第185話 下敷きと定規

 ミスティは明るい子だ。とてもじゃないが、親がいなかったのが嘘のように明るい。

 そのミスティの後ろをいつもついて来る子がミントだ。二人は猫人と犬人なのだが、姉妹のように仲がいい。

 そのミスティが落ち込んでいる。

 いや、落ち込んでいる訳ではないのかもしれない。何か悩んでいるようだ。

 妹分のミントも、いつもは後ろをついて歩いているのに、最近は離れて歩いているようだ。

 ミントも気にしているのだろう。

 祭りが終わったので、ウーリカはシュバンカさんと一緒にキバヤシ領に帰って行ったが、ウーリカの態度もいつもと違う雰囲気だった。

 シュバンカさんも気にしていたが、ウーリカもシュバンカさんと一緒に行く事を望んだ。

 俺は自宅でため息をつく。

「旦那さま、今は静かにしておくのが最良ではないでしょうか」

 気にしたラピスが声をかけてくれる。

 ラピスはミュやエリスのような強力な魔法は使えないが、いつも気をかけてくれる。

 人の心の痛みが分かるのだろうか。その分、いつも優しい。

「ああ、俺もどうしたらいいか分からない。時間が解決してくれると信じたい。

 それと、ラピスはいつも俺の事を気にかけてくれてありがとう。

 ラピスが居るから俺は癒やされる」

「あら、そんな事をいつもは言わないのに。何かやましい事をしてます?」

「いや、してないから」

「ホホホ」

 ラピスが笑う。ラピスが笑うと場が和む。

 そんな時だ。侍女が来客を告げてきた。

 部屋に現れたのはミスティだ。

 いつものミントはいない。

「どうした、ミスティ?何かあったか」

「うん、ラピス姉さんに聞いて貰いたい事があって」

「そうか、では俺は席を外そう」

 部屋にラピスとミスティだけを残し、俺とエリス、ミュは別の部屋に移動する。


 隣の部屋に移動して、侍女にお茶を炒れて貰うと、エリスが話し掛けて来た。

「ミスティの聞いて欲しい事って何かしらね。ちょっと、話声を聞いてみない?」

「エリス、お前は神なんだから、ちょっとは分別をつけろよ。こういう時は見守ってやるもんだ」

 エリスが黙った。

「……」

 俺はエリスの後ろに回り、脇の下から爆乳を揉んで、

「エリス、お前は一人で魔法を使って聞こうとしていただろう。まったく、なんてやつだ」

「ああ、分かったわ、もう聞かないから、でも私の身体に火を点けた責任は、取って貰うわ」

「エリスさまだけ、狡いです」

 ミュがウルウルした目で見つめてくる。

 そこのところに、よちよち歩きのアヤカが来た。

 俺はさっと抱き上げ、片乳を出したエリスの乳首を含ませた。

 アヤカは元気いっぱい、乳を飲みだす。

 離乳食も初めてはいるが、母乳もまだ飲んでいる。

「ああん、もう、仕方ないわね」

 エリスは両方の爆乳を使って、アヤカとホノカに授乳している。

 ミュもアスカを抱いて授乳し出した。

 シンヤ、危機一髪。とりあえずこの場は回避できたが、恐らく今夜のベッドでは嵐が吹き荒れるだろう。

 また、明日は有給休暇になるかもしれない。

 子供たちの授乳が終わったところに、ラピスとミスティが入って来た。

 授乳を終えた子供たちは欠伸をし、眠りだす。

「ミスティ、話は終わったか。ちょっとは、気が晴れた顔をしているな」

「ええ、ラピス姉さんに聞いて貰ったら、なんだかすっきりして。やっぱりここに来て良かった」

「そうか、ミスティの気が納まったのなら、それでいい」

「シンヤ兄さま、もし北の国に行く事があったら、絶対一緒に連れて行ってください。その時はウーリカ姉さんも一緒に」

「今、ウーリカ姉さんと……」

「ええ、ミントにはサリー姉さんと私がいるわ。私だって、サリー姉さん以外にも姉さんが居てもいいのかなって」

「そうだな、その通りだ。付け加えるなら、ミスティとミントには、それ以外にもエリスやミュやラピスが居る。みんな、お前の姉さんだ」

「そうよ、私たちはあなたの姉さんよ、大体、神と悪魔を姉さんに持つなんて、この世界で誰が居るの?」

「ラピス姉さんの言う通りだわ。私たちは世界で一番の家族かもしれない。ラピス姉さん今日はありがとう」

 ミスティは晴れ晴れとした顔で帰って行った。

「ラピス、何があった?」

「えへへ、それは女の子の秘密です」

「何だ、その笑いは、まるで悪い事をしているみたいじゃないか?」

「いいじゃないですか、夫婦でも秘密はあるものです。そう、旦那さまの国では『下敷きよりも定規あり』って言うらしいじゃないですか?」

 パッとエリスを見ると、エリスがサッと目を反らした。

「エリス、何を教えた?」

「え、えっと、……」

 俺はエリスの頬っぺたを両方から摘まんで横に引っ張る。

「いひゃい、いひゃい、ごえんなひゃい」

「エリス、今晩お預け」

「えー、私だけお預けは嫌!」

「ラピス、それは『親しき仲にも礼儀あり』っていうのが正しい」

 まったく、この駄女神は何を教えているのやら、子供たちが変な諺とかを覚えたらどうするんだ。

 ミスティは前の明るさを取り戻した。それはウーリカがここに居ないので、実感がないというのもあるだろう。

 片や、ウーリカはどう思っているのだろう。

 シュバンカさんがウーリカの支えになってくれる事を期待しよう。

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