」

「男の子なので、父上の名前を貰い、『コルバト・ジュニア』と言います」

「良い名ではないか。父上のように立派な子に育つようにだな」

「いや、エルバンテ公、嫁のミドゥーシャに『そんな事したらダメでしょう』とか言われたら、儂が怒られているような気になるんじゃよ」

「「「ははは」」」

 モン・ハン領がエルバンテとなるまで、まだ1年はある。

 だが、エルバンテと同じように議会制とするなら、官僚試験や議員の選挙準備などやる事は沢山ある。

 だが、既に2つの領地を議会制にしてきた実績は官僚たちも分かっている。

 モン・ハン領では様々な課題があってもさっさと片付けてしまうのはやはり、優秀な人材のおかげだろう。


 1か月ほどして俺たちはエルバンテに戻った。

 後は、エルバンテからモン・ハンに入った官僚たちが、うまくやってくれるだろう。

 俺たちがエルバンテに到着してしばらくしてから、ムサシが港に入ってきたので、娘たちを迎えに港に行く。

 船から降りて来る娘たちを見るが、なんだか元気がない。

「アヤカ、アスカ、ホノカ、どうした元気がないじゃないか。船酔いでもしたか?」

「パパ、そうじゃないの。サザンランドはすごく可哀想なの」

 どうやら、災害の現場を見て気落ちしたようだ。

「ご隠居さま、それほど酷い状態でしたか?」

「ああ、かなり酷い。平地にあった家は全て流されて、人々は山の上に木の枝などで家を造っておった。

 それに死亡者数や行方不明者数なども分からん。

 儂たちが到着した時は水は引いておったが、まだ泥の状態でな、膝まで埋まるような泥なので、とてもじゃないが、住む事はできん」

「ゴム工場はどうでしたか?」

 これは娘たちが話した。

「ビビに乗って見て来たけど、工場の半分くらいまで水が来た跡があったの」

「それでね、泥が3フくらいまで来ていたの」

「人は誰もいなかったの」

 娘たちが交代で報告してくれる。

「それでじゃな、向うにいても仕方ないので、ムサシに乗せて避難させて来た」

「なるほど、良い判断だと思います。それで、一緒に来た人たちは、今どこに居ますか?」

「官僚に指示して、トウキョーの社宅に入って貰っておる」

 1か月後、シナノが帰ってくると、より詳細な被害状況が分かった。

 水害のあった国は、イルバァ川の下流域にある国が深刻で、グンネル国への通過国であるウルスラ国もかなりの被害らしい。

 被害にあった国は浸水したものの、既に水は引き、住民の生活も徐々に元に戻っているとのことだった。

 ただ水害のあった国は、この季節は雨が多いため、積もった泥が乾燥しないので、いつ元に戻るかは不明とのことだった。

 例え、乾季に入ったとしても、細かい泥は風に舞い、生活に支障を来すだろう。

 これでゴム工場は使えなくなった。ゴムを使った製品の製造はスローダウンするしかない。

 ゴムの木はどうなんだろう。

 工場は新しい土地に建てればいいが、ゴムの木を成長させるには時間が掛かる。

 ゴムの木がだめなら、ゴムに替わる物を探さないといけない。

 それに、ヘドック、アンミュー、ボントスはどうしただろうか。ヘドックなんか国王をやっていると言ったが、無事だろうか。

 3人の心配をしていると、アカギが入港してきた。

 俺も港に迎えに行く。

 するとタラップを降りて来る人の中に見覚えがある人がいる。

「ヘドックさん、ボントスさん」

「おおっ、シンヤさんじゃないか」

「無礼者、このお方は、ご領主エルバンテ公なるぞ」

 近衛兵が、アカギから降りて来たヘドックたちを威嚇する。

「へっ、誰がエルバンテ公だって?お前さんはシンヤさんだろう」

「無礼者!」

 近衛兵は剣を抜いた。

「ちょっと待て、この者たちは古い友人なんだ。それに俺が領主になった事も知らないんだ」

「ははっー」

「おい、どういう事だ?」

 俺は簡単に事情を説明した。

 3人とも恐れ入っている。

 地面に片膝を付き、頭を垂れている。

「これは知らぬ事とは言え、失礼しました」

「ヘドックさんだって今では、グンネル国の国王じゃないですか?立場は一緒です。立って下さい」

「いや、国の規模が違うし、それにもうグンネル国はねぇ」

 ヘドックさん、昔の話し方に戻っているよ。

「取り敢えず、邸宅の方に来て下さい。話はそこで伺いましょう」

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