第66話 結婚式
教会に入って支度をする。
その時、ちょうど教会の鐘が2つ鳴った。
式自体は鐘4つから開始だ。
それまでにかなり時間がある。
部屋で待機していると扉をノックする音がする。
扉を開けると、司教さまとグランドシスターが立っていた。
「何か御用でしょうか?」
「実はお願いがあって参りました」
司教さまとグランドシスターを部屋のソファに案内する。
「実は教会本部の教皇さまが女神エリスさまにお目にかかりたいとのことです。
それで、王国に行った時で構いませんので、教会本部にもご挨拶に出向いて頂けないかと」
エルバンテ公爵さまの兄上が国王であり、今回の結婚は国王にも連絡が入ってるため、そのうち、国王陛下にもお目に掛らねばならない。
その際に教会に行くのは吝かではない。
「分かりました。王国に行く時期は決まっていませんが、その際は教会本部にも立ち寄らせて頂きます」
「おおっ、ありがとうございます。教皇さまはエリスさまにお目に掛りたいと申されて、ここエルバンテに来られようとしたのですが、何分ご高齢でいらっしゃるのと教会本部を空ける訳にもいかないので、非常に残念にしていたところです。お伺い頂けるのは助かります」
「しかし、ミュは教会内に入れますか?」
「エリスさまが居れば、聖結界を解除できますから大丈夫でしょう。ただし、かなりの大騒ぎとなるかもしれません」
「司教さま、ご冗談は止めて下さい」
「ははは、これは失礼。前もって教会本部には電話で連絡を入れておきます。
聖結界が解除されたら、エリスさまが現れる前兆だということを」
「司教さま、あなたは結構いたずら好きですか?」
グランドシスターが笑い出した。
「その通りですよ、シンヤさま。司教さまはいたずら好きです」
「それではシンヤさま、結婚式の会場で」
そう言うと、司教さまとグランドシスターは去って行った。
結婚式の時間になった。
まず、俺一人で、参列者がいる中央の通路部分を、司教さまの居る祭壇に向かう。
しばらく後、扉が開いて白いウェディングドレスを纏ったエリス、ミュ、ラピスが並んで同じ通路を歩いて来る。
三人が祭壇の前に来た。
三人とも化粧をしており、普段以上の美しさがある。
試着の時は髪型もそのままだったが、今日は三人ともアップにしており、ベールも被っている。
司教さまの祈りに続いて、宣誓となった。
「シンヤ・キバヤシ、あなたは、エリス、ミュ、ラピスラズリィを妻とし、生涯愛することを誓いますか?」
「誓います」
「エリス・ルージュ、あなたは、シンヤ・キバヤシを夫とし、生涯愛することを誓いますか?」
「誓います」
「ミュ・ローズ・サイン、あなたは、シンヤ・キバヤシを夫とし、生涯愛することを誓いますか?」
「誓います」
「ラピスラズリィ・エルバンテ、あなたは、シンヤ・キバヤシを夫とし、生涯愛することを誓いますか?」
「誓います」
「神はここに、この者たちの結婚を祝福します」
列席者の一番前で見ていたエルバンテ公爵は目から涙が零れ落ちそうだ。
ラピスがチラッとエルバンテ公を見て、ニッコリとほほ笑んだ。
その瞬間、エルバンテ公の目から涙が零れ落ちる。
俺に続き、エリスとミュも軽く挨拶をする。
「シンヤ殿、娘を、娘を頼みましたぞ」
「はい、必ずや、幸せにしてみせます」
その後、教会正面から教会前広場に出て、集まった民衆に対してお披露目となった。
今日は、貴族、獣人にかかわらず、参列して良いとの公爵さまから御触れが出ていることもあり、広場はすごい数だ。
貧民街の獣人たちも後ろの方に見える。
きっと、エミリアさんたちも来てくれているに違いない。
貧民街の爺さんはどうだろうか?祝ってくれているなら嬉しい。
教会前の一段高いところから、お披露目する。
司教さまが出てきて、拡声器を使っての紹介が始まった。
「お集まりのみんなさん、それでは新郎新婦のご紹介を致します」
一度、周囲を見渡す。
「まず、新郎はミュ・キバヤシ店の会長であるシンヤ・キバヤシさんです」
広場全体に「おおっー」という声が木霊する。
新郎の名前は今日まで秘匿だったからだ。
「続いて第一夫人、エリス・ルージュ・キバヤシさんです」
「続いて第二夫人、ミュ・ローズ・キバヤシさんです」
「最後に第三夫人、ラピスラズリィ・キバヤシ・エルバンテさんです」
広場にラピスが、第三夫人であることが以外であるのか驚きが広がる。
公女さまなら、第一夫人が当たり前だ。
それが第三夫人なんてあり得ない。
しかも、相手は商人だ。納得できない貴族が多いだろう。
貴族からすれば、商人の第三夫人は妾に近い。
その時だった。
左斜め前方から赤い球と光るものがまっ直ぐこちらに向かってくるのが見えた。
が、それらが目の前で、何か見えない壁に当たると地面に落ちた。
ミュとエリスの二重結界だ。
ファイヤボールと矢だったが、矢じりの先端には毒らしきものが塗ってある。
「敵襲!敵襲!」
憲兵隊が叫ぶ。
広場は一瞬のうちにパニックになった。
「静まりなさい。今、ここで出て行くと犯人と見なされます。大人しく待機し、そのまま居るように」
拡声器で司教さまが叫ぶ。
その声が届いたのかパニックが静まりつつある。
「将軍!」
エルバンテ公爵だ。
「憲兵隊と協力し、不届き者を捕らえよ。なるべく生かしてここに連れて来い」
いつも温和な顔のエルバンテ公が物凄い怒りに震えている。
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