第239話 廃墟の子供たち

 ラピスは馬具をつけたペガサスに乗っている。

 ただ、いつも乗っている訳ではなく、半分ぐらいは鳥車の方にも乗っている。

 そういう時のペガサスは隊を先導するように単騎で歩いている。

 ペガサスの餌はキチンと同じもので良いようで、特に気を使ってはいない。

 ペガサスはキチンとも仲が良さそうだ。同じ動物だから意思が通じるところがあるのだろうか。

 そして、集合場所である、山の麓に来た。

「これは、キバヤシ殿ではありませんか、お久しぶりでございます」

 プロギスの女領主だ。

「お久しぶりでございます。先日はありがとうございました」

 何が、ありがたいか分からないが、とりあえずは社交辞令だ。

「おや、お二人は既に既知の仲なのですか?」

「ええ、以前、プロギスに行った事があり、その際にお会いしています」

「プロギスに来たと言うより、単に通過しただけではなかったかの?」

「ええ、まあ……」

「ほう、キバヤシさまはそれでどちらに行かれたのですか?」

 俺はアリストテレスさんを見るが、アリストテレスさんも仕方ないという顔をしている。

「その時はヴェルサルジュの方へ行きまして……」

「なんと、キバヤシさまは既にヴェルサルジュ領へ行かれた事があったのですか?何故、それをお話下さらなかったのです?」

 俺は、ヴェルサルジュに行った理由を話した。

 そして、ギブ要塞とその水害と言われている事象を引き起こした事、それによって、領地が乱れている事を話した。

「……」

「……」

「そ、それで、40人程でギブ要塞を破壊したばかりでなく、領主邸まで破壊し、さらに領主まで倒したと」

「あ、いや、領主邸と領主の方はあくまでおまけで……」

「私は今、分かりました」

「ええ、私も今、分かりました」

「「この軍の総指揮は、キバヤシさまに執って頂きます」」

 アリストテレスさんを見るが、やはり仕方ないという顔をしている。

「では、私が指揮を執ります。お二人は副将軍ということでお願いします」

 このようにして、この軍はキバヤシ軍という事になった。

 峠を越えて、下り道をしばらく進むと、破壊されたギブ要塞が見えてきた。

 修復はされていないようだ。

「ちょっと、待って」

 エリスが、何か探知したようだ。

 エリスだけが中に入っていく。

 しばらくするとエリスは、子供たちを連れて出てきた。

「街の中が荒らされ、賊が横行しているので、逃げて来たらしいわ。親も殺されたみたい」

 それを聞いて、泣いたのは、ミストラルだ。

 彼女はこの街で生活していた。その時はそれなりに平和だったのだろう。それが今では、賊の蔓延る街となり、親を殺された子供が居るという現実を知ってたまらず、泣いたのだろう。

 だが、俺にも原因はある。賊を一掃して、秩序を取り戻さなくてはならない。

 子供たちには食料を与えた後、軍の後方で、輜重運びを手伝って貰う事で、同行させる事にした。

 ギブ要塞から真っ直ぐに下ると海に浮かんだ領主邸がある。

 今は、その姿は無く、瓦礫があるだけだ。

 街の中にも人影を見ない。

「おーい、誰かいるか?」

 兵士が声を掛けるが、返事がない。

 俺たちが歩いていくと、後ろの方で声がした。

「ミルジュ、ミルジュじゃないの」

 ギブ要塞で保護した子供の中の一人に、家から出てきた女性が駆け寄っていた。

 その女性は母親で、てっきり子供が連れ去られたと思ったようだが、ギブ要塞に逃げ込んでいた事が分かった。

 母親も族から身を守るために、地下室に隠れていたというのだ。

 母親から話を聞くと、現在賊になっているのは兵士たちのようだ。

 領主が亡くなって、クーデターが起こったのだが、その時に軍の幹部は殺されたらしい。

 そうすると、その後釜を狙って、武力の勝る者が力づくで軍を押さえようとしたとのことだ。

 今は、大きく2つに別れ、一つはタウロー伯爵邸、もう一つはリシュジル伯爵邸に立てこもって争っているとのこと。

 リシュジルは、殺されたらしいという事も分かった。

 クーデターが起こった直後は自分たちの正当性を主張していたが、そのうち、正体を現して、略奪を始めると、地獄の始まりだった。

 まずは食料を略奪し、次に女を略奪した。仲間にならない男は殺され、なったとしても奴隷同様に使われる。

 戦いがあれば、動く盾として使われた。

 しかし、それも長くは続かず、略奪する物がなくなった今は、相手の持っている食料を奪っている状態だという事だ。

 ヴェルサルジュの街はギブ要塞のあるところからしか他の街に行けない。

 ただ、それがメリットとなり、領土全体にこの無法地帯は拡大していない。

 ヴェルサルジュの街だけ、秩序を取り戻せば、復興のやり用はあるだろう。

 それから、何人か、助けた人たちから情報を仕入れつつ、街の中心地にあった広場を拠点として、軍を駐留させた。

 もともと、この広場は領主邸の前にあり、軍の閲兵式を行うところでもあったので、軍を駐留させるには適地だ。

 そして山にあるギブ要塞を見て、左手にタウロー伯爵邸、右手にリシュジル邸がある。

 そして、俺たちが到着した事は両方の賊は既に知っているはずで、彼らの狙いは俺たちの食料だ。

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