第87話 旧ロイスリッチ領
ヘビーアナコンダは食用になるということで、カイモノブクロに回収した。
そして、森を抜けると、旧ロイスリッチ伯の土地に着いた。
早速、キロルドさんが出迎えてくれる。
「お待ちしておりました、ご主人さま」
「ああ、わざわざ出迎えして貰って悪かった」
ミュが俺の前に出て来て、キロルドさんに向かって、
「ご主人さまと呼んでいいのは私だけです。他の人は『ご主人さま』以外の呼び名で呼んで下さい」
「分かりました、ミュ奥さま。では、何と呼べばよろしいでしょうか?」
「ご主人さま以外なら何でも良いです」
「それでは、『殿』ではいかがでしょうか?」
「それで結構です」
「ダメです」
「ご主人さまダメでしょうか?」
「俺は『殿』なんて嫌だ」
「困りました、では何と?」
「シンヤさんでいいよ」
「それはあまりにも恐れ多い……」
「いや、それでいいから、『殿』なんて呼ばれるより、よっぽど良い」
「こちらは、この耕作地全般の面倒を見ている、アリストテレスという者です」
たしかアリストテレスって、古代の偉大な学者の名だろう。
「アリストテレスは農作物の品種改良や害虫対策、放牧の牛などの栄養改善など様々な農作物に対する改良と、それから作られる製品の開発もやって貰っています」
やっぱり、学者だ。
旧ロイスリッチ伯領だった土地は農作地の入り口に村があり、そこから見渡す限り広大な畑が東側に広がっている。
畑はなだからな丘状が続いており、北海道に似ている。
南側は湿地が広がることからこちらは田んぼになっているそうだが、田んぼの割合は畑に比べて8:2ぐらいの割合で、圧倒的に畑が大きい。
畑の先は放牧地になっているが、そこはもうここからは見えない。
歩くと余裕で1日は掛かるそうだ。馬車でも半日ぐらいとのことだった。
さすがに毎日、帰ってこれないので、放牧地の入り口に部落があるとのことだ。
部落は3つ程があるらしい。
キロルドさんやアリストテレスさんが居るところは、この領地のいわば村都という感じだ。
もちろんのことだが、部落の方に住んでいるのは獣人奴隷たちだ。
俺の領地になってから、奴隷はなくしたが、獣人たちはそのまま居る方が食べていけるので、居残っている。
この旧ロイスリッチ伯領はアリストテレスさんも居たこともあり、比較的豊穣な土地だったらしい。
キロルドさんとアリストテレスさんに戦争が近い事を伝えると、
「やはり、そうですか」
と言って来た。
「やはりとはどういうことですか?」
「ロイスリッチ伯がラピスさまとの結婚を望まれたのは、ハルロイド領の侵攻を危惧してのことです」
「ロイスリッチ伯はハルロイド領が攻めて来る事は知っていたという事ですか?」
「あれは、猫人の女が領主さまを訪ねて来た後のことです。
猫人の女を見送った私を見つけ、『キロルド、他の領主がここエルバンテ領に攻めてきたらどうなると思う?』と聞かれた事がありました」
猫人の女とはウーリカの事だろう。
「その時私は『相手にも寄りますが、いきなり攻めて来る事がありますでしょうか』と答えたような記憶があります。そして、その話はそれっきりでした」
その話が本当なら、ハルロイド公はかなり前からここエルバンテ領を狙っていたということだろう。
「その後からです。領主さまがラピスさまとのご結婚を望まれるようになったのは」
ロイスリッチ伯もロイスリッチ伯なりに、この領地の事を考えていたということか。
今更、その話を聞いたところでどうにもならないが、もし、その時点で知り合っていたなら、こんな結果にはなっていなかったかもしれない。
家宰だったキロルドが嘘を言ってるようにも思えない。
キロルドには、もし戦争になって敵軍に攻め込まれるような危険があるときは、さっさと逃げ出して、トウキョーの方に来るようにと告げた。
「アリストテレスさん、トウキョーの方に来て、様々な研究を行ってみませんか?」
「それはご命令ですか?」
「いえ、お願いです」
「あなたは領主ですし、エルバンテ公の婿でこの領土を継ぐ人でもあるのに、なぜ命令でなく、お願いなのですか?」
「アリストテレスさんには、いろいろな研究開発をやって頂きたいと思っています。
中にはアリストテレスさんの意思に反する研究もあるかもしれません。
ですが、それは俺を信じて頂ければと思っています。なのでお願いするのです。
信じて貰えないならお断りして頂いても構いません」
「なんか、判ったような判らないようなお答えですね」
「面目ないです、話をうまく伝えられなくて」
「ロイスリッチ伯は領土を拡張するには、奴隷は必要とするお考えの方でしたが、決して奴隷を足蹴にすることはなかった。
その証拠に、ここに居る奴隷は誰一人として飢えておりません。
それに私には農作物の品種改良とかをやらせて頂き、生産性も向上させた。
あなたが、ロイスリッチ伯と違う方法でこの領土を盛り立てて行くというなら、私もそれに一枚乗りましょう」
「ありがとうございます。では、後日迎えに来ましょう」
「いや、それには及びません。私の荷物といえば、竹籠1つぐらいですから、ちょっと待って頂ければ直ぐに出発できます。
それにご主人さま…、失礼、シンヤ殿も早い方がよろしいかと思いますが、いかがです?」
30代半ばと思われる独身の男が、研究者として来てくれる事になった。
ホーゲンの帰りのキチン車には5人でトウキョーを目指す。
砂漠に寄って硝石を回収し、キチン車に積んで行く。
トウキョーに着くまで、鳥車の中で、アリストテレスさんに今までの俺の事を全て話した。
もちろん、転生者であること、悪魔と女神と公女さまが妻であること、獣人たちとの差別を無くしたいこと、知っている限りのことは話しておく。
俺の事を信じて貰うのに、隠し事は出来ないと考えていたからだ。
隠し事があれば、後でそれがバレた時、信頼が揺らぐ、揺らいだ信頼は元には戻らない。
だから、全て話した。
アリストテレスさんは最初はびっくりしていたが、最後には「ふん、ふん」と聞いてくれていた。
数日後、ホーゲンの操るキチン車は無事トウキョーに着いた。
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