第39話 開店準備

 購入した土地の方には建物を3棟建てることとしたが、土魔法を使って3棟とも1日で出来た。

 後は屋根部分を造る作業が残っているが、こちらも半分ほど出来ている。

 3棟の内訳は一つは工場、もう一つは研究所、最後は学院だ。

 ただし、こちらの学院は人間専用とした。

 獣人への風当たりは強い。同じ屋根の下で学ぶには時間が必要だろう。

 学院は全寮制で、15歳から3年間、読み書き、計算、裁縫、料理などを勉強して貰う。

 もちろん接客訓練も行う。

 最後の半年ぐらいは店での研修を行うが、基本、缶詰となる。

 ただし、安いが賃金も出すので、個人で必要なものは市場で買ってくればいい。

 学院の定員は30人だ。


 工場は現在仕事を出しているお針子さんたちを集めて、流れ作業で仕立てていくようにしてある。

 工場長はエイさんにやって貰うことにした。

 エイさんは、このお針子さんたちの中では、元々取りまとめ役のボスみたいな感じだったので、丁度良かったかもしれない。


 研究所長は俺が務める。ただ、研究員はまだいない。今後募集しなければならない。

 研究所は、とりあえず染色から行っていく。

 服が白と黒しかないことは述べたが、黒い服は白い服を染色しているとのことだったので、それなら他の色も出せるはずだと思い、染色の研究を行う。

 ただ、問題はカルチャーの事だ。

 教会が黒と白以外認めないとか、そういうことがあると他の色の服は販売できない。

 現代だって、宗教的な趣旨で女性が着る服を制限されている地域があるのだから。


 学院は街とその周辺の村にも知らせを入れて、学生を募集した。

 その結果、30人程が集まった。

 ソウちゃんもその一人であり、ソウちゃんの友達や近所の子たちもいる。

 やはり賃金が出るというのが大きいだろう。

 学院は現代風のブレザータイプの制服を支給し、街への外出とかは制服着用を義務付ける。

 これは、言わばモデルも兼ねている。

 現代でも制服マニアは居るから、この世界でも話題にはなると思う。

 ただし、心配もある。この世界の女性は下着がなかったため、皆足首までのスカートを穿いている。

 これが、ひざ丈のスカートになったら、カルチャーショックものだろう。

 しかし、話題にはなるだろう。PTAのとんがり眼鏡を掛けたおばちゃんがいないことを願う。

 学院生は下着から制服、作業服全てが支給される。

 ただし、下着以外は卒業時に返却して貰う。

 そのまま支給するほど、会社にも余裕はない。

 集まった学生は様々だが、裕福なところの子女はいない。

 ほとんどが、一般市民以下といっていい。

 中には貧民街出身の子もいた。


 学院の教師についても募集した。女子学院なので教師も女性のみだ。

 教師は5人程雇用し、その中の40代の女性に学院長を務めて貰うことになった。

 名前をエルザさんという。

 教師に応募してきた女性は商人ギルドに登録してあったので、読み書き計算は問題なかったが、ただ出来るだけではだめだ。

 採用については試験を行ったが、エリスに計算問題を見せたら、うんうん唸って全然だめだった。

 採点したら、30点という結果に本人は落ち込んでいたので、「やっぱ駄女神だな」と言ったらミュから、

「エリスさまは駄女神なんかじゃありません。立派な女神さまです」

 と怒られてしまった。

 そんなミュにエリスは「シンヤさまがいじめるー」とか言って抱きついている。

 何?この俺の疎外感。


 店をオープンするにあたり、計算にはそろばんを使うことにする。

 そろばんなんてこの世界にはないので、木工所のおやじであるイルクイントさんにそろばんを作って貰った。

 最初話に行ったら、

「また、あんか、今度は何を作れって言うんだ」

 と言われてしまった。

 とりあえず試作品を作って、出来たそろばんに改良を加え、現代のようなそろばんにした。

 イルクイントさんは「これは何に使うんだ?」と聞いてきたので、使い方を説明したら「俺も自分用に作ろう」とか言ってる。

 店員用、学生用、教師用、獣人の子供たちと予備を含めて100個ほどを注文した。

 そろばんについても、分業制を提案してみる。


 この分業制のメリットとして時間短縮があるが、もう一つ、部品を作る所ではそれが何に使われるか分からないところだ。

 そして販売についても契約を結ぶ。

 そろばんは、ミュ・キバヤシが独占的に販売することで契約した。


 そろばんについては、店員、教師は使えなくてはならない。

 それ以外にも仕入れや製造、警備担当にもそろばんを教え込む。全員で出来たばかりの学院の一室に集めてそろばんの練習だ。

 小学生の頃、そろばん教室に通っていた俺が教師を務める。

 最初から全員分のそろばんがないので、まずは30台ほど用意して貰い、店員、教師から授業を行っていく。

 それから、そろばんが出来上がるたびに仕入れ担当、製造担当、警備担当に教育していく。


 警備担当は文字の読み書きできない人も多いので、まずは読み書きから研修する。

「警備担当が、何で文字や計算ができないとだめなんだ」

 と文句を言う人も居たが、警備だけでなく、販売も担当して貰うのが、社の方針であり警備部長も承諾していることを伝える。

 その警備部長も大きな身体で研修を受けているのだ。

 その部下が研修を拒否できる訳がない。

 もちろん、社長であるアールさんやフェイユさん、それにイオゲルさんも研修を受けている。

 おかけで、アールさん時代からの店員も大人しく研修を受けている。

 先に研修を行った店員や教師に後から受講する仕入れ担当や警備担当に教えるようにさせる。

 こうすると教える方も勉強するし、どうやったら理解して貰えるか工夫するので、教える側のスキルも向上する。

 最も、そろばんだけでなく、接客研修なども併せて行っている。


 この方法には想定外があった。アールさん自らが講師役を買って出てくれたのだ。

 社長自ら教えるため、受講者は真剣にならざるを得ない。

 アールさんにすれば、一般の店員とのコミュニケーションが取れて良かったとの事だった。

 社長と一般店員の壁は上から見るより下から見上げる方が高いのである。

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