第234話 停泊地
「は、早く帰ろうよ」
エリスが泣きを入れてきた。
「ちょっと、待ってくれ。エリス、この人たちが死んだ理由を鑑定できるか」
「エキストラサーチ」
「……」
「分かったわ。コレラよ」
「コレラ?コレラ菌はまだここにあるのか?」
「ううん、もうないわ」
「無いと分かっても、死亡原因がコレラ菌だというなら、なるべくここには居たくないな。さっさと帰るか。
エリス、念のために殺菌してくれ。それから帰ろう」
エリスに殺菌して貰って、俺たちはヤマトに帰った。
ヤマトに帰って、ジョニー船長に調査結果を報告する。
「では、あの船はどうしましょうか?」
「このまま、漂わせておくのも気持ちが悪いので、亡くなった方と一緒に天に送りましょう。ミュ、頼めるか?」
「ファイヤーボール、ファイヤーボール、ファイヤーボール」
夜なので、ミュの力が最大に使える。
ヤマトの左舷に直径3mぐらいの火の球が3つ出た。
それをミュが幽霊船に投げると船体に火が点き、あっと言う間に燃え広がった。
マストに火が燃え移り火の柱になっている。
俺たちは船が火に包まれ、マストが倒れるまで見ていた。
最後に、炎が大きく天を突くように燃えた時、あの船の中で死に、まだこの世に漂っていた魂が、炎と一緒に天に上った気がした。
「ヤマト発進」
ジョニー船長が号令する。
折りたたまれていた帆が張られ、ヤマトがゆっくりと動き出す。
海の上にはまだ、火が残っていたが、しばらくするとその火も海の中に消えた。
部屋に戻った俺たちはしばらく幽霊船の話をしていたが、そのうちベッドに崩れるようにして眠った。
幽霊船と遭遇してから3日後、始めて人が住んでいる漁村を見た。
そこには入り江もあり、ヤマトを停泊させるには適地ではあるが、住民たちがはたして友好的なのか、敵対するのか分からない。
第一、言葉が通じないとコミュニケーションが取れない。
こういう時の使者は命がけだ。下手をするといきなり刺される事もある。
使者として任命されたのは、ガディアムという男だった。
「私も行きましょう」
俺も立候補する。
「いえ、会長に危険な事をさせる訳には行きません。船員の中から腕に覚えのある者を出します」
ジョニー船長が止めるが、俺が無理を言って行く事にする。
「ご主人さまが行かれるのなら私も行きます」
たぶん、そう言うだろうと思ったが、ミュも行くと言う。
エリスとラピスも行きたそうだったが、あまり多いと、向こうの警戒心を呼ぶ。
ここは、3人で行く事になった。
「内火艇を降ろせ」
ジョニー船長が指示すると、小舟が降ろされた。
降ろされた小舟に、俺たちが乗船する。ここからは手漕ぎで進むしかない。
ミュは普段の身体の線が出る服ではなく、ゆったりとした服を着て、ベールを被っている。
海岸に着くと、既に村人が集まって来ていた。
「ここの村長と話がしたい」
ガディアムが声高らかに言う。
すると集まった人を掻き分けるように一人の老人が出てきた。
「儂がここの村長じゃ」
どうにか、言葉は通じるようだ。
「実はお願いがあって来た。今夜、この入り江に停泊させて貰いたい。それと水と食料があるなら、買いたい。特に野菜類が欲しい」
野菜が不足すると病気になる。野菜の補充は長い航海を行う上では必須だ。
「貴殿たちが噂のキバヤシコーポレーションかと思うが、その要望には応じよう。だが、我々にもお願いしたい事がある。
この先に住み着いた、盗賊共を一掃して欲しい」
話を聞くと、どこから流れてきたのか、隣村へ通じる山の峠あたりに盗賊が住み着き、通行人を襲うようになったため、生活用品がこの村に入って来なくなったというのだ。
反対にこの村からも珊瑚などの輸出品も持ち出せなくなり、困っているという。
この村は、漁村ではあるが、土地もかなり広く農業もやっている。
また、海で採れる珊瑚や真珠で財政的には困窮していないというのだ。
しかし、それは他の国に輸出できればである。
さらに盗賊共は、村をも襲うようになり、夜警団を結成して警戒に当たっているが、向こうは戦いに慣れているそうで、既に3人が死亡、怪我人が10人以上出ているとのことだった。
村長からの依頼は受ける事にし、村の代表たちと対策会議を行う。
「山に入って討伐するのは、討ち漏らす率が多くなります。
山の中は隠れるところがいっぱいありますし、隠れて対応されると、こちらもある程度の被害と下手をすると持久戦になります。
なので、出来れば誘い出して、一網打尽と言うのが良いのですが…」
「どこに誘いき出しましょうか?」
「やはり、村の中でしょう」
アリストテレスさんの作戦を採用することになり、誘い出す役割は俺たちが担う事になった。
村では、誘い出した後の盗賊たちを閉じ込める罠を製作している。3日ぐらいで出来るとの事だったので、作戦実行は4日後に決まった。
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