第50話 移住

 店を出て市場にあるという、フレッドさんの店に向かう。

 エリスおばさんに言われた所に、フレッドさんの店はあった。

 フレッドさんに、食堂へ卸した食材の余りや売れ残りを安く買いたい旨を伝えると、

「少しでも金になるなら喜んで売るよ」

 と言われたので、買うことにする。

 売れ残りのうち、夕食に使えるものがあったので、それは有難く使わせていただく。

 フレッドさんから買い取った食材は竹籠4つほどになったので、そのままエミリアさんのところに持って行った。


「シンヤさん、どうしました?」

「食材が手に入りましたので、お届けに来ました」

「いいんですか。こんなに貰って」

「知り合いの店の売れ残りを安く分けて貰ってものです。気にしないで下さい」

「分かりました、有難く頂戴します」

「ところで、少し、お話があるのですが、良いでしょうか」

 俺は獣人の子供を預かっていること、子供たちは別の場所で寄宿舎に住んでいること、世話人が不足しているを伝えた。

「それで誰か、面倒を見てくれるような人に心当たりはないでしょうか?」

「その施設は、まだ受け入れはできるのでしょうか?」

「それは可能ですが」

「でしたら、心当たりがあります。この町で捨てられた子供たちの面倒を見ている人がいるのです。その人を尋ねるといいかもしれません。

 その代わり、その面倒を見ている子たちも、一緒に引っ越して貰う事になると思います」

「分かりました、一度お会いしてみましょう」

 エミリアさんと一緒にその人、ルルシィさんの家に行った。

 ルルシィさんは40代だろうか、夫はおらず、捨てられたか親の死んだ子供を引き取って育てていた。

 子供は獣人が5人、人間が3人の全員で8人程だった。

 俺はここから鐘3つの距離にあるところに寄宿舎を建て、親のいない獣人を引き取り養育していることをルルシィさんに話した。

 そして、そこで世話をしてくれる人手が不足して困っている事も話す。

「そういうお話なら分かりました。子供たち共々移住させて頂けるなら、お受け致しましょう」

 移住となると子供たちへの説明や、少ないながらも持って行く物もあるということで、1週間後に出発することとした。

 今後貧民街で、親に捨てられりして、子供の生命が危険に晒される時はエミリアさんから連絡して貰い、その都度、俺が引き取ることになった。


 1週間後、朝早く馬車でルルシィさんの家に行くと、子供8人とルルシィさんより若いと思われる女性が居た。

「シンヤさん、私の妹ですが、話をしたところ、一緒に行きたいと言うので連れて行きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろん構いません。人手があるのは助かります」

 結局、10人が馬車に乗ることになったが、荷物もなかったので全員が馬車に乗れた。

 前回と同様に昼過ぎに寄宿舎に到着し、アロンカッチリアさんに紹介する。

 アロンカッチリアさんも8人相手に手いっぱいだったので、非常に喜んでいた。

 やはり、このような仕事に女性の力はかかせない。

 しかし、課題がない訳でもない。勉強を教える講師がいないのだ。

 学院の教師に相談してみよう。

 サリーたち前から居る子、今度来た子、アロンカッチリアさん、ルルシィさんたち全員で昼食を採った後、アロンカッチリアさん、ルルシィさんを含めて話し合いをした。

 塾長をそのままアロンカッチリアさんにやって貰うことになり、サポートにルルシィさんと妹のマルガさんが就くことになった。


 主な話が終わった後の雑談の時に、染色技術を持っている人とフェンリルの体毛を加工できる人を探している旨を話したら、アロンカッチリアさんから有益な情報を得ることができた。

「染色技術なら、南街に住んでいる『ルネサス』という男がいいだろうな。フェンリルの毛の加工だと、魔物の部位の扱いに優れたやつで『サロイデリア』という男が北西街に住んでいる」

 貴重な情報だ。探してみる価値はありそうだ。


 次の日、南街で『ルネサス』と言う男を人に聞くと、直ぐに判った。有名な男のようだ。

 南街は生地の生産で有名なところで、染色も併せてやっている街だ。

 彼はそこでも有名な染色技師のようだ。

 アロンカッチリアさんから聞いて訪ねて来たことを言うと、

「そうですかい、師匠からの紹介じゃ、話を聞かない訳にもいきませんや」

 俺がミュ・キバヤシの店の会長であり、服の色を出すのに困っていることを伝える。

「話は分かりました。俺もあの店の事は知っているし、黄色のワンピースを販売した時はセンセーショナルでしたね。

 黄色以外の販売も考えているのでしたらやってみましょう」

 と、快諾してくれた。

「ただ、問題もあります。ここでは場所が狭くて、複数の色を出す調合をやれません」

「私の敷地に研究所を建てました。そこなら数種類の調合ができると思います」

場所を説明して訪れて貰えることになった。

 弟子も二人居るとのことで、全員が来てくれるそうだ。


 次は北西街の『サロイデリア』と言う男を訪ねる。

 近所で家を聞くと「あそこだよ」と指を指された先の家のドアをノックした。

 出てきた男はドワーフだった。顔が赤く酒臭い。

 ルネサスさんと同じように、アロンカッチリアさんから聞いて訪ねて来たことを言うと

「師匠からですかい?ですが、あっしにとってはもう師匠でもないし、関係のないことですがね」

 アロンカッチリアさんの過去は聞いていないが、どうもなにかの師匠だったらしいことが分かる。

 とりあえず、話を聞いて貰うことになったが、

「ふむ、話は分かったが、問題もある。いや、実は酒代の借りが貯まって銀貨10枚ほどあって、それを返さないといけねぇ。給料の前借りできるならいいけどよ」

「では、私も条件を出します。金だけ取られて逃げられては困りますから、私の研究所の方で作業をやって貰います。いいですね」

「そこで酒は飲めるんかい?」

「夕食時にお酒が飲めます。それ以外は飲めません」

「シケてるなぁ。まあ、無いよりマシか。分かった受けよう」

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