第38話 寄宿舎

 シーハの葉を採取して寄宿舎に帰り、運びこんだテーブルを囲んで今後の事について話し合う。

 アロンカッチリアさんは、落ち着くまでここに居てくれるそうだ。

 まだ、周辺の工事も残っているとのことだった。

 男の子たちは、獲物を狩って貰う事になった。

 女の子たちは畑仕事だ。

 サリーちゃんの両親は農家の奴隷だったそうで、サリーちゃんも農業のことは大体分かるとのことだった。

 マリンちゃんだけは、魚を採って来て貰うことになった。

 勉強については、アロンカッチリアさんが午前中、読み書きを教えてくれることになっている。

 とりあえず、指導教官が来るまではそれで生活して貰う。


「ただ今、戻りました」

 ミュが扉を開けて入ってきた。

 アロンカッチリアさんが早速聞く。

「それで、どうだった。水性アメーバは捕まえたか?」

「カイモノブクロに凍らせて入れてあります。直ぐに浄化槽に入れましょうか」

 アロンカッチリアさんはカイモノブクロを持って浄化槽のある地下に降りて行った。

 俺たちもついて行ってみる。

 ミュはカイモノブクロから凍った水性アメーバを取り出すと、浄化槽の中に放り込んだ。

 その上からアロンカッチリアさんが土魔法で蓋をする。

 浄化槽の中には水があるのでしばらくすると氷が解けて水性アメーバが活動を始めるだろう。


 食堂に戻って、ミュにどうやって採ったか聞いてみる。

「池を水魔法で凍らせて、風魔法で必要な部分だけ切り出して持ってきました」

 なんとも豪快な。ミュさん、あんたパッねえっすよ。


「ミュお姉ちゃん、ミュお姉ちゃんは悪魔なの?カリーのこと、食べちゃうの?」

 カリーちゃんがミュに聞いてきた。さっきの事が引っかかっているのだろう。

 直接、本人の口から聞きたい事はある。

 ミュが膝をついて、カリーちゃんと目線を合わせて、

「私はサキュバスという悪魔よ。でもカリーちゃんの事好きだし、食べることなんてしないわ」

「ええっ、ほんとにー、私もミュお姉ちゃんの事が好き。相思相愛だね」

 こんな小さい子に相思相愛なんて教えたの誰だ?


 馬車に積んできた食料とカイモノブクロに入れてきた食料を出すと、1週間分くらいはありそうだった。

 それ以外にもここらで採れる木の実や野菜、動物や魚もあるだろう。

 とりあえず自立して、生活できるようにならないと困る。

 エリスが、リビングに電話を取り付けた。

 もう一方はエリスが持っていることにした。

 エリスの電話は携帯型なので、持ち運びが利く。

 ほんとに、NT〇 D〇c〇m〇ってロゴが入ってないだろうな。


 だいぶ、日も傾いてきたので帰る事にする。帰りの馬車は3人だけだ。

 寄宿舎の前で子供たちが手を振っている。

 こっちからも手を振る。エリスなんかは見えなくなるまで、手を振っていた。

 エリスが涙を溜めている。

「どうしたエリス、センチになっちゃったか」

「……」

 エリスは答えない。恐らく言葉が見つからないのだろう。

 馬車で街の東門を潜るころは、すっかり帳が落ちていた。

 そのまま、アールさんの店まで行って、馬車を返すとセルゲイさんが居て、馬車を受け取ってくれた。

 アールさんにはお礼だけ言って、石畳の街道を我が家へ歩くと空に満点の星が見えた。

 星が集まっている所は天の川なんだろうか。するとここは銀河系?

 いやいや、他の銀河だって同じハズだから、もしかしたらアンドロメダかもしれない。


 家に帰り、テーブルに座るとエリスが聞いてきた。

「シンヤさま、ご飯にします、お風呂にします、それともします?」

「まずはご飯かな」

「えっー、そこは『する』って答えてよ」

 エリスが不機嫌そうに言う。ミュはコロコロと笑っているだけだ。

 ミュも「する」って答えてほしかったのかもしれない。

 その夜は我が家では筆舌に尽くし難い暴風雨がベッドの上に吹き荒れた事は言うまでもない。

 今回はマットが2つダメになった。


 翌日、アールさんの店に行くと既に閉店セールも終わって店の片づけに入っていた。

 従業員も在庫とか装飾品とか片づけている。

 アールさんが従業員を集めてくれて、店の明け渡しと、今後の体制について説明した。

 中には戸惑っている人もいるようだ。

 俺の方から、新体制と給料、休日とかの説明を行う。

 もちろん研修の件についても話をする。

 給料については原則現状維持、またボーナスによってはプラスもある旨を伝える。

 休日については、皆なんと受け取っていいのか分からないようだ。

 今まで、休日なんてなかったから仕方ないかもしれない。

 給料維持で休日が増えるのならば、働く側にとってデメリットはない。

 研修についても質問があった。

 これについては、カルフさんが答えたが、中には自信がないとの発言もあった。

 研修次第では裏方に回って貰うことになるとも伝える。

 その時点で残るか辞めるかの判断をして貰うことになったが、休日がある分辞める理由はない。

 結局は、全員がそのまま雇用契約を結ぶことになる。

 研修では顧客第一を徹底的に教え込むとともに、クレーマー対応なんかも併せて教育していく。


 新規募集についても、かなりの応募があった。

 特に女性の店員希望が多いそうだ。

 その理由の一番が、新しい服を着て接客できるからだという。

 ミュ・キバヤシの服はこの街のトレンドになりつつある。

 警備担当については、募集はせずにセルゲイさんが昔の冒険者や軍隊時代の後輩に声をかけて引き抜きしているらしい。

 募集するとどんな人が来るか分からないので、自分の知った人間でないと責任が持てないという理由は理解できる。

 彼も今は警備部長なのだ。店の運営にも関わっている。

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