第243話 外交
タウロー邸を制圧した俺たちは、死者を丁重に弔い、生きている賊は地下牢に捕らえた。
だが、1000人と言われた賊は実は500人もおらず、半数ほどが死亡し、残りは逃げたりして、捕まった者は50人にも満たなかった。
その50人も餓死させる訳に行かないので、粥を出してやる。
ところで、ヴェルサルジュ公都は農地はあるが、その面積は少ない、とてもじゃないが、公都民全員の食をまかないきれるとは考えられない。
その事を助けた住人に聞くと、領内自体は農作地が豊富であり、そこで採れる作物は一旦、ギブ要塞に集められるとのこと。
ギブ要塞は集めた食料を公都に運び込む役割も負っていたという事だが、ギブ要塞がなくなったため、領内の食料の集荷と発送が出来なくなり、食料事情が滞っていたとの事だ。
2日ほど休息を採る事になり、タウロー邸でまったりしている。
穴の開いた外壁はその日のうちに、工作兵が余っていた家具を使って修理した。
余っていた家具といっても貴族の家にあった家具だ。外壁の板のところどころに装飾があるのが、おかしい。
その間にみんなと話をする。
まずはルルミからだ。
「ルルミはいつものんびりしていると思ったが、賊の人質奪還の時は速かったな」
「私は倍速の魔法が使えます。ですから、逃げ足はいつも速いのです」
やはり盗賊姉妹。姉のミドゥーシャは昏睡強盗だが、妹のルルミはかっぱらいだった。
「ルルミ、まだかっぱらいをやっているんじゃないだろうな」
「ちゃんと足を洗いました。なんなら、見て見ます。ホラ」
そう言って、ルルミはスカートを上げて見せた。
「ね、夕べも洗ったから綺麗な足でしょう?」
えっと、意味が違うが……。うっ、ここはスルーしよう。
「それで、ミストラルはそれだけの翼でよくあんなに飛べるな」
人を一人飛ばすためには10mくらいの翼が必要なはずだ。それなのに、手と兼ねている翼は広げても1.5mほどしかない。
「私たち鳥人は魔法で飛ぶのです。腕にある翼は安定と方向を決めるだけしか使いません」
へー、そうだったのか。
「では、空中で制止とかはできないのか?」
「空中で制止するためには多くの魔力を使います。鳥人だからといってそこまで魔力は多くありません。
もし、出来るとすれば、悪魔か神です」
そんな話をしているところへ、ユーリとアンドリューヌが入ってきた。
アンドリューヌはいつもの戦闘服ではなく、ドレスを着ている。
「やはり、アンドリューヌはドレスの方が似合うな」
ふと、声が出てしまう。
「キバヤシさまもそう思いますか。私もそう思います。アンドリューヌさまはドレスの方がお綺麗だ」
この流れはやばい。なるべく、嫁たちと目を合わせないようにしないと。
「あら、本当ですか?お世辞でも嬉しいわ」
「いえ、お世辞ではありません。私は嘘と地獄はイッた事がありません」
「まあ、お上手ですわ」
それを言うなら、『嘘と坊主の髷はユッた事がない』じゃないか?
それに、地獄は行った事がないのなら、天国には行った事があるのか?
それ自体嘘だろう。ユーリめ、まったく、いい加減なやつだ。
「ユーリを見ていると、エルハンドラを思い出すな」
「そうね、今頃、何をやっているかしら?」
エリスも同意する。
「エルハンドラ殿をご存じなのですか?」
「ええ、家族での付き合いです。ユーリさまこそ、ご存じなのですか?」
「ええ、王都の貴族学院で一緒でした。エルハンドラはどうしているでしょうか?
相変わらず、アホな事はしていないでしょうか?」
やはり、あいつはアホらしい。
「彼は妻を貰いまして、今では幸せに暮らして居ます。ここに居るルルミの姉のミドゥーシャが彼の妻になります」
「おお、そうなのですか。それは目出度い事です」
「ユーリさまは、ご妻女は?」
「私はまだ一人者でして、どなたか私の所に来てくれても良い、と言ってくれる方がいないものかと思っております」
「ユーリさまならきっと素敵な女性が見つかると思いますわ。アンドリューヌさまもそう思いませんか?」
ラピスが言う。
「え、ええ、私もそう思いますわ」
「失礼ながら、アンドリューヌさまもお一人なのでしょうか?」
ユーリがストレートに聴いてきた。
「ええ、私も一人で。やはり、頼りに出来る殿方が欲しいと思いつつも、なかなかそれが大変で…」
「いっそ、二人、結婚すればどうかしら?」
エリスの強引なくっつけ攻撃だ。なんか、近所のおばちゃんになってきた。
「ええーと、それはアンドリューヌさまの、ご意思もありますから…」
「ええ、私だけの気持ちでは決められませんし、相手の気持ちが重要ですから…」
「何、二人とも嫌いなの?」
「「滅相もない」」
ハモったね。
「なんだ、二人とも好きなんじゃん」
「「え、ええ、ま、まぁ」」
「まずはお互いの領土を訪ねられては、いかがかしら?
お互いの個性が出ると思いますし、その領民の生活を見れば、領主としてどうかも分かりますし」
ラピスよ、ナイス意見だ。
「深く考える事はないわ。外交として親交を温めればいいのよ。隣国と親交を結ぶのは大切な事よ」
エリス、たまにだけどいい事を言う。
「そ、そうですわね、まずは親交を温めましょう」
「そうですね、隣国ですから、当たり前の事ですね」
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