第37話 マリン

「よし、じゃ、馬車の中の荷物を建物の中に運び込むぞ、動ける人は手伝って」

 みんな、一斉に動き出した。

 買ってきた魔石ポンプを井戸に取り付ける。これでいつでも水が使える。

 アロンカッチリアさんが建物について説明してくれた。

 魔石ポンプで汲み上げた水は、屋根にある貯水槽に一旦蓄えられるそうだ。

 そして水圧を利用して水道、風呂、洗面台、トイレに供給される。

 使用された水は最後に浄化槽に流れ込み、水性アメーバで浄化した後、川に排出されるとのこと。

 あと必要なのはシーハの葉だが、丘の裏手を降りたところにシーハの葉の群生地があるそうだ。

 そこで調達が可能なのか、後で見に行こうと思う。

 子供たちだけで行って危険な魔物が居たら困るからね。

 しかし、シーハの葉は人間には感じないが、シーハの花が魔物や動物が嫌がる臭いを放つそうで、シーハの葉が群生しているところには魔物は近づかないそうだ。

 獣人たちはどうなのだろうか?

 取り合えず、みんなで行ってみる。

 アロンカッチリアさんの話だと、群生地の先には20フぐらいの小川が流れているとのことだった。

 20フだと6mぐらいか。

 こっちの距離感には今一慣れない。

 シーハの群生地に着くと獣人の子供たちは、マリンちゃんを除いてみんな嫌な顔をした。

 やっぱり臭いがきついのだろう。

 サリーちゃんに聞いてみると「あんまり近づきたくない」とのことだ。

 マリンちゃんは、全然臭わないらしい。人間の鼻に近いのかもしれない。

 群生地を迂回して、小川のところに行ってみる。

 小川と言うから水深は浅いと思っていたが、かなりの水深があった。

 水が澄んでいるので川底が見えるが、おそらく2mぐらいはあるだろうか。

 子供たちが落ちたら大変だ。

 水の流れ自体は速くないので、魚釣りとかはできそうだ。

 大きな魚影がいくつも見える。

 川を見ているとマリンちゃんが、

「シンヤ兄さま、私泳ぎたい」

 と言い出し、服を脱ぎ始めた。

 この子はまだ5歳くらいなのに、肌がかさかさで、ところどころひび割れている。

 顔もきれいな顔なのだろうが、ひび割れのせいで、すっかり年老いて見える。

 髪も、水色の髪が煤けているように見える。

 マリンちゃんは服を全部脱いだ。腰から下が魚だ。胸は当然ない。

「ね、いいでしょう」

 そう言うと俺の腕の中からいきなり川に飛び込んだ。

「あっ」と思ったが、もう遅い。

 川の中を見るとまさに水を得た魚のように元気に泳いでいる。

 驚いているとマリンちゃんが顔を出した。

「シンヤ兄さま、水の中はとっても気持ちいいよ」


 いや、何より驚いたのはマリンちゃんだ。

 ヒビ割れがなくなって肌がキラキラ光っている。これが本当の人魚なのか。

 髪だって水色の髪がまぶしい。

 驚いているのは、子供たちも同じだ。

 美しいのだが、それだけじゃない。身体も変化している。

 サリーちゃんより大きいぐらいの背格好だ。

「マリンちゃん、身体大きくなってるよね」

「はい、地上に上がると余計な体力を使わないように身体を小さくしますが、水の中だとその必要がないので元に戻ります」

 えっと、胸も大きくて、立派です。やっぱりピンクの乳首がエロっぽい。

 サリーちゃんが、ホーゲンの目を両手で押さえている。

 ポールとウォルフもそれぞれ、ミスティとミントに目を押さえられている。

「マリンちゃんてほんとはいくつなんだい?」

「え、私、あと1か月で15歳ですよ、いくつだと思いました?」

「えー、5歳くらいかなと」

「ほんとにー?10歳もサバ読まれちゃった。15歳になったら成人ですから、マリンもシンヤ兄さまのお嫁さんになります」

 ギョギョギョ、大胆発言。

 俺、水の中で生活しなきゃいけないの?そんな事を思っていると後ろから声がした。

「ダメです」

「ダメです」

 エリスとサリーちゃんだ。

「シンヤさまには私とミュがいれば十分です。他の人が入る余地はありません」

「それは違うと思うけど、マリンちゃんが入るのはダメです」

「サリー姉さまはシンヤ兄さまにホの字だもんね。私とサリー姉さまが入ればいいんじゃない」

「それならokです」

「いや、だから、ダメなものはダメです」

「女神さまも嫉妬するんですか?」

 マリンちゃん、痛いところをつく。

「嫉妬じゃないわ、事実を言ってるのよ、家だってこれ以上住むのは無理だわ」

「それなら、住める家があればいいんですね。じゃ寄宿舎に住みましょう、みんなで住めるわ」

 エリスが黙った。

「俺が寄宿舎を建てたのは、みんなに技術を覚えて貰って、それでお金を稼いて寄宿舎を維持して貰うためだ。

 そして、行く行くは独り立ちして欲しいと思っている。

 今のままだと寄宿舎も維持されない、しかも俺が潰れるとみんなもまた前の生活に戻ることになる。それじゃダメなんだ」

 みんな浮ついたいた心が静まったのか、うなだれている。

「分かりました。私たちはここで技術をつけて、シンヤ兄さまの力になれるようにがんばります」

「ところで、マリンちゃん。そろそろ帰るから水から出てくれないか。そんなに大きくなると抱いて帰る訳にはいかないから、どうやって帰ろうか。また小さくなれるか?」

「えっと、足を出しますから大丈夫です」

 見ていると腰から下が足に変化していく。変化し終わったところで、エリスと一緒に引き上げた。

 陸に上がったマリンちゃんはとってもきれいだ。

 これを水も滴るいい女と言うのだろう。

 エリスが直ぐに服を渡して着て貰う。

 これで、男の子たちの目も解放された。

 足を出しても1日ぐらいは生活できるということだったので、とりあえずはそのまま生活して貰うが、念のために水の入った樽を用意して、好きな時に水分を補給できるようにしておいた。

 このことはアロンカッチリアさんもびっくりしたようで、「もう何があっても驚かねぇ」と言っていたが、その言葉、あと何度か言うことになるだろう。

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