第169話 大会議
会議の趣旨について、俺の方から説明を行う。
「と、言う訳です。冒険者の不足は魔石の不足に繋がり生活への影響が懸念されます。
一方、農業人口の減少は食料危機の懸念も含んでいます。
かと言って、人口が減少している訳ではなく、特定の職業への偏りが問題なのです。
この2点について議論するために今回は集まって貰いました。
まずは、労働人口の方から議論したいと思いますが、その前に農業労働者について説明してくれ」
アリストテレスさんが農業労働者について説明する。
「現在、農業に従事している労働者はヨコハマ地区、ショウナン地区とそれ以外では事情が異なります。
まず、ヨコハマ地区、ショウナン地区以外から説明しますが、これらの従事者は未だ奴隷であり、その多くは獣人です。
従って、彼らの意思による離職はないので、農業人口の減少はありません」
「問題は、ヨコハマ地区、ショウナン地区についてです。
こちらはキバヤシ会長の領土であり、奴隷解放を行いました。このため、職業が自由に選択できるようになり、一部の奴隷だった獣人が農業を離職し、他の職業への転職を考えているようです。
考えていると言ったのは、未だ具体的には表立っていないというだけであります。
時間が経てば離職者が増える可能性は高いと推定します」
「現在の農作業は、ほとんど人手です。これを道具を使って効率化するよう手配中ですが、全てを効率化することはできません。
これは一時凌ぎにしかならないでしょう」
「では、農業従事者がいきなり街の店員になれるかと言ったら、読み書きそろばんを始めとする職業訓練が必要となりますので、直ぐに使い物になる訳ではありません。
これは、他の運輸、建設、服飾などにも当てはまります」
「ヨコハマ地区、ショウナン地区の農業労働者に聞き取り調査を行った結果ですが、ほとんどの獣人は読み書きそろばんはできません。
農業を離れて就きたい職業を尋ねると、ミュ・キバヤシ店の店員が一番多い結果となりました。
この回答者の中には、女性だけでなく男性も含まれています」
「店員になるには、どのような勉強をしているかという調査では、ほとんどが何もやっていないという回答でした」
「このような結果から、店員は一番目につく職業であり華やかなので、一種の憧れのような職業です。反対に、その店員となるための訓練はどのようになっているか分からないし、やっていないと結果になりました」
単に憧れだけで、転職したいのか?
CAやパイロットに憧れているが、特に勉強はしていないと……。
うーむ、誤解を解けばそれで済むならいいが。
「今の内容からすると、単に他の職業に憧れているだけと、いう風に聞こえますが」
ガルンハルトさんが早速、言ってきた。みんな同じ意見なのか、頷いている。
「今まで、公都に行った事がない獣人ばかりです。それが、祭りとはいえ、公都の華やかさを体験したら、地方で大人しく農作業をやっていられないと言うのが、獣人たちの意識のようです」
キロルドさんが付け加える。
「私たちは、商人としてギルドに登録してから、大店で丁稚奉公を3年ほどやりました。その間に読み書きと計算を習得する訳です。
それにミュ・キバヤシでは更に接客対応とそろばんをやります。
接客は3か月の訓練。そろばんは未だに練習の毎日です。
その訓練があっての表の華やかさです」
フェイユさんが、店員としてのスキルを説明する。
「昨日まで田舎で農業をやっていた者が、公都に出てきたからと言って、直ぐに店員にもなれないし、もしなるとしても3年以上の訓練が必要であるという事、そして一番の問題は、表の華やかさだけで、判断している、つまり誤解しているという事だ。
それでは、この誤解を解いてやればいいのだが、どうやって解くかが問題だ」
俺が話をまとめる。
「いっその事、都会に出たいやつは、出してみたらどうでしょうか?」
ウラジミールさんが、大胆発言した。
「都会に出て、現実を知れば、農業に戻ってくるんじゃないでしょうか?」
「だが、都会に出ると言って出て来て、ダメと分かったからと言って素直に農業に戻るでしょうか?
一度出た手前、戻るに戻れなかったり、自信のあるやつは会社側が自分の能力を分からないんだとか言って、最悪犯罪者になったりしないか心配です。
犯罪者になると否応でも奴隷となって、農業に逆戻りですけど」
アールさんの意見も一理ある。
「俺は、自分の領土の領民を犯罪者にしたくない」
「それは誰だってそう思っていますが、ある一定の割合で犯罪者が出てくる事も考慮しておかないといけません」
アリストテレスさんは現実的だな。
「人手不足というのは、農業だけではありません。
キバヤシコーポレーションは、現在凄い勢いで事業を拡大しており、グループ企業全体で慢性の人手不足の状態です。
従いまして、休日出勤や時間外もかなりの量になっており、まだ表立ってはいませんが、従業員の不満が募っています」
なんと、当社はブラック企業になりつつあるというのか。
労働不足は農業や冒険者だけでなく、全体の問題だった。
「労働力の確保の目途はあるのか?」
俺は誰に訪ねるともなく、言った。
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