第233話 ゴーストシップ
レン航海長の言った通り、右手に陸地が見えだした。
右手の陸地沿いを北上していく。
中には街があったりもする陸地もあるが、ここはまだ、サザンランドの中の一つの国なのだろう。
そんな事を思いながらも、ヤマトは北上していく。
西の水平線に太陽が沈む。ここからは夜間の航行になるので、夜目の効く獣人が見張りと航海の操舵を担当する。
俺たちは自分たちの部屋で、眠りに就いていた。
「ピー、ピー、第一級戦闘体制、第一級戦闘体制」
いきなりアラートが鳴った。
俺たちが操舵室に行くと、既にジョニー船長を始めとする人たちが揃っていた。
「船長、何があったのですか?」
「会長、不審船が1隻近づいてきます。おかしな事に船内に灯りが見えませんし、帆もありません。
海賊船かもしれないので、このまま第一級戦闘体制ですれ違います」
「俺には何も見えないが……」
「人間の目には見えませんが、獣人の目には見えているようです」
見ると獣人は、暗闇を差して何か言っている。
「ミュには見えるか?」
「はい、はっきり見えます」
さすが、暗視モードがあると違う。
「相手の船は漂っているだけのように見えます。帆は張ってないのではなく、破れているようです。
どうも人は乗船していないようで、捨てられたのかそれとも何か別のところから流れてきたのか分かりませんが、船の形からして見た事がない船です」
相手の船がだんだん近づいてきて、俺の目にもぼんやりと見えるようになってきた。なってきたが、あれは幽霊船ではないか?
「エリス、あれは、幽霊船では……」
見るとエリスが蹲っている。
「おい、エリス、どうした?」
「嫌、幽霊船は嫌」
頭に手を置いて、震えている。
「神のくせに、なんで幽霊船を怖がるんだよ。それに、まだ幽霊が居ると決まった訳じゃないだろう」
「神だって、苦手なものはあるのよ。幽霊系は嫌よ」
「しょうがない、ミュ、俺を連れて向うの船に移ってくれ。船を調べてみる」
「分かりました、ご主人さま」
「ミュ、私もお願い」
ラピスが手を上げた。
「ちょ、ちょっと私一人だけ残れって言うの?」
「だって、幽霊が怖いんだろう」
「怖いのと行かないのは別よ」
俺はミュに抱かれ、ラピスはエリスに抱かれて幽霊船に乗り移った。
甲板に降りると、ところどころに穴が空いてはいるが、朽ちてている感じはしない。
しかし、船の造りは大分違う。マストは1本で、そのマストに張られた帆はほとんどがない。
「よし、下に行ってみよう」
エリスが俺の背中に張り付いてきた。
ミュが、オリハルコンの剣を抜いて先導する。
部屋に通じる扉に手をかけた時だ。
「ドーン」
扉が外れた。
「キャー」
エリスが大声を出す。
「エリス、うるさい。こっちが、びっくりするじゃないか」
「だって、怖いんだもん」
俺たちは下へ通じる階段を一歩、一歩、降りていく。
さすがに船の中に入って来ると、真っ暗になる。
「ミュ、灯りがないか?」
「これでどうでしょう」
ミュが水晶を取り出し、ライトの魔法をかけると、水晶が懐中電灯のようになった。
水晶の明かりの先に照らし出されるものに不審なものはない。どこまでも続く通路があるだけだ。
そのうち、一つの部屋があった。
「入ってみましょう」
中に入ると食堂だろうか、広い部屋があり、食器や調理器具もあった。
「食堂のようです」
ミュが教えてくれる。
食堂を出た俺たちは、さらに下に続く階段を下りていく。
今度は両側に扉がある通路に出た。
一番、手前にあった扉を開けてみる。
中はただの部屋だったが、一つ違っていたのは、白骨が1体あった。いや、既に白骨というほど白くない。
よく見ると、お尻に骨がある。どうやら、獣人のようだ。
「エリス、鑑定してくれ」
エリスは俺の後ろから出てきて、白骨の鑑定をする。
「えっと、この仏様は今から300年ぐらい前の獣人の女性ね」
だから、エリスは神だろう。いつから仏教徒になったんだ。
「するとこの船は300年もの間、この海を漂っているのか。300年も前にこんな船を造る技術があったんだ」
「帆船を造る技術はかなり前からあったわ。優秀な船大工がいれば、帆船を造って外洋に出たのは考えられないことじゃないわ」
エリスの解説が続く。
「しかし、この船に乗船していた人たちは、どうなったんだろう」
「聞いた事があります。昔、迫害された獣人が大きな船を造って、ヴェルサルジュから脱出したと。ですが、途中から行方不明になり、目的の地に着いたとか、途中で嵐に会って沈没したとかいろいろな噂が囁かれました。
そして、その船は今でも海を漂っていると言うのが、昔からの言い伝えで、もしその船を見ると死ぬと言われています」
ラピスが説明してくれた。
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