第201話 帰還

「将軍、お世話になりました」

「いや、世話になったのはこっちの方じゃ。エルバンテ公にもよろしくな」

 聞けば、エルバンテ公の剣友がゴレット将軍との事だ。

 昔、同じ道場に通い、同じ指南より剣術を学んだとのことだった。

「ヤマト、出港」

 船長のジョニーさんが、高らかに言う。

 角笛が2回鳴らされ、錨が上げられた。

 港の沖合に停泊していたヤマトがゆっくりと動き出す。

 港の上には一緒に戦った兵士たちが手を振っている。

「ホーゲンさまー、またいらして下さーい」

「ウォルフさまー、ご無事でー」

「ポールさまー、お元気でー」

 若い女性たちが大挙して押し寄せ、岸壁から手を振っている。

 お前たち、一体何をした?どうしたら、女子があんなに集まる?

 ミスティやミントもジト目で睨む。

「ホーゲン、ポール、ウォルフ、帰ったら、サリー姉さまに言いつけてやるから」

「いや、俺たち何も悪い事はしてないし」

「そうだぞ、お前たちの方こそ、兵士のみんなからサインだ何だと言われて、いい気になっていたんじゃないか」

「いえ、私たちいい気になってないから」

「何だ、お前たち家族がモテて、ヤキモチを焼いているのか?」

 俺がからかう。

「「「「「違います!」」」」」

「ここから、イルミティバまでは暇だ。どうだホーゲン、剣舞でも舞ってくれないか?」

 ミスティたちもホーゲンが剣舞を舞うと言うので、大人しくなった。

 ホーゲンが剣舞を舞うと同時に、エリスがその舞に合わせて歌う。ゆったりしたバラードだ。

 エリスの歌とホーゲンの剣舞で甲板の上に人が溢れてきた。

 この剣舞は、この戦いで死んだ者へのレクイエムだ。

 ここに居る全員が様々な思いで、エリスの歌とホーゲンの剣舞に酔っている。

 そして、いろいろと去就することもあるだろう。

 直接、戦った者、裏で支えた者、生きている全員で俺たちの国に帰ろう。そして、家族に会おう。

 俺も娘たちに会いたい。

 イルミティバに着き、先行していたザンクマン将軍と落ち合う。

 横にはエルハンドラ夫婦もいる。

「では将軍、エルハンドラ、ミドゥーシャ、ご無事に」

「そちらこそ、どうぞご無事に。ご領主さまには、まだもう一仕事ありますから」

 例の川幅が狭くなっている所を言っているのだろう。

 ヤマトは夜間に出港した。

 夜間に出港すると、川幅の狭い難所は朝方に通過することが出来る。


「ピィー」

 夜間、寝静まったところに笛の音が響いた。

「敵襲!敵襲!」

 只ならぬ声が響き渡った。

「エリス、甲板に転移」

 エリスが転移の魔法陣を広げ、俺たちは寝間着のまま、魔法陣に乗った。

 甲板に転移すると既に3人ぐらいが、黒い衣装を着た不審者を追い詰めていた。

 そこに、騒ぎを聞きつけた、ホーゲンたちも来た。

「ホーゲンさん、ウォルフさん、ポールさんは後ろの甲板に回って下さい。他に不審者が居るかもしれません」

 アリストテレスさんが指示する。

 ホーゲンとポールは左右に分かれて後ろの甲板に向かう。

 ウォルフは操舵室に寄って、ヤマトの船内を探索するようジョニー船長に伝える。

 直ちに休んでいる船員を起こして、船内の探索が始まったようだ。

「観念しろ、お前に逃げ道はない」

 どうやって来たかは分からない。横づけされた船もない。

 マリンちゃんと同じ人魚かもしれない。

「川に飛び込むかもしれん。周りを固めろ」

 ジョニー船長が船員に指示を出す。

 その時だ。不審者が黒いローブを脱いだが、その姿は全身真っ黒だ。そして、腕には羽があった。

 不審者が腕を広げて羽ばたくと空に向かって飛び出した。

「ミュ、頼む」

 ミュが翼を出して飛び出した。

 ミュの飛行速度は速い。不審者にあっと言う間に追いついた。

 しかし、相手は逃げる。

 ミュがカイモノブクロからオリハルコンの剣を抜いた。

 オリハルコンで不審者に切り掛かる。オリハルコンが腕に触れたと思った瞬間、右の翼が蒸発した。

 不審者が錐揉みしながら落下していく。

 ミュが残った左腕を掴んでヤマトの甲板に引っ張ってきた。

 千切れた右腕をエリスが止血する。

 見ると鳥人だ。黒い鳥人だ。

 いつか魔物の森の奥で見た鳥人は白かったが、この鳥人は違う。

「烏人ね、こちらの国では見ない人種だわ」

「この獣人も北の国から来たということか?」

「その可能性が高いわ」

 エリスが答える。

「目的は何だ?誰に言われた?」

 俺が聞くが、当然の事ながら答えない。

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