第175話 ムンス
ラピスが答える。
「まず嫌ですよね、それと破壊してもいくつあるか分からないと気が散ります」
「その通り、相手はそれを破壊しながら行軍してくるとなると、ここらあたりではかなり、イライラしているだろう」
「もし、撃ち漏らしているかと思うと更に不安が募ります」
そんな話をしている所の足下をギルバゼット伯爵を先頭とする軍団が通り過ぎて行く。
「どうやら、敵さんはイライラのまま、罠に入ってくれたぞ」
陽も水平線に落ちようとしている頃、輜重隊の後ろから声がした。
「かかれっー」
その声に押されるように、輜重隊へザンクマン軍の副将オイキミルの率いる一派が、躍り掛かる。
「どうした?何があった?」
エリスの魔法で相手の話し声が、離れた俺たちにまで聞こえる。
「はっ、どうやら、輜重隊が襲われたようです」
「ムンスっ」
「はっ、ここに」
「輜重隊が襲われると、この先困る。行って対処してこい」
ムンスと呼ばれる悪魔の男は背中から黒い翼を出すと、空に向けて飛び立った。
「よし、俺たちも行くぞ」
エリスが魔法陣を広げた。
俺たちが輜重隊のところに転移した。
「引けー、引けー」
輜重隊を襲っていたオイキミルの軍団が速やかに引いて行き、残されたのは俺たちだけになった。
ミスティとミントは高台のところに残している。
輜重隊の襲撃はこの悪魔、ムンスを誘き出すための罠だったのだ。
空を飛んで来た男が俺たちの前に降り立った。
「ほう、こんなところで同族に会うとは思わなかったな」
「ギルバゼット伯爵に勝ち目はありません。今ならこちらに就けば罪は問いません。直ちに投降しなさい」
「ふっ、俺は別にギルバゼット伯爵に恩がある訳じゃない。相手がキバヤシだと言うので、協力しているだけだ」
「既に500年前の事です。今更キバヤシを殺してもどうにもなりません」
「500年前、俺は生まれてまだ5年程の若造だった。そこにキバヤシが襲って来て、母親を殺された。
俺はキバヤシを殺すまでは、気が済まないのさ」
そう言うと、ムンスは剣を抜いた。
「もう一度言います、この軍では勝ち目はありません。直ちに引くように言いなさい」
「俺にとっては軍が勝とうが負けようがどうでもいい事。俺の目的はキバヤシの命だけだ」
「ご主人さまに刃を向けるのは、私が許しません」
ミュとムンスが同時に走り出し、剣を上段から打ち降ろす。
「キィーン」
剣と剣が打ち合い、その反動で二人が間合いを取る。
ムンスの剣は青銅製なのか、刃こぼれが見えるが、ミュの剣は鉄製なので、刃こぼれはしていない。
「なかなか、いい剣を使っているようだな」
「……」
ミュは答えない。
「ファイヤーブレード」
ムンスは炎を出して、剣を包むと、刀身が火を噴いている。
ムンスはその炎の剣でミュに切り掛かると炎が散って、一部がミュに燃え移る。
その時だ、マリンちゃんのウォターボールが飛んで行き、ミュについた火を消す。
「ほう、なかなか面白い魔法を使えるやつが居るようだな」
「ファイヤーボール!」
ムンスが左手をこちらに向けて叫ぶと、3mぐらいの炎の球が飛んで来る。
「ウォーターウォール」
今度はマリンちゃんが叫ぶと、目の前に水の壁が現れ。火の球を遮った。
しかし、その水の壁も火の球によって、蒸発していき、白い水蒸気で真っ白になる。
その白い中に赤い点が4つ見える。
ミュとムンスの目が暗視モードになっているのだ。
ミュとムンスは何度か打ち合うが、何度目かの時、ミュの剣が折れた。
「ピキーン」
「いい剣だったが、限界だったようだな」
ミュは持っていた剣を捨て、カイモノブクロから、白く輝くオリハルコンの剣を抜く。
「おいおい、そんな裏技があるのかよ。まったく、フェアじゃねぇな」
このムンスという男、ミュと違いかなり饒舌なようだ。
炎の剣、ファイヤーブレードを持ったムンスとオリハルコンの剣を持ったミュが、再び対峙する。
二人が同時に走り出し、剣と剣が交差した瞬間、今度はファイヤーブレードが折れ、一筋の炎が空中を舞い、地面に突き刺さった。
地面に刺さった刀身の炎は燃え尽き、剣は砂のように崩れ去った。
「ファイヤーボール!」
ムンスはまた3m程の炎の塊を出すとミュに向けて投げつけるが、ミュはそれを剣で弾く。
「ほう、その剣はただの剣ではないらしいな」
「……」
ミュは相変わらず無言だ。
「ファイヤーアロー!」
ムンスの両手から10数本の炎の矢が表れ、ミュに向かって飛んでいくが、ミュは剣で弾く。
弾いたうちの1本がこちらに向かって飛んで来た。
「聖バリア」
エリスが強い聖結界を張ると、向かって来た炎の矢は結界に弾かれて消えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます