第188話 フィギア

 3号船シナノについては、船員の訓練のため、外洋に出ることになっている。

 サザンランドは港が小さく、大型船が2隻入港しても荷の積み込みができないため、1か月待機することになる。

 それならば、シナノで1か月、外洋航路用の訓練と旅行客用のクルージングツアーを行い、ムサシと時間差を設けて出港することとした。

 ムサシのツアー客は3か月の旅行となるため、子供に家督を譲った貴族の老夫婦が多かったが、シナノは一度外洋に出るものの、2週間後には帰ってくるので、比較的若い人が多い。

 シナノの前に居ると、声を掛けられた。

「シンヤ会長」

「カルフさん、テーゲルさん、ノイッシュさん、3人お揃いでどうしました?」

「えへへ、私たちこの船で新婚旅行なんです」

 カルフさんの横には夫らしき人が居る。

 そういえば、結婚のお祝いに3人に長期休暇を与えたっけ。

「そうか、長期休暇で新婚旅行という訳か」

「そうです、船酔いが心配なんですけど、楽しんできますね」

 2週間といってもずっと海の上に居る訳ではない。寄港可能な地域も既に前回の航路探索の時に確認してあるので、そこで数日は停泊する予定だ。

 そこの地域はリゾート開発も行うことにしてある。

 まだ、ホテルなどはないので、宿泊は船にならざるを得ないが、この大型船なら問題ないだろう。

 ムサシに遅れること鐘1つ、角笛が鳴った。

「ブォー、ブォー」

 ムサシと同じようにタグボートに曳かれてシナノが岸を離れる。

 沖合に出たところで、タグボートが離れ、メインマストに帆が張られる。

 その時、ちょうど、夕日が沈む時間と重なっており、メインマスト後方にオレンジ色の夕日が大きく輝き、帆がオレンジ色に染まっているのは幻想的だ。

 夕日をバックに3号船シナノは、サン・イルミド川を速力を上げつつ下っていった。

「シンヤ会長、出港して行きましたね」

 見ればエルハンドラじゃないか。

「エルハンドラ、いつここに来た?」

「いえ、もっと早く来て、会長と一緒に船を見学するつもりだったんですが、ミドゥーシャに怒られまして、遅くなりました」

 見ると後ろにミドゥーシャも居る。

「何で怒られたんだ?」

「今、フィギアと言われる学院生の人形が売り出されているんですが、これが精工で男なら垂涎の物なんです。

 そのフィギアを集めて『サクラシスターズ』を作ろうと思ったら、それを見たミドゥーシャに怒られて、今まで説教されていたという訳です」

 なんと、女生徒のフィギアが販売されているのか。

「会長なら、この男の夢、分かって貰えますよね?」

「分からん」

 エルハンドラが、言葉を失ってよろめいた。

「えっ、そんなぁ…」

「エルハンドラよ、お前はマリンちゃんたちに会った事がないのか?」

「祭りの会場でステージの一番前でなら……」

「そうか、ではエルハンドラに命じる。

 ミドゥーシャ、ルルミとキバヤシ領に行き、ウーリカとともに協力してシュバンカ代官を助けること」

「ええっ、どうして…」

「それは、お前の胸に手を当てて考えてみる事だ」

 エルハンドラが自分の胸に手を当てた。

 しばらく、当てていたが、

「えっと、分かりませんが…」

「そうか、その答えはミドゥーシャに聴け。答えが分かるまで、ミドゥーシャと離れる事は許さん。

 分かったか、分かったなら『はい』と言え」

「は、はい」

 それを見て、嫁たちが笑う。

 ミドゥーシャとルルミも笑っている。

 特にミドゥーシャの顔は笑いながらも困ったという顔をしている。

 エルハンドラたちが居なくなってから、ラピスが話しかけて来た。

「旦那さま、こういう手があったのですね」

「シンヤさま、納得しました」

「エルハンドラはアホだが真面目だ。これで、ミドゥーシャの側を死ぬまで片時も離れないだろう。

 さて、ローランド伯爵に息子の嫁取りが決まった事を連絡しとこうか。

 それと、シュバンカさんにもな」

 俺も前世では、秋葉原を拠点とするアイドルグループ好きだったのだ。

 当然、アニメも好きだった。

 大学生の身分ではフィギアまでは持っていなかったが、金に余裕があれば、1つ2つ買っていたかもしれない。

「しかし、学院生のフィギアなんてどんな物だろう、手に入れてみたいものだ」

「「「ダメです!」」」

 早速、嫁3人から否定されてしまった。

「もし、エリス、ミュ、ラピスのフィギアがあったら、毎晩抱いて眠るのに」

「あら、そんな人形じゃなくて、本物でどうかしら?」

「旦那さま、遠慮なさらずとも」

「そうです、ご主人さま、毎日抱いて貰えるのなら嬉しゅうございます」

 俺はまた、地雷を踏んでしまった。

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